高崎市檜物町 夢を叶えた花屋さん 花の妖精と育てる”街の花”
幼い頃からの夢である「花屋さん」を叶えた、高崎市檜物町の『フラワーショップ レフェ』店長・久保麻美さん。高崎生まれ高崎育ちの彼女に聞く、夢を叶えるサクセスストーリーと花のある暮らしの良さとは。お花の妖精と街にしかける、“未来への種まき”の話を聞いてみた。
2018.10.26
高崎市で語る夢
高崎市と子供
子供の笑顔でにぎやかなまち、高崎市。
近年の出生数は減少傾向ながらも、子供向けのイベントや支援制度は徐々に増えてきている。平成25年に誕生した新たな約3000人の命は、豊かな自然とあたたかな高崎の大人たちに見守られてすくすくと育つことだろう。それぞれの夢や将来に向かって進む中で、この街の未来も共に元気で明るくなってゆくといい。
「わたしの将来の夢はね……」あなたが小さなころ、この街で語った“夢”はなんだっただろうか。
『フラワーショップ レフェ』
カラフルで可愛らしい店内と独特のいい香り、美しい花々と仕事が共にある“豊かさ”。そんなイメージから、多くの子供たちが夢見る職業の一つが“お花屋さん”だろう。特に2000年前後は「将来の夢ランキング」の常連であり、大人になった後も“お花屋さん”に憧れをもつ人もいるのではないか。
今回取材するのは、高崎市檜物町の花屋さん『フラワーショップ レフェ』の店長・久保麻美(くぼ あさみ)さんだ。高崎生まれ高崎育ちの彼女が幼い頃に夢見た仕事は“お花屋さん”。夢を実現した久保さんに聞くサクセスストーリーと花のある暮らしの良さとは。お花の妖精と街にしかける、“未来への種まき”の話を聞いてみた。
人にも自分にも花を買うのが好きな編集長。今回は高崎自慢の花屋さんを取材です!
店の前には溢れる植物……わくわくしてきましたよ……!
お花とあたし
夢のように
子供の頃の夢。それはまさしく「夢まぼろしのように」月日の中へ溶け薄まってしまうもの。なかなか、幼い頃に抱いた想いを持ち続けることは難しく、思い描いた未来を成すことは困難だ。しかしながら、今回取材を行った久保さんがお花屋さんを志したのは小学生の頃。その想いの強さに驚くと、「花屋をやろうと思ったのは20歳過ぎ。色々なタイミングとチャンスがあったから……」と控えめに話してくれた。
「小さい頃はバレエを習っていて。発表会ではお花束を貰うじゃない? 今の私の娘と同じくらい、4歳の頃だったかな。貰った花束をほどいて花瓶にいけなおしていたって……全然覚えてないんですけど、母から聞いて。興味があったのね。小学校一年生のアルバムには『将来の夢はお花屋さん』って書いてあったかな。」
久保さんとお花のストーリーは、彼女が物心つく前から始まっている。幼いながらに花をいけることを楽しんでいたのだろう。「お花を(アレンジメントして)つくって、もともとの良さを活かすのが好きだから。」と今も変わらない想いを話してくれた。きっとこの笑顔で、花束を持っていたのだろうと想像できる。
「中学生になった頃から、自分でお花を買いに行って。好きなお花を選んで、部屋に飾ったりしてましたね。その後は、語学の専門学校を出て父の会社へ。ぜんぜん『お花屋さんをやろう!』とは思っていなかった。」
それでも、学生時代に留学すれば海外の花屋さんをめぐり、会社へ勤めればお店へ花を飾っていたという。「お花とあたし」は決して離れず、共に歩み続けた。
「留学中も皆と離れて花屋をめぐっていましたね。父の会社は車を売っていたんですが、お客さんが来るところへ花を飾っていました……会社のお金でね、ふふ。」
「そんな時に、よく行く花屋さんから駅前に花屋の新規出店があることを聞いて。『手伝わない? 入らない? 』と言われたのがきっかけかな。そこからずっと、お花屋さん。」
ふいに訪れた憧れの仕事へのチャンス。23歳の久保さんは、大好きなお花の世界で働き始めた。
向き合うのは
「あたしには向いてないって、思うこともあって。」
パリに本店を持つフラワーショップの高崎支店に勤め始めた久保さん。ブライダルのフラワーアレンジメントや店頭販売の中で、お客さんの頃は見えなかったお花の世界が見えてきたという。中でも違和感を持ったのは“自身が向き合うもの”について。花を愛する、そして花を愛する人を愛する久保さんだからこそ、葛藤があった。
「週末に結婚式が10件入ったとして、ゲストの卓と中央の花を合わせて15セットくらい。そこにブーケだったり花束だったり付属で作るものがたくさんあって……『完成したものから納品!』みたいな。工場みたいになっちゃうんだよね、どうしても。その中で『流れ作業でいいのか』と思っていました。」
