ささえる

高崎市棟高町 水処理業が支える「まちのエネルギー」と共生社会

今回は『eneco株式会社』の石井さんに、畜産排水処理事業・電力事業を営む中で見つけた「このまちに眠るエネルギー」の掘り起こし活動についてお話を伺った。同じ地域で暮らす私たちが、自然と生き物と共生する未来について考えてみよう。

2019.09.02

高崎市の財産

やってきたのは高崎市……ではなく、前橋市の赤城山麓の大農場!! 群馬県の食に欠かせないお話をご紹介いたします

高崎市と自然の恵み

豊かな自然に囲まれたまち、高崎市。大地の恵みは私たちの暮らしを彩るだけでなく、このまちの畜産業にも好影響を与えている。群馬県内では「前橋市の赤城山南麓地域」や「高崎市の榛名山東麓地域」が主要畜産地帯とされており、全国的にも多くの牛や豚・鶏などが飼育されているのをご存じだろうか。豊かな自然、豊かな命。このまちの自然環境は“未来に残していきたい財産”といえるだろう。

しかしながら畜産分野には水質汚染や臭気など、環境問題がつきものである。普段目にする機会の少ない、畜産業界の現状と環境問題への取り組みはどうなっているのだろうか。「自然・動物・人間」が共生していくために、新しい道を皆で模索していこう。

 

新時代を切り開く、という言葉がぴったりの石井さん 「水処理」からスタートする環境への想いを伺いました!

『eneco株式会社』

今回のインタビュー先は、畜産排水処理事業・電力事業を営む『eneco株式会社』の代表・石井洋志(いしいひろし)さん。地元・高崎市棟高町を活動拠点とし、県内・県外の畜産業(主に豚)向けの糞尿処理をコンサルティングしている。石井さんが仕事を通じて実現しようとしているのは「糞尿処理分野に新たな価値を創造すること」と「そのまちに眠るエネルギーの掘り起こし活動」。畜産業の環境問題を解決するアイディアについてお話を聞かせていただいた。

見出されていない価値、知られていないエネルギー――日々挑戦を続ける石井さんの話を聞いて、私たちも新しい発見をしてみよう。

 

「糞尿処理問題」は一見私たちの暮らしとは関係なさそうですが……「食」にも「住」にも大きく関わってくるお話なんですよ!家庭の台所や食卓へ届けたいメッセージを、お楽しみに!

自然環境

こちらがインタビューの中で登場する曝気槽(ばっきそう) 意外にも静か&無臭の施設なんですよ

畜産と水処理

鳥のさえずり、虫のこえ、溢れんばかりの“緑のにおい”。本インタビューは、石井さんが水処理のサポートを行っている『株式会社林牧場』のとある農場(群馬県前橋市)を見学しつつ行われた。『株式会社林牧場』は国産豚肉の約2%を出荷しているという国内最大規模の養豚事業者。自然豊かな山中にあるこの農場では約9000頭もの豚を飼育しているという。

まずは石井さんに、“畜産と水処理”の関係について説明していただいた。

「『畜産業で水処理』というイメージはあまりないかもしれませんが、生き物を飼えば糞尿は必ず出ますよね。豚は1日5~6ℓの汚水を出していて、その汚れの量や質は1頭当たりヒト10人分ほどになるんです。『豚9000頭の汚水』は『ヒト9万人分の汚水』ですから――糞尿が処理されないまま地面や川へ流れてしまったら大変なことなんです。畜産と汚水処理は切っても切り離せない関係にあるんですよ」

農場内に建っているのは、直径36m/水深7mの巨大な曝気槽(ばっきそう)。豚舎から流れてきた汚水(糞尿を分けたもの)の浄化処理施設の一部で、微生物の力を利用した浄化処理を行っている。

「汚水と糞を分別したあと、この曝気槽(ばっきそう)の中で微生物が汚れを分解していきます。その後、取りきれないリンや固形物を落として水を浄化、基準値をクリアしたものを放流しているんです。私の仕事は、こうした設備の導入・運用コンサルティング。日常の運転管理は農場の方がやっています」

「この農場に汚水処理施設が導入されたのは7年前になりますが、運転管理やトラブル時の改善方法の提案などで長くお付き合いさせていただいています。農場で作業をする方の努力もあって水処理のコストや使用薬品量は大幅に減少。微生物は水処理だけでなく、畜糞からたい肥を作る時にも活用されていて“環境にやさしい糞尿処理”ができている農場です」

清潔な豚舎、臭いのない汚水処理施設、糞尿を活かすたい肥づくり――見学させていただいた施設の様子は、昨今重要視されている「環境意識」や「地域共生の在り方」を反映しているように感じる。大気・土壌・水質などを守る仕組みで、畜産業界とこのまちの暮らしを支えていく――石井さんの仕事は、まさに“縁の下の力持ち”であった。

群馬ベンチャーサミットにてグランプリを受賞した石井さんのアイディアは「うんこでつなげる農業×地域エネルギー」
……気になりますよね?

