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高崎市倉賀野町 老舗店の菓匠が作る、歴史と文化を伝える和菓子

高崎市倉賀野町で代々続く和菓子店『丁子堂房右衛門』にて、女性職人として活躍する山木さんへインタビュー。地域の歴史と文化を美味しさと共に届ける同店の取り組み、また“和菓子と暮らし”の繋がりについて語っていただいた。

2021.03.05

高崎市と和菓子

黒いお盆に咲く、柔らかな桜の花 美味しい和菓子に込められた歴史と文化の物語をお伝えしていきます!

地域を伝える味

「地域の味」という言葉から、あなたはどんな「食」を想像するだろうか。郷土料理や特産物を使った料理、馴染みの飲食店の一品、家庭の味……“味の記憶”は様々な思い出を彩っていることだろう。

それと同時に、美味しさは地域の歴史や文化に裏打ちされていることも忘れてはならない。「食」は美味しさを通じて、土地に根付いた文化や歴史・暮らす人々の想いを伝える語り手でもある。

 

「口下手ですが…」と言いつつも、優しく朗らかにインタビューを受けてくれた山木さん 地元和菓子屋さんの目線から、和菓子と地域について語っていただきました!

『丁子堂房右衛門』

高崎市倉賀野町で代々続く和菓子店『丁子堂房右衛門(ちょうじどうふさえもん)』。地域の「食」を支えるお菓子屋さんで、女性職人として活躍する山木裕子(やまきゆうこ)さんへインタビューをさせていただいた。

今年で創業118年目を迎える店舗の歴史と味を守る山木さん夫婦。「和菓子文化」と「地域の歴史」を伝えていく活動が紡ぐ、“和菓子と暮らし”の繋がりを教えて頂こう。

ふんわりと甘い香りのする和菓子店にお邪魔し、和菓子と地域のお話をたっぷり聞かせていただきました。只モノではない美味しさの秘密に、迫っていきます!

和菓子文化

小倉餡、柚子餡、塩餡の三種類の味が楽しめる『河岸最中』 歴史が詰まった銘菓です!

和菓子の歴史

かつて『倉賀野宿・中山道』として人や物で賑わっていた歴史を持つ倉賀野町。旧中山道通りに面した老舗和菓子店『丁子堂房右衛門』では、そんな“地域の味”を伝える和菓子を作り続けている。河川舟運に利用されていた烏川や江戸-京都間を結ぶ中山道の往来の様子を想像しつつ、まずはお店の和菓子をご紹介いただこう。

「代々倉賀野町で和菓子を作っている当店では、初代・山木幸三郎が開発した『河岸最中』など地元色のある和菓子が人気商品です。この最中は江戸時代に烏川で行われていた舟運搬の“船手形”をそのままデザインした商品で、地域の歴史を伝えていきたいという想いで作られました。鉄道の無い時代、富岡製糸場の絹を運び県外からの品々・文化を運ぶ重要な地域として栄えた倉賀野町――歴史ある町として、今後も盛り上げていきたいと思っています」

「また『毎朝焼き立てのどら焼きを食べて欲しい』と作り始めた『朝どら』や厳選素材で作る『塩大福』も好評です」と山木さん。店内に並ぶ商品は『高崎だいすき(どら焼き)』や『だるま最中』など“ご当地和菓子”らしい特色で、お土産用のお菓子にもぴったりだ。2012年には2号店となる片岡店もオープンとなり、地域密着型の和菓子屋として営業を続けている。

「農家さんが丹精込めて作った食材を扱っているので、素材の美味しさを無駄にしないよう丁寧に手作りしています。『朝どら』の生地は毎朝一枚一枚焼き上げ仕上げています。『河岸最中』の小倉餡はじっくりと蜜を染み込むよう5日間かけて仕込んでいます」

「食材に関しては地元農家さんとの繋がりを活かし、イチゴ・ブルーベリー・芋・小麦といった地元の味での和菓子作りに挑戦しています。昔から日本で使われている素材で作る、体に優しい和菓子。地域の特色ある味を楽しんでほしいです」

 

焼き立てのどら焼きを食べたことはありますか? しっとり餡子とふわっと食感の皮のコラボレーションは、ぜひとも食べていただきたい味わいです!