「私はやっぱり、せっかく出会えた新郎新婦のお花をやるとなったからには『もっと全力でやりたい』って考えて。作業は早くなるし、色んなお花も知れるけど、あまりに作るものが多すぎて『今何をつくっているのか』もわからない。気持ちが入ってないわけじゃないけど、もっと誠意を込めてやりたいって思ったんだよね。」
久保さんの仕事風景を集めたアルバムをめくる。映されているのは大きく美しい芍薬、透き通るセルリア、こぼれる様に束ねられたグリーンアイス、幸せが集められたような淡いスプレーバラ……そして、そんな花々が彩る、特別な日を迎えた二人の笑顔。久保さんがつくり上げるのは、花束ではないのだ。
「打ち合わせを自分でして、二人のつくりたいものをしっかり聞き入れるようにしていますね。それから、アドバイスや経験を話して。結婚式という特別な日のお花の仕事を、あたしにくれた。適当にしたくない、できないですよ。」
「もちろん、結婚式以外の日――店売りの時も『5000円で作ろう』とかではなくて、その人が“何のために贈るか”を大事にしたいよね。誕生日だったり、還暦祝いだったり。良いお花を持って行って、贈った人の鼻が高いようなものをつくる。それは1500円のブーケでも1万円の花束でも変わらないことだから。」
贈物として、誰かの想いを代弁することが多い花。だからこそ、お客さんとのコミュニケーションを大事にしたいという思いがあった。花に触れ、人に触れるうちに独立を考えるようになった久保さん。周りが1人、2人と辞めていっても、未来のお客さんのために学ぶことを諦めなかった。
「ほんと、皆辞めちゃうんですよ。あたしは一番長く勤めていましたけど、今ここで投げ出しちゃったらあたしに付いてきてくれているお客さんに悪いと思いました。(久保さんの)センスに付いてきてくれるお客さんがいる、自分がお店を出すときにはもっと良くしよう、そういう気持ちでしたね。」
勤めていた店がなくなってしまうまでの7年間。花と向き合い、お客さんと向き合い、自分と向き合う日々だった。
花屋を初めて8年目、高崎市檜物町に自分のお店を出すチャンスがやってきた。
子供の頃の夢を叶えた方って、あまりいない印象です。皆様は叶いましたか?
ちなみに編集長の小さい頃の夢は「本屋さん」……本、読み放題だと思ってたそうです。
花のいのち
妖精のすみか
久保さんのお店『フラワーショップ レフェ』は、ブライダルを中心にプレゼントや葬儀の花など幅広いオーダーを受けている。置かれた生花は県内では見ないような“ひと味違う”美人たち。冷蔵のショーケースは「温度変化でお花がダメになってしまうから」と置かないのがこだわりだ。
生花以外にも店内には所狭しと商品が並べられ、ドライフラワーや多肉植物、花器、籠、インテリア……花のある暮らしをトータルでサポートしてくれる。
「どの花も色味が独特で、可愛いでしょ。毎週、多くて週に二回、都内まで仕入れに行っています。14年も続けていると、もうクタクタでやんなっちゃう!……でも、不思議と疲れていてもお花の市場へ行くと凄く元気になれちゃうんだよね。」
「凄い新鮮なお花がバーッと一面に並んで、そこから選ぶのは大変だけど……全部がパワーをくれるというか。想像できないでしょ? 皆を連れていきたいくらい。あたしが頑張れているのは、お花から力を貰っているからかな。」
「そんなに遠くまで毎週仕入れに行く花屋さんは、県内で他にはないと思う。そこもこだわりかな。作り手のセンスも大事だけど、やっぱり素材の力は大きいから。今はネットでも仕入れられるけど、やっぱり直接見ないといけないと思ってます。」
花にかける熱い想い。そんな久保さんの想いが『レフェ』を支えている。お店に入れば、曇った気持ちが晴れていくのを感じるだろう。それほどまでに、手をかけられた花々はパワフルだ。
「このお店の名前『les fée』はフランス語で“妖精たち”という意味です。お花に関する単語で良い響きだったので。……他にも一個、いい響きがあったんだけど“なめくじ”みたいな意味で『ダメじゃん!』ってなったっけ、ふふ。」
妖精――フランスの古い物語の中に「花には妖精が宿る」という話がある。たしかに、小さく可憐な『レフェ』の花たちは表情が豊か。ニュアンスというフランス語がしっくりとくるような、なめらかでじんわりとした配色、グラデーション。その命の艶やかさや重みを、ぜひとも店頭で体験したい。
生花へのこだわり
「今日は、生の花が入りたてなんですよ。」と見せてくれたのは市場から買ってきたばかりの花たち。最近ではドライフラワーやハーバリウムなど様々な植物の楽しみ方が登場しているが、久保さんが一番好きなのは生花だという。幼い頃から花一筋の久保さんに、魅力について伺ってみた。