「うんこが価値を生む」

続いて石井さんに質問したのは、今の仕事に携わったきっかけについて。「うんこが価値を生むのが面白くて……」と話し始めてくれた、汚水・糞尿処理の仕事の面白さについてお話を聞いてみた。

「学生の頃、漠然と『環境にいいことがしたい』と思っていた私は、地元を離れて北海道大学の農学部に入学しました。学科数の多い学校で、農学部といっても『農業』『バイオテクノロジー』『林業』『畜産』『農業工学』『農業経済』……色んな分野の勉強ができることが魅力的でした」

「そんな時に出会ったのが、“うんこが価値を生む仕組み”の『メタン発酵』です。たまたま見ていたTV番組で家畜の糞を発酵させるとメタンガスが発生することを知った私は、農学部のゼミで『メタン発電』について研究することに決めました。『自分にしかできない仕事をしたい』と思っていた私には、ニッチな分野であること・研究者も少ないことはピッタリでした。汚水・糞尿処理の分野の研究を進めていくうちに、水処理の仕事に就きました」

メタン発酵の面白さは衝撃的だったと話す石井さん。今後は、現在の仕事である「汚水処理」に「メタン発電」を合わせて提供できる仕組みを準備していると語ってくれた。環境について語る石井さんの言葉を聞いて、農場の先に見える田畑や河川を眺めてみる。私たちは意識しない部分でも、地域の中でつながっていることを実感する。

「養豚農家さんにとって汚水・糞尿処理は事業継続のための重要な問題でもあります。建設前の養豚場近くには『建設反対!』と書かれた横断幕がありますよね。あれは養豚場からきちんと浄化されていない汚水放流によって下流の水田に影響が出たり、たい肥と称して十分に発酵させていない糞を撒くことで地下水を汚染したり……時代の流れとして許されない問題が起きていた事例があるからなんです。まだまだ環境対策のところまで完璧にできている事業者さんは少ないという現状があります。改善したいけど方法がわからない――そういう事業者さんの力になれるよう、水処理の観点から法的・経営のリスクを減らすお手伝いができればと思っています」

 

バイオマス発電について『糞尿を発酵させることで発生するメタンガスは、発電に使えばエネルギーを得られ、糞尿を処理する負荷(コスト)も低減することができます』と石井さん。……えっ、いいことづくめじゃないですか(環境にも)(お財布にも)

環境を活かす

施設の上から見える風景 すぐそばに田んぼがあって、川が流れて、遠くにまちが見えて……私たちは地続きで繋がっている、ということを感じますね

環境エネルギー

自然環境と畜産の話、そして自身の活動について想いを語ってくれた石井さん。今後取り組みたいと話してくれた「家畜糞を活用したメタン発酵」の挑戦について、詳しく伺ってみる。私たちも、このまちの環境を考えながら未来の暮らしを想像してみよう。命巡る“循環型社会”の中で、私たちはどう生きていくのだろうか。

「今の仕事は、学生の頃にやりたいと考えていた“環境に関わる仕事”にだいぶ近づいたという実感があります。ただ、排水処理は(畜産業の事業者にとって)お金を生まない部分なので……なかなか本気で取り組まないというのも現実です。メタン発酵を活用した『バイオマス発電』が『汚水処理』と併設して提供できるようになれば、排水処理にかかるコストが削減されたり発電でお金が生まれますよね。私が本当に事業としてやりたいかたち――“要らないものが価値を生み、プラスになっていく仕組み”づくりができればと思います」

「限りある資源を活用すること」は循環型社会のキーポイントだ。「価値がないと思われていた物や場所を“再発見”し、新たに価値ある形へ“再認識”する」という構造は、「地域の魅力を“再発見”し、“再認識”する」まちづくりの話にも応用が利く。「汚水・糞尿処理の仕事から、地域にできることを考えていて」と石井さん。これから先、スタンダードになるかもしれない未来の話――共生社会のビジョンについて語ってくれた。

