ささえる

高崎市寺尾町 ひとりぼっちを地域と結ぶ『コミュオペ』のすすめとは?

『ぐんまおやこの時間』代表の郷かおりさんにインタビュー。彼女がすすめる「コミュオペ」とは何なのか?産前産後のケアや親子イベントの企画・開催を行う彼女に、このまちで暮らす全ての“親子”に伝えたい想いを語ってもらおう。

2019.04.20

高崎市と子育て

高崎市の子育て事情、当事者でないとわからない部分も多いですよね 今回はリアルなママの声をお届けします!

子育てに関わる人たちへ

少子高齢化が進む現代、子育て支援は地方都市の中でも重要な施策の一つとなっている。わがまちにとっても減少する人口問題は解決すべき課題であり、子供を安心して育てられるまちづくりは“暮らす場所を考える”上で大切なポイントだ。高崎市の取り組みとしては「子育てなんでもセンター」や「たかさき子育て応援情報サイト ちゃいたか」の運営、各種手当や相談窓口の設置などがあり、本年度からは妊娠期や就学前児童の家庭を対象にしたヘルパー派遣事業「高崎市子育てSOSサービス」が始まっている。まちが掲げる「出向く福祉」へ、積極的な取り組みが進められているのを感じるだろう。

行政・各事業団体の“子育てに関わる人”に向けた取り組みが年々活発になってきている社会の中で、「“子育てに関わる人”というのは誰なのだろうか?」と問いかけてみたい。夫婦、家族、地域、行政、企業……様々な考え方がある中で「地域で育てること」にフォーカスを当てた市民からのアンサーを、活動紹介と共にお伝えしよう。

仲良し家族の郷さん 娘さんは今年で三歳、元気いっぱい伸び盛りです!(写真:郷さん提供)

『ぐんまおやこの時間』

3歳の娘さんを子育て中の“現役ママ”である郷かおり(ごう かおり)さんは、昨年4月“子育てに関わる人”へ働きかける団体『ぐんまおやこの時間』を設立した。活動目的は「ひとりぼっちを地域と結び Community Operation(地域社会で子育て)ができる元気な親子を増やす」こと。リアルな子育て世代の視点から産前産後のケアや親子イベントの企画・開催などを行い、群馬で楽しく子育てができる仕掛けづくりをしていきたいという。

出産を機に、今の仕事スタイルを考えるようになった彼女には、子供をもってから気が付いた視点や発見があるようだ。近年問題となっている「ワンオペ育児」や「地域との繋がりの希薄化」に対して、このまちで暮らす全ての“親子”に伝えたい想いを語ってもらうとしよう。

『ワンオペ育児』の対義語はCommunity Operation……略して『コミュオペ育児』です。覚えましたか? テストに出ますよ!

夫婦でも家族でもなく「地域」と名付けた郷さん、ふか~い理由があるんです

新風

ミコカフェの店内 12時近くになると、多くの子連れママで賑わいます 目の前を走る電車に大興奮の様子(インタビューは大変)

今だから、ここだから、私だからできること

今回取材を行った場所は「安産・子育ての神社 山名八幡宮」の敷地内にあるカフェ『mico cafe(ミコカフェ)』。子育て世代で賑わうこのカフェは、かつて郷さんが働いていたお店でもある。今は、子育て世代をメインに“人と人とを繋ぐ活動”を行っている彼女に、地元のまちでの思い出と『ぐんまおやこの時間』を立ち上げるまでのルーツについて聞いてみた。

「駅から15分の大自然、“観音様”のふもとまち・寺尾町が私の生まれ育った故郷です。地元を出たのは2回――高校時代・2年半のイギリス留学と就職による転勤の時だけで、『地元で働きたい』『家族の近くに居たい』という想いは強くもっています」

現在も実家住まいだと自己紹介してくれた郷さん。“皆と同じことをしたくない”と旅立つ事を決めた留学先で、遠く離れた地元や家族の大切さを強く感じたそう。帰国後は短大・大学を卒業し就職。結婚を機に高崎のまちで暮らしはじめ、子育てと仕事を絡めた活動に取り組んでいる。

