つくる

GUNMAのカホンが全国へ。庭園デザイナーがカホンをつくる理由とは。

高崎一優しい音をつくる職人がいる――そんな評判をきいて、庭園デザイナー兼カホン製作者の斎藤秀典(さいとうひでのり)さんを取材した。なぜ、庭造りの職人はカホンを作り続けるのだろうか?手作りの楽器に込められた、高崎で暮らす人々へ向けたメッセージを紹介しよう。

2018.06.15

斎藤さんの手仕事

庭園デザイナーとして

音楽の街、高崎。その街で、ひときわ優しい音をつくる職人がいる。庭園デザイナーとして草木と花を愛する、サイトウグンマの斎藤秀典(さいとうひでのり)さんだ。主な造園の活動場所は高崎市井野町。花の寄せ植えから庭のレイアウトリフォーム、大木の伐採などを幅広く請け負うデザイナーだ。斎藤さんの親しみやすい性格と花・木への情熱が評判となり、口コミでの依頼がほとんどだという。

 

カホン製作者として

一方で、斎藤さんはカホン職人としての顔も持っている。箱型の打楽器・カホンはストリートミュージックなどで見かけることも多いのではないだろうか。中の構造はシンプルで、木箱に空いた穴から飛び出た空気に、中に配置された弦の響きが乗ることで様々な色合いの音を出すことができる。斎藤さんが制作するカホンは全て、木製・手づくり。小さな工房からつくり始めたカホンは、今や全国の楽器店で並ぶブランド商品にまで成長した。市内の島村楽器店でも取り扱っているほか、高崎カホン部の活動や子供と一緒に参加できる”カホンづくり”のワークショップ活動なども行われている。

それでは、なぜ。庭園デザイナーはカホンをつくるのだろうか。

造園とカホン――二つの手仕事には、斎藤さんの”ある想い”が込められていた。

庭園デザイナーが楽器作り…?斎藤さんとカホンの間にどんなストーリーがあるのか、気になりますね。この後のインタビューでは、斎藤さんオリジナルのカホンやこだわりも聞けちゃいますよ!

カホンとは

カホンとは箱型の木製打楽器。今回、斎藤さんが製作しているカホンはペルー式のカホンです。
電源なしで演奏でき、バスドラムのような低い音から高く鋭い音までを出すことができる優れもの。
まさにストリートやライブにピッタリな楽器と言えますね。
音を伝えるための穴と、箱の中に弦が入っているのが特徴ですが、斎藤さんはスナッピーを付けているそうです。弦のように緩んだりせずメンテナンスフリーで演奏できます!
 ※スナッピー…スネアドラムについている金属製の部品。コイルやワイヤーの形をしている。

庭づくりとの出合い

追い求めた理想の街

斎藤さんは前橋市出身の42歳。実家とオフィスがある町は緑で溢れているが、会社員時代は正反対の環境で過ごしていた。無機質な素材と工場の轟音。機械中心の生活は、大きなストレスだったという。通勤の電車に揺られる中で、無意識に目が緑を追いかけていた。草木や花…自然のある生活を広めたい、愛する地元にグリーンのある暮らしを増やしたい。離れてみてわかった「自然」への想いが、造園の道へと進むきっかけになった。

「造園の仕事を考えるようになったのは、あちこちがコンクリートと砂利ばっかりだと気が付いたからです。建物はコンクリートで作られ道路は舗装されている。個人宅の土部分には砂利が敷かれていて…コンクリートジャングルの中では想像力が育たないと思いました。自然の、緑の良さを取り込む方法として、庭づくりがあると思ったんです。そこから、庭園デザイナーとして(緑を広めていく)先頭に立って、自然の良さをアピールしていこう決意しました。」

 

”職人の世界”での葛藤

庭づくりの仕事を始めた斎藤さん。ところが、造園の世界でも葛藤が待っていた。造園業という”職人の世界”のゆがみ。お客さまの要望よりも、職人の技が優先されてしまう現状に悩まされることになる。

「造園は基本が“和”なんですよね。造園のスキルとしてはそれ(和風の庭づくり)だけでOKなんです。でも、今はお家も洋風なものが多い時代。和洋どっちもわからなきゃ、お客さんのニーズには答えられません。それに…自分の庭がミックス(和洋折衷)のこともありますよね。その時、どうしても昔ながらの職人さんは得意な“和”のテイストへ近づけてしまう。自身のスタイルが柔軟な考えの邪魔をすることがあるんです。」

決められたかたちの庭だけでは、それぞれの暮らしにあった緑を提供できない。お客さん自身が、それぞれの庭へ愛着を持つことで自然を好きになってほしい…斎藤さんが思い描いた自然と共に暮らす街は、まだ遠くにあると感じた。

天職に巡り合うも、大きな壁が!