菓匠として

続いては山木さんが菓匠として活躍するまでの道のりについて、和菓子職人を志したきっかけを伺ってみた。一職人として、また、一人の女性として。山木さんの考える「和菓子文化の魅力」と、修行時代のパワフルなエピソードから読み解く「仕事のモットー」を聞いてみたい。

「初めて製菓に興味を持ったのは、結婚式場のアルバイトをしていた時ですね。『ウエディングケーキを作りたい!』と“洋菓子”に興味を持って、お菓子の専門学校へ進学しました。ところが、1年時の必修授業で初めて触れた“和菓子”づくりが魅力的で。和菓子職人の道へ進むことを決意し、修行に励みました」

学校卒業後は神奈川・京都の和菓子店で修行を積み、『丁子堂房右衛門』で和菓子作りを始めた山木さん。和菓子作りの醍醐味を尋ねると「素材同士を組み合わせて作ること」が面白いと答えてくれた。

「和菓子は0から作るのではなく、良い素材・美味しいものを2つ3つ、相性を合わせて作っていきます。とにかく素材選びが重要で、悪い素材を使えば美味しいお菓子はできません。ただ、良い素材同士を組み合わせても美味しいお菓子になるとは限らないんですが……」

素材の良さを活かすバランスを整えていく作業は、まさに職人技の見せ所だ。山海の幸が豊かな日本で育まれた「和菓子」の文化を大切にする、素材への熱い想いが感じられる。

 

また修行時代を振り返ってみると“女性ならでは”の壁にぶつかることもあったという。

「修行先では『女性に餡場(あんば)は、体力・筋力的にも厳しいのでやらせない』と言われたこともありました。餡子作りは重い物を持ったりする“女性にはきつい仕事”かもしれませんが、和菓子の要とも言える重要な仕事でもあります」

「私は『いつか餡場を任せてもらえるように頑張ろう』『価値ある人になって認めてもらおう』と必死に励み、最終的には修行先で初めて“女性で餡場を担当”することができました。とにかく目標に向かって、初めから完璧でなくても行動する。そして妥協しない。これが私の“仕事のモットー”だと思います」

インタビュー時の朗らかな表情、そして和菓子作りに集中しているときの凛とした雰囲気が素敵な山木さん!カッコイイ仕事のモットー、参考にさせていただきます!!

地域との繋がり

流れるような動きであっという間に形作られる練り切り 「あるべき姿に餡子が変化していく魔法」のようで……職人技に感動しました

和菓子を通じて伝えたい想い

山木さんは「日本の食文化としての和菓子を、もっと身近に感じて欲しい」と厚生労働省認定の『ものづくりマイスター』として技術伝承や魅力発信の活動も行っている。公民館や学校で行っている活動の紹介をしていただきながら、和菓子と暮らしの繋がりや和菓子への想いを聞いてみた。

「2018年より『ものづくりマイスター』の認定を頂いて、公民館や学校で和菓子作り教室を開催しています。“家庭で手作りするお菓子”というと洋菓子を思い浮かべる人が多いので、教室を通じて和菓子が“家庭の味”になれればと思っています。火や刃物を使わずに作れるものもあるので、老若男女を問わず作ることができますよ。小さな子供も『ねんど遊び』をするような気軽さでチャレンジしてくれれば嬉しいですね」

和菓子の魅力、またものづくりの楽しさを伝えていく山木さん。『高崎菓子まつり』などでは親子向けにも和菓子作りの場を設け、和菓子を親しんでもらうことに力を注いでいるという。