「『ぐんまおやこの時間』を立ち上げたきっかけは2つあって、1つは大学時代に学んだ教職課程。先生と生徒の“お互いの目線が違う関わり方”や、先生ごとに方向性が違う働き方、上下関係のようなものに違和感がありました。中学時代に留学を決めた時にも感じた、枠組みがあることによる窮屈さを感じたんだと思います。先生と生徒、大人と子供が同じ目線で教え/楽しめたらいいなと考えていました」

「ちょうどその頃、私は地域の子供と関わるボランティア団体『吉井VYS(Voluntary Youth Socialworker)』に参加していて。高崎市吉井町を中心に青少年の健全育成を目的に活動する組織で、子供向けの催し物や地域イベントのサポートなどを行っていました。これが、『ぐんまおやこの時間』立ち上げのもう1つのきっかけであり、私の“活動の根っこ”になっています」

「幼馴染に誘われてVYSの『ドッジボール大会』スタッフになった時、1年生から6年生までの子供たちが、和気あいあいと楽しんでいる姿――そして、先輩ボランティアさんも楽しみながら上手に運営している姿を見たんです。私自身が『また行きたいな』と思いましたし、地域の中で『どうしたら面白く暮らせるか』を考えることも楽しくて。あれよあれよと10年間、ボランティア活動を続けていました。自分たちが面倒を見ていた小学生も大きくなって、一緒にスタッフをやってくれるようになったり……“仲間が増えていく楽しさ”も教えてもらいましたね」

郷さんは「楽しみながら」「同じ志をもった仲間と共に」活動するために、『ぐんまおやこの時間』の立ち上げを決めたのだと説明してくれた。大人と子供が横並びになって、互いに楽しい時間を共有しながら学びあっていく。そんな未来を実現するための、新たな一歩だったのだ。

「VYSの企画で、巨大バケツプリンをつくったこともありまして……」と郷さん。そんなのワクワクドキドキしちゃいますよね!

「試作をあんまりしなかったので、重力に負けちゃいました」とのこと。チャレンジの際はお気をつけて、というこぼれ話でした(ギャグじゃないよ)

イベント中の郷さん 子供たちも真剣な様子です……! 和気あいあいと、一緒になって楽しむスタイルが大人気なんですよっ

ママの助けに

今年で設立1周年を迎えた『ぐんまおやこの時間』。活動の元となっているのは、郷さん自身の子育て経験だという。それゆえに、現在メインの活動となっているのは小さな子供をもつ親子向け。産前産後のケアやセルフケア講座・ワークショップイベントなどを開催する中で、郷さんが特に“力になりたい”と感じた熱い想いについて伺った。

「3年前、自分が初めて当事者(母)になってみて分かったことは……すごく疲れるということ!  元々体力がある方ではなかったんですが、娘の成長が凄く早くて、腰が痛くなったりと体の不調が出てきたんです。周囲の勧めもあって、身体のメンテナンスをしようとたどり着いたのがマタニティーセラピー(産前産後の方を対象にした、整体/予防エクササイズの指導など)でした。通常の整体では『産前産後のケアは受け付けていない』というところもありますが、マタニティーセラピストという専門家によるケアの仕方があることを知ったんです」

「整体でケアをしてもらうと、身体が元気になるだけでなく心の余裕もできるんですよね。私自身、余裕がなかった時は“優しくしたくても、優しくできない”ことを辛く思っていたので……子育てするパパもママも周りの全ての人が楽しく生活できる環境づくりのお手伝いをしたいなと思うようになりました。子育てで疲れて喧嘩してしまうパパ・ママが、身体のメンテナンスをすることで笑顔の夫婦になれたら、世界がちょっと平和になる気がしています」

自らの経験を糧に、マタニティーセラピストの道を進み始めた郷さん。今の彼女だからこそ見つけた問題意識があり、力になれる場所があったのだ。また、その視線が見つめるのは「お母さんと子供」「夫婦」といった小さな繋がりだけでなく、家族を中心にした大きな繋がり――地域やまちへと続いていくのである。

