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【後編】高崎市中尾町 ブランディングデザイナーに聞いた「暮らしとデザイン」の考え方

企業や自治体のブランディングデザインを手掛ける『株式会社グティ』の代表・関口さんにインタビュー。「ブランディング」と「デザイン」の話から、私たちの暮らしのカタチを考えるヒントを教えていただいた。多岐にわたるテーマに触れながら、「私たちとブランディングデザイン」について共に考えてみよう。

2020.01.10

こちらはインタビューの後編となっております ⇒ 前編はこちら

デザインを分解する

ずらりと並べられた「デザイン、とは?」のアンケート。 前編の内容を思い返しながら、私たちの暮らしのカタチを探っていきましょう!

デザイン、とは?

インタビューの前編で「ブランディング」について語ってくれた関口さん。“つよくてしなやか”な事業の在り方や暮らし方について、多くのヒントを伝えてくれた。続いてお話いただくのは、私たちの暮らしや想いを形作る「デザイン」について。「デザインとは何か?」――そんな初めの問いから、「デザイン」の世界を知ってみよう。

「僕はデザイナーを始めてからずっと『デザインって何だろう』って考えていました。○○デザイン、○○デザイナー……よく使う言葉なのに、何だかわからないですよね。デザイン業界の人に会うたびにアンケートも取ってみましたが、『デザインとは○○である』の答えは皆バラバラ。これは“デザインのデザイン”がされていない状態で、デザインを広めていくために改善が必要な状態でした」

2018年に経済産業省・特許庁より「デザイン経営」宣言が出されるなど、社会的にデザインが重要だと言われる昨今。市民の暮らしの中にデザインが行き届くためには“わかりやすいデザイン、のデザイン”が必要だと考えていたという。答えを見つけたのは、一年半前の事務所にて。一杯のコーヒーを飲んでいた時だった。

「デザインって何だろう――そんなことを思いながら、何気なくコーヒーを飲んでいた時。取っ手のついたカップを見つめながら僕は、『アツアツのコーヒーが飲めるのって、取っ手をつけるアイディアのおかげだなぁ』と思い至りました。そこからカップをよく観察してみると――『どの空間にも合う色使いのアイディア』『飲み口に丸みを持たせるアイディア』『買って使える手ごろな値段というアイディア』『陶器を素材に使うアイディア』……いくつものアイディアが、カップのデザインを形作っていることに気が付きました。『デザインは、アイディアの塊』だったんです! 机の形も鉛筆のデザインも昆虫の体のつくりも、“アイディア”だらけでした」

 

突然の発見に「伝えたい!」という想いがあった関口さん。本インタビューのウラガワには、こんなドラマチックな出来事があったんですね!

『デザインとは』の答え、果たしてどう繋がっていくのでしょうか……?

こちらも、テストにでます――というくらい大事な図。 アイディアを軸としたデザインの考え方を、伺いました!

『G-CID』

デザインを分解していくことで、アイディアを見つけたという関口さん。身の回りの物すべてがアイディアを持っているという気付きは、デザイナーの仕事に大きな影響を与えたという。「デザイン」の考え方と生み出し方について、上記の図を使って説明していただいた。

「機能を高めるための文房具の形や生存を目的とした植物の構造など、あらゆるものはデザインとして捉えることができます。ただ、普通に暮らしていると『デザインがあるな』なんて思いませんよね。なぜか。デザインは“機能していない時”に目につくからなんです」

「例えば、昔の信号機のデザインには“西日が当たると見えづらい問題”がありました。夜間や日中であれば見えるレンズも、『24時間見やすい信号のデザイン』ではなかったということですね。今は、西日対策としてLED信号機やカサを付けるデザインがされています。新たなアイディアが、目的に合わせてデザインを良くしていく。チェック→アイディア→ドゥ、チェック→アイディア→ドゥ……そんな繰り返しがデザインをつくることに気が付きました」

目的(Goal)に向かってアイディアをより良くするサイクル、『Goal-Check-Idea-Do(G-CID)』。一般的によく聞かれる『PDCAサイクル』と似た形をしているが、「事前の調査(Check)」と「実働(Do)」から区切られた「アイディア(Idea)」の場所が明確になっている。「(区分することで、各項目を)大事に、意識するようになりました」と関口さん。常にアイディアと向き合うデザイナーの仕事が、スムーズに進むようになったそうだ。

「仕事の中で『CID』のサイクルは小さくたくさん回っています。きちんと調べて、アイディアを考えて、形にすることを繰り返す――そう考えれば、『おい、なんか良いアイディアないか!』とアイディアを生み出すことを雑に扱うことはなくなり、『ヒアリングはアイディアを生み出す重要な仕事だな』と意識して取り組むことができますよね。また、実際のデザインチームでは『リサーチャー(Check)』『プランナー(Idea)』『デザイナー、営業(Do)』と役割分担してデザインに取り組んでいます。『自分にはアイディアがないから……』という人も、デザインと関わることができる。営業として足を動かすことも立派なデザインです! 力を合わせてサイクルを回すことが重要なんだと思ってもらえれば、嬉しいです」

「例えばクリップのデザインをアイディアに分解すると、素材・形・大きさ・色などに分けることができますね。それを1つ変えてみてください。『金属を使わないクリップ』『大きく目立つクリップ』……それだけで、新しいデザインが生まれます」

そんな話をしてくれた関口さん。今後はデザインのワークショップもしていくとのこと、楽しみですね!