自然の良さを知ってもらうために、斎藤さんの奮闘が始まります。

カホンとの出合い

四角の木箱、その奥に

そんな斎藤さんに、人生を変える出合いが訪れる。3歳から続けている趣味のピアノ、そのレコーディングで出会った楽器。友人から貸してもらったのは、ペルーの箱型楽器・カホンだった。シンプルな形に反して、多彩な音色。ピアノと同じく木から生まれた楽器を、好きにならないわけがない。気が付けば、カホンに魅せられていた。

「叩く方には得意がなかったんですが、物として…楽器として面白いと思いました。最初は趣味で始めて。とっつきやすいし、楽しいし。木の種類や厚みでものすごく音が変わるので、簡単なようでこの四角の木箱は奥が深いんです。」

音楽の街・高崎は楽器への高い関心が高い。机にも椅子にもなるカホンは、まさに身近な”自然”だった。これなら、自然の良さを広く伝えられる。そう確信した。

そこから、カホンづくりの挑戦が始まることになる。音楽界ではメジャーなカホンとはいえ、作り方を知っている木工職人は少ない。「作り方がわからないよ」と笑われたが、あきらめることはなかった。腕のいい木工職人から技術を学びつつ、試作を繰り返した。

慣れない工具で、木箱を組み上げる。試作するたび、理想の音との調整を繰り返した。様々な材木や塗料を組み合わせるが、まだ違う。もっと作りたい。

作業場に置けなくなったカホンを売って、次の試作品を作ることがルーティンとなっていった。初めてカホンを作ってから、10年。自然への情熱が”試作”され続けた数百のカホンを生み出した。

 

サイトウグンマのカホン

やがて、サイトウグンマのカホンは全国のパーカッショニストに愛される逸品となる。ブランドの印には、可愛らしい草花が彫り込まれた。カホンを演奏する人に、自然を愛する気持ちが届きますように。優しさが特徴のカホンらしい、優しい願いが込められている。

もちろん、自然への優しさだけではない。斎藤さんがつくりだす音色は、自然に生きることも応援してくれる。たとえ座れなくても、力が弱くても、ハンディがあっても。

「開発してから3,4年すると、カホンの形が小型化しました。これがけっこう売れて、子供も使えるとヒットしたんです。そこから、カホンをどんな人でも自由に演奏できるようにしようと思いました。」

「一番難しかったのはパンドラ(サイトウグンマのカホンの中で、最も小型・軽量なカホン)の開発でしたね。他のカホンにもこれ以下の大きさのものはあるんですが、パンドラはすべてが独特なデザインをしています。力がない人、ハンディのある人でも軽々持てる450g。最近のでっかい携帯電話やモバイル機器と比べれば重さを感じないですよね。素材をできる限り柔らかいものにしたのも、誰でも使えるようにです。一般的には固い素材の方がいい音が出るのですが、指先一つでも演奏できる自由度にしたかった。もちろん、このサイズ・柔らかさでカホンらしい音は損ねていません。横に四角い穴が開いていて、タンバリンのように持つこともできる。がに股でカホンに座る基本の演奏スタイルも関係なくなります。座れなかった人――例えば、痔だったら演奏できないじゃないですか(笑)スカートをはいていても、赤ちゃんでも音が出せる。だからこれ(パンドラ)は残された希望、神話の女神のイメージで名前を付けたんです。」

指先一つで、演奏できるカホン。世界中の人が、誰でも音楽を楽しめるように…そしてなにより、木の温もりを感じられるように。木に触れることで、木を好きになってもらうべく始めたカホン製作は、想像以上の翼をもって世界へ羽ばたいていきそうだ。

サイトウグンマのカホンはこちら(音が出ます)

実際にカホンを持たせてもらいましたが、見た目よりも軽くてびっくり!さらさらの木肌も美しいですね。

斎藤さんの植物への愛情を形にしたら、カホンという形になったんだなぁ…と思う編集長でした。

新しい”庭づくり”を目指して

カホンづくりで学んだ、お客さんと向き合うこと

続いて、造園スタイルにも変化が訪れる。庭園デザイナーとして独立した斎藤さんは、お客さんの暮らしに合わせた庭づくりを始めたのである。

「庭園デザイナーと名乗ることは、『お客さんの庭のイメージに合わせてデザインをしますよ』という意味を込めました。だから、僕の仕事にサプライズはありません。ただ、丁寧にヒアリングをして、打ち合わせをして。お客さん目線を大事に、その庭に合わせた提案をしていきます。それから、お茶出しも不要とお伝えしています…これは(仕事として、不要なのは)当たり前なんですけど、造園の世界ではよくある事でした。仕事のスタイルを新しくしていくことで、お互いにハッピーな形を増やしていく。仕事も大小関係なく相談に乗る。木一本でも、その一本の木がお客さんにとってはシンボルツリーだったりと、大事なことってありますよね。」

頑固な職人のイメージとはまったくちがう、サイトウグンマの仕事の流儀を聞かせてくれた。「植木屋らしくない。」と言われても決して折れることはない情熱は、職人の世界の常識を少しずつ変えていくだろう。

高崎で暮らす

サイトウグンマ花咲く未来へ

アフターケアが重要となってくる庭づくりは、地元ならではの仕事。今後の高崎について、斎藤さんの想いを伺った。

「カホンばかり有名になってしまいましたが、自分の軸は地元。そしてなにより緑にあります。今後は高崎に緑が溢れるように、草花のセミナーをやっていきたいですね。花が好きだけど育てる自信がないという人に、ワンステップ上がってもらう。花木の魅力を伝えるためにという目標、(自然や緑によって)安らぐ未来をつくることがミッションです。人間は何千年と緑の中で暮らしてきた生き物です。ある年齢で、必ず緑や花が好きになっていきますよ。」

柿渋塗料が香る工房で、緑あふれる高崎の未来を語ってくれた斎藤さん。花木と暮らす生活の良さを、音と手仕事によって伝えていく決意を新たにした。

世界一のカホン、地元一の造園。高崎を包む”自然のメロディー”は、まだ始まったばかりである。

サイトウグンマ

電話 0120-961-053
定休日 午前9時〜午後7時・日祭日休み

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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