「私の友人や保育園のママ友はよく『夕飯の時でも遊びに来てよ』って言うんですよ。『夕飯時なんて、お邪魔じゃないかな?』って思いますよね。でも、保育園から帰った後、旦那さんが帰ってくる8時9時までの間……皆、母子ども達だけ過ごすんです。夕飯の支度をして、子供にご飯を食べさせて、子供をお風呂に入れて、寝かしつける。それって、お母さんの仕事、当たり前でしょ?と思われるかもしれませんが、体力的にも精神的にも大変なことなんですよね。だからこそ、友達が来てくれて一緒にご飯をたべたり、子供をお風呂に入れることができたら、それだけでゆとりが生まれる。私の周りではそうした状況のお母さんはかなり多いです」

「実家で暮らしながら家族で子育てをする私、自分たちの力を主に子育てをしている周りのお母さん達、それぞれ大変さはありますけど、『ワンオペ育児』や『見知らぬ地域で子育て』を体験しているわけではありません。日々思うのは『誰にも辛いことを言えないお母さんは、どれほど大変なんだろう』ということです。高崎のまちには結婚や転勤で引っ越ししてきた家族も多いと思うので、少しでも周りに気にかけてくれる人がいる環境づくり・地域で子育てができる社会をつくっていけたらいいなと思います」

「そうすればきっと、高崎で暮らす人も増えますよ」と笑う郷さん。彼女自身が経験したから分かること、経験していないから気遣えること――それらすべてを広い視点で掬い上げ、おやこの気持ちに寄り添いながら活動を続けている。

産前産後のケアに興味がある!という方は、お気軽に郷さんへ連絡してみてくださいね。優しくわかりやすく、説明してくださいます◎

「なかなか勇気がでないよ~」という方は、イベントや出張整体の時がチャンスです!

親子の時間を整える

お母さん同士の交流の場をつくりながら、イベントやセミナーを行っているそう 
おやこの時間だけでなく、同じ子供をもつお母さん同士、お父さん同士の時間もつくっているんですね

つなぐ、つながる

「身近な人の力になりたい」と始めた活動が、ママ友やイベントに関わる人を通じて広まっていると感じたという郷さん。今後はより、“人と人とを繋ぐ活動”に力を入れていきたいという。実際に『ぐんまおやこの時間』として取り組んでいる活動の紹介と共に、“人と人とを繋ぐ活動”の未来を聞いてみよう。

「『整体』や『イベント企画』というのは、『家族が楽しく暮らせるようにする手段』の一つ。本当に大事にしていることは“人と人とを繋ぐ”ことなんです。整体は『私とお客さん』1対1のやり取りですし、イベントで私一人が関われる人数も限られたものです。そこで『郷さんと繋がれば大丈夫だよ』と思ってもらえるように、私が『子育てに詳しい人』や『困りごとを解決してくれる人』に繋ぐ役割を果たせればいいのかなと思っています」

「私が関われる人だけにならないよう、仲間をつくっていきたい」と話す郷さん。つなぐ、つながる活動の大切さに気が付いた時の、『ぐんまおやこの時間』として活動し始めた中の1コマを紹介してくれた。

「整体のコースの中に、多人数で行う『セルフケア講座』というものを用意しています。数組の親子を集めて、身体を整える方法をレクチャーしていくんですね。その講座の後、皆でお茶や食事を共にすると、自然に親同士が仲良くなっていく光景を目にしました。『こんな事が子育てで困るよね』『うちもそうだよ』『わかるわかる』――そんな会話から始まって、家族同士がつながるのを見て『私のやるべきことは、これだ!』と思ったんです」

「例えば、子育てにまつわる健診や申請のちょっと分からないことや困ったことって、仕事をしている旦那さんは職場で気軽に聞けても、近所の人も知らない1人ぼっちのお母さんは聞くことも頼ることもできない。皆がみんな、地域交流があったり児童館やイベントに足を運ぶわけじゃないですもんね。そんなお母さんたちがコミュニティに溶け込めるような方法を、『行ってみたいな』と思えるような場づくりをしたいと考えています」