デザインを繋げる

「デザインはアイディアの塊である」ということに気が付いたカップ。私たちの身近にヒントが隠れているように、私たちにとってデザインやアイディアは身近なもの……なんですよ

あなたとデザイン

利便性や安全性など、目的のためにアイディアをカタチにするデザイン。その考え方や生み出し方について語っていただいた。次にお話いただくのは「私たちの仕事や暮らしに深く関わっている、デザイン」について。“私たち全員がデザイナーであること”の提案を聞いてみよう。

「全ての人はデザイナーになれる、と僕は思っています。例えば、金属加工会社の鍛造職人さん。商品の注文が入った時、オーダーを満たすための形や方法を色々考えますよね。『この形を作るには、どうしたらいいかな……?』――この時、必ずアイディアを生み出しているんですよ。無意識に『G-CID』のサイクルを回して、デザインしている。それは立派な『鍛造デザイナー』だと言えるでしょう」

「片付けの新たなアイディアを教えてくれる人は『片付けデザイナー』ですし、おいしい野沢菜漬けを作る人は『野沢菜漬けデザイナー』かもしれません。“私はアイディアをカタチにして可能性を広げていく人間だ”ということを自覚することが大事です。僕は『D(デザイナー)の肩書き』と呼んでいますが、自分が『何デザイナー』なのか気が付くことが、その人自身/社会の可能性を広げていきます」

デザイナーであることは、社会の可能性を広げる。それは近年増加している多様な働き方にも表れている。

「お皿を綺麗に洗えないと悩んでいる人はいませんか? 『どうやったら肉の油が落ちるんだろう』とか、『洗ったお皿を並べるのが苦手』とか。そういう人に『油の落とし方』や『水がきれるお皿の並べ方』、『洗う順番』を伝えたら、それだけでビジネスになりますね。子育て中の女性やフルタイムで働けない人が、自分自身を『食器洗いデザイナー』だと自覚すれば社会進出のきっかけが生まれます。課題だらけなこの世の中は、アイディア次第で“可能性だらけ”なんです」

AIやロボットが進出する社会の中で、新しい価値を生み出す自分自身とは何か。その切り口として「デザイナー」を広めていきたいと関口さん。社会をより良くするために、あなたの暮らしをより良くするために……そんなアイディアを感じることができた。

前編と後編のテーマを合わせてわかる、「ブランディングデザイン」の考え方。 あなた自身に当てはめた時、どんな可能性がひらかれたでしょうか?

街とデザイン

「ブランディング」と「デザイン」について、私たちと密接に関わる考え方を紹介してくれた関口さん。普段はなかなか触れない概念の話は、ピンとこない人も多かったかもしれない。改めて、高崎の街とブランディングデザインはどのように繋がっているのだろうか。暮らしとブランディングデザインの話を、していただいた。

「近年の街づくりを見ていると、やはり地域で共通の想い(Be)をもとにしたデザインが増えてきたように感じます。街に暮らす人の在り方や生き様に、地域の価値がある。『関係人口』という言葉もありますが、暮らす人だけでなく『“Be”に共感する人たち』が地域に集まってくれることが街づくりにいい流れをもたらします。『我々の“Be”は何だろう?』という問いの答えを探すのは簡単なことではありませんが、これから必ず必要になってくることだと思います」

地域や国といった大きな単位のブランディングデザイン。“Be”を探すことだけでなく、成果(Have)を出すことも長い時間がかかるだろう。この街に暮らす私たちが持っている、場所の価値“Be”。自分の暮らしを振り返りながら、ゆっくりと探してみよう。

「地域も国も手作りのデザイン。まだまだ不完全で、不便な部分がありますね。『G-CID』を回して、より良いデザインを考えていかなければなりません。デザインを担当する『デザイナー』は、私たち全員です。『リサーチャー』『プランナー』『デザイナー』『営業』……自分にできることで、機能していけばいいんです。“ブランディングデザイン”って、面白いですよ」

街で暮らす私たちは、同じ“デザインチーム”に所属する仲間である。同じ想いを共有しながら、同じゴールを目指して進んでいる。まだまだ、完成されていないこの街のデザイン。今ここで生きる私たちならではの、暮らしをより良くするデザインをこの手で作り上げていこう。

株式会社グティ(Guty)

住所:群馬県高崎市中尾町699-3
TEL:027-377-5960
E-MAIL:info@guty.co.jp

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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