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高崎の街と歩む居酒屋40年。中央銀座にともす“仲間”の灯火

高崎市、中央銀座商店街。暮れ暮れの街に流れる音楽をバックに、南北に長く伸びたアーケードを歩く。雑居ビルの小路を進めば、音を立てて点く赤提灯が顔を出す。高崎の繁華街で40年続く居酒屋「梅ふく」の“味力”について取材した。

2018.07.13

街と歩む40年

高崎市のアーケード

高崎市は多くの“顔”をもつ街である。

自然豊かな山々、街を彩るショッピングモール、昭和レトロな中央銀座アーケードの商店街。街中、中央銀座の長いアーケードは戦後高崎の復興と発展の象徴であり、歩けば懐かしい空気を肌で感じることができるだろう。ピークはおおよそ昭和45年、多くの小売業者がひしめき合い、高崎一活気のある街並みだった。

現在、すべての地方都市がそうであるように、高崎市の中央銀座商店街もシャッターを閉ざす店や撤退を決める店が増えている。かつて人々が笑いあい肩を組んだ“我らの居場所”はひっそりと息をひそめ、歴史の中へと沈んでいく。

居酒屋 梅ふく

そんな中央銀座の奥の奥、雑居