郷さんの取り組みは、多くの人を巻き込みながら広まっていく。1人の力で1人を支えるのでなく、皆の力で皆を支えたほうがずっといい――家族や地元を愛する彼女らしいやり方だと感じた。

「最近では、お母さんの自立を目的に“小さな成功体験”ができるイベントも開催するようにしています。私は過去に子供のスタイ(よだれかけ)をつくっていたことがあるのですが、自分のつくった商品が売れる・人に喜んでもらえるという体験は励みになりますね。凄く素敵なハンドメイド作品をつくれるお母さんも自信がないことが多いので、初心者でも出店しやすいイベントができるように心掛けています。“小さな成功体験”が、いつかお母さんたちの背中を押してくれる力になればと思います」

笑顔が素敵な郷さん インタビューには載せきれなかったオモシロ話もたくさんあります
ぜひ、郷さんのイベントに参加してみてくださいね 一日笑顔でいられること、マチガイなしです!

全てのおやこへ

本インタビューでは、主に“小さな赤ちゃんのいる親子”に向けた取り組みを紹介してきた。イベント運営、整体、ワークショップなどを「自分には関係ないな」と感じた人もいるかもしれない。そんなあなたに向けて、郷さんが『ぐんまおやこの時間』という名前に込めた想い――このまちで暮らす全ての人につながる“子育て”の話をお伝えしたい。

「『ぐんまおやこの時間』は、“赤ちゃんと親の時間”だけではなく“すべての年代のおやこの時間”を大切にする取り組みをしていきたいと名付けた名前です。学生と親の関係でも、大人になった後の親子関係でも。いっぺんにはできないので、私と同じ立場の人から輪を広げているんですよ」

「これから挑戦してみたいのは、地域のイベントを盛り上げること。注目しているのはお祭りです。規模は様々ですが、普段は参加しない世代にも興味をもってもらえるようにしたいんです。また、育成会も各地域で縮小傾向にあるので、継続・拡大させていきたいなぁと思っています。『役員は大変』という“呪い”を解いて、今の生活スタイルに負担をかけない在り方をつくっていきたいです」

「周りの人とかかわりがないことほど、寂しいことはない……それはお年寄りも単身者も同じですから」と言葉を続けてくれた郷さん。彼女のイベントに遊びに来るのでもいい、イベントのスタッフを手伝うのもいい。郷さんが掲げてくれた想いを目印に、地域の中で繋がりをつくってみてはどうだろうか。

「私は、Community operation(地域社会で子育て)ができることを目指しています。イメージとしては、昔のまちの風景――商店街があって、『おかえり』と声をかけてくれる近所の人がいて、地域で子供を育てられる雰囲気。そのためには、住み慣れたまち/知らないまちというのは関係なく“自分で地域を住みやすくできるか”というのがポイントになってくるんじゃないかな? と考えています。同じ考えをもった人同士が繋がりながら、まちに元気な家族が増えて欲しいですね」

「ワンオペ育児」から「コミュオペ(Community operation)育児」へ。古き良き風景の中に新たな力を吹き込みながら、“皆で相談して”未来をつくっていけたらいいとメッセージはまとめられた。彼女の活動はまだ始まったばかりだが、温かい人の輪は確実にこのまちで芽吹き、広まっている。

まちは、大きな家族のようだ。時に密に、時に緩やかにつながりながら1つの未来をつくっていく。知らず知らずのうちにまちの“育児”に参加していたのだと、すべての人がそう思える日がくれば嬉しく思う。

 

ぐんまおやこの時間

Mail: gunma085time@gmail.com
Blog: https://ameblo.jp/gunma085time/
Facebook: https://www.facebook.com/gunma085time/

5月5日(日)「Oni GokkoにGo」開催!
GWに本気で鬼ごっこ!!参加者・スタッフともに募集中です(詳しくは下のリンクをクリック)

現在ホームページ準備中!「ぐんまおやこの時間」で検索してみてください♪

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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