「和菓子――例えば上生菓子の『練切り』は、白餡とつなぎで作るお菓子です。うちではつなぎにつくね芋を使いますが、各お店・職人によって使う素材が変わります。値段も名前も配合も、和菓子は自由で良いんです。“伝統の中で変わる”ことを楽しむという、和菓子の面白いところを伝えたいと思います」

「そして何より、和菓子を通じて“四季の移り変わり”を感じて欲しいと思います。鶯の練切りや桜餅を食べながら春を感じるように、昔から日本で使われていて馴染みある素材を、四季の風景を想いながらいただく。そんな経験をして欲しいと思います」

お家で和菓子を作る/食べることを「ハードルが高い」と感じる人もいるかもしれない。そんな時は、ぜひ山木さんのお菓子を食べてみて欲しい。お菓子が伝えてくれるのは、四季を大切に暮らす私達の生活のすぐ隣に「和菓子文化」があるということ。彼女の作る和菓子や和菓子作りの体験は、豊かな暮らしの扉を開いてくれるきっかけを与えてくれる。

今回、編集長も和菓子作りを体験させていただきました!不格好ながらも可愛らしい和菓子をつくることができ……いや、これはハマっちゃうかもしれません(そして美味しい)

まっすぐに伸びた、旧中山道 過去の暮らし・今の暮らしを知ることで、未来の暮らしを想像してみたいと思います

地域を支える歴史と想い

最後に伺ったのは、『丁子堂房右衛門』のある倉賀野町について。初代・幸三郎さんが『倉賀野河岸』への想いをお菓子作りに込めたように、山木さんも地域への想いをかたちに変えていく。和菓子という食文化を通じて歴史を伝える和菓子職人へ、地域の魅力を聞いてみた。

「倉賀野光行が築いた『倉賀野城』や高崎の物流の中心であった『倉賀野河岸』など、ここ倉賀野町は関東地方の要衝としての歴史を持った地域です。また、現在では世帯数が市内一位で人口が市内二位。地域としてのポテンシャルが高い町だと感じています」

「そこで今年から地域の店舗とコラボレーションして、倉賀野町を盛り上げるための取り組みを始めました。倉賀野氏と倉賀野城の歴史に触れてもらう『倉賀野御城印』を発行し、歴史・逸話や街歩きに役立つマップを紹介。地域の小中学校にも配布を行い、地元の人にも街を改めて知ってほしいと活動しています」

中山道散策の観光客、そして地域に向けた憩いの場として古商家・大山邸を改装し作られた『高崎市倉賀野古商家おもてなし館』では、お茶と共に山木さんが作る和菓子を楽しむことができる。地域の風景を見ながら伝統の味を楽しみ、歴史を紐解く散策は格別の体験となるだろう。そして何より、高崎市で暮らす人にこそ「倉賀野町の魅力を再発見する旅」は楽しいものになるはずだ。

「『倉賀野御城印』の企画には地域の方にもご協力いただき、お家に代々伝わる地図を公開いただくなど見どころがたくさんあります。地域の歴史は学校の授業で伝えきれない内容なので、ぜひ子供たちに『地域にはこんな歴史があるんだ』と知ってほしいですね。歴史という地域の魅力が、大人になった時に地元へ立ち帰るきっかけになると思っています。倉賀野という“暮らしやすい町”の魅力を、多くの人に知ってほしいです」

『倉賀野御城印』の発行は町内三店舗の店頭限定。地域に訪れた人だけが手にすることができる旅の証となっており、コロナ禍の旅先として近場の魅力を再発見するのもいいだろう。

私達の日常にひそむ、この街だけの物語。老舗和菓子店の“美味しさの秘訣”には、そんな隠し味がありそうだ。

丁子堂房右衛門

倉賀野店
〒370-1201 高崎市倉賀野町2006
TEL. 027-346-2321
9:00〜18:00 (木曜定休)

片岡店
〒370-0862 高崎市片岡町2-22-12
TEL. 027-324-3301
10:00〜16:00 (木曜定休)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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