「単独の事業継続性だけでなく、周辺の環境や地域との関わり方が重要になってくるのは間違いないでしょう。そこで、糞尿を使った『バイオマス発電』で出た電気や熱を事務所で使うとか、近隣のビニールハウスに供給していくとか……自社だけじゃなくて、周辺とも調和のとれた経営をお手伝いできればと思うんです。立地の問題やコストなど課題は多いですが、実現に向けて挑戦を続けていきたいと考えています」

「やりたいことは、いっぱいあります! だから、『やらずに後悔するより、やってから反省しよう』と思っています。畜産業界の環境問題は、事業者さんも行政も地域の方々も困っているところ。これからの時代に合わせた農場経営のお手伝いができるよう、事業を展開していきたいですね」

水処理事業から始まる夢の話。それは高崎の未来に新たな暮らし方の提案をしてくれるだろう。

環境問題というのは「当事者意識」が抜け落ちがちな分野ですよね。今は誰もが自然の恵みを享受できていますが……それは未来永劫、というわけではなさそうです。私たちそれぞれの悩み・問題となる日は近い、かも?

最後は美味しい画像で〆 こちらが石井さんが水処理をお手伝いする『株式会社林牧場』のお肉です
しっとりジューシーな味わいが魅力的なのはもちろん、しっかり管理をされている"安心感のあるお肉"なのがいいですよねっ
*林牧場近くの「とんとん広場」にてお召し上がりいただけます

眠っているエネルギー

インタビューの最後に「“眠っているエネルギー”を活用していきたいんです」と活動の方針を伝えてくれた石井さん。“眠っているエネルギー”とは、家畜糞から得られるエネルギーのことだけではないという。彼の発見をヒントに、私たちも日々の暮らしから“エネルギー”を発掘してみよう。

「2011年。東日本大震災でエネルギーの在り方が見直された時、私は『ぐんま小水力発電推進協議会』の事務局長でした。群馬県は水力発電のポテンシャルがあるといわれながら、事業に取り組む人や自治体は少なくて、地域に“眠っているエネルギー”が多かったんです。このまちで使われていないエネルギーを開発したい、地域に眠るエネルギーをちゃんと使いたいという想いで創業したのが『eneco株式会社』となります」

「その後、活動の中で水処理の仕事を始めてから『人の力も、地域で“眠っているエネルギー”だ』ということを感じるようになりました。水処理プラント管理は適切な状況判断と技術ノウハウが必要ですが、大手のプラントメーカーの現場でさえ技術継承がうまくいっていないと聞いています。技術や経験を持った人の力を、しっかり若手に伝えていかなければならない。“眠っているエネルギー”を新たな価値を生む力にしていきたいんです」

「そのためにはまず、会社の体制を整えていかないとなんですが……」と石井さんは笑う。現在極少人数での業務を行っているという彼は、今後の課題に「仲間づくり」を挙げてくれた。インタビューをを通じて、想いを受け取った私たちにできることは何か。質問してみた。

「畜産の汚水処理や業界としての環境意識はまだレベルが低いのが現状です。美味しいお肉ができる前――農場で家畜がどんな管理をされているのか、周辺の自然環境に配慮した事業なのかという部分は、消費者の知らないところだからなおさらだと思います。難しいとは思いますが、生産の段階がもっとオープンになればいいですよね。豚に限らず、お米や野菜でもなんでも。作ることの大変さや背景といったものが評価される社会になればうれしいです。『安いものには、安いなりの背景がある』ことを想像して、食べたいと思える商品を選んでほしい。やっぱり『自分が食べたい、子供に食べさせたい』と思うお肉って、ちゃんと管理されている畜産事業者のお肉だと思うので」

環境意識が高まっている昨今、商品の背景や物語も“新たな価値”として認められてくるはずだ。そのためには、商品や作り手が私たちと繋がっていることを意識しなければならない。このまち、この国、この地球を共にしていることを1人1人が自覚しなければ始まらない。

私たちの中には、まだ見ぬエネルギーが眠っている――そんなイメージにワクワクしながら、このまちを“新たな価値”で輝かしていけたらと思う。

『eneco株式会社』

住所:〒370-3521 群馬県高崎市棟高町672-1
電話:027-333-1772
定休日:土日

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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