「生の花って、市場で買ってすぐに提供できるものじゃないんですよ。『水切り』をしたり『水揚げ』をしたりね。綺麗に見える商売ですけど、裏では大変なことがたーくさんあります。」
“生”ゆえの苦労。作り置きができない商品だけに、結婚式の直前は徹夜作業もしばしばだという。花によっては枯れてしまうもの、咲くタイミングが難しいものもある。それでも「好きだから」と久保さん。職人の街・檜物町のお店らしい“職人魂”を感じる。
「大変ですけど、それでも生のお花がいいですね。だって生きてなきゃ……生きているものからでるパワーって凄いから。変に保存させたりせずに、自然に、朽ちていく感じ。」
「最近はドライブームなので、ドライフラワーを買われる方が多いんですけど……一応、ドライって死んじゃったお花というか。なるべく生を飾って生の匂いだったり良さを感じてから、その人にドライにしてもらいたいな。家に生花があると空気のピリッと感が全然違うんだよね、うん。」
実は『レフェ』にディスプレイされたドライフラワーは、このお店で作られた物もある。「オープンしたころから、もったいなくて取っておいたの。」と久保さん。それだけ愛着が湧くのも、命あるものゆえの魅力だろう。
現代では、こうした移ろいを楽しみながら暮らす機会は少なくなっている。
すぎゆく季節を寂しく思うこと、とおい風景を恋しく思うこと、記憶の中だけで楽しむ味があること。写真に撮れない、同じものに出会えないからこそ大切に想う気持ちは、私たちの心を豊かにしてくれる。花一輪、ちっぽけだが貴重な命が、あなたの暮らしを大きく変えるかもしれない。
人が嬉しい時、悲しい時に花があるのには理由があるのかもしれません。流れていく時間と今の想い……嬉しい出来事に感謝すること、悲しい出来事は過ぎ去っていくことを教えてくれるように思います。じーん。
街に種をまく
花が咲く場所
『フラワーショップ レフェ』、そのお店には妖精に招かれるように多くの人が訪れる。久保さんの作る花束は、目に見えない想いを花という形へ変えてくれるから。最後に、“花をつくり”つづける久保さんの、今後について聞いてみよう。
「あたしは今ね、若い子に目をつけていて。成人式やちょっとした贈物のお花を、凄く良くしてあげようと思っているの。というのも、いつか結婚式の時だったり、必要な時に花を思い出してもらえるように。お花のある暮らしを良いって思ってもらえるように。」
「だからよく、生のお花を差し上げるのね。サービスで。お店で枯れるなら、知らない若い子の家に何日かでも咲いてくれたらいいなと思って。お花があることの『心の余裕』とかを教えてあげられたら……だから、これからも高崎でお店をやり続けていきたいと思ってる。」
もちろん、都内でお店を出せばと誘われたこともある。それを断ってでもこの街を選んだのは、「高崎の街でも、こんなにいいお花が手に入るよって伝えたいから。」とのこと。生まれ育った街では手に入らなかった花、見られなかった花、贈れなかった花。それらは、久保さんの手によって高崎市の日常へと入っていく。大好きなこの街を、もっと好きになれる。そんな花の仕事を、続けていく。
「この街はもう、馴染みすぎちゃってどこがいいとか好きだとかは言葉にできないんだけど。団結力があって、あったかくて、皆優しいもんね。頼れる人ばかり。」
「だからなのか、転勤で高崎を離れたお客さんがもう一度来店してくれることが多いです。軽井沢に行く途中だったり、お友達に会うタイミングだったり。『もう一回その街に行きたいって思うこと、あんまりないんだよ』って言われて、嬉しかった。高崎の人がなんか魅力的で、ちょっと戻ってきたくなる。そんな街なんだろうね。」
fleurissent votre coeur. ――ひっそりと書かれたフランス語は、久保さんの描くこの街の未来だ。美しい花々が溢れ、共に生き、今ある命を大切に暮らすこと。久保さんの作る花は、今日も誰かの心で咲くに違いない。豊かな命溢れる、この街で。
『フラワーショップ レフェ』
住所:群馬県 高崎市 檜物町104
電話:027-395-6123
ファックス:027-395-6125
営業時間:11時~19時(火曜日定休)
この記事に関連するメンバー
西 涼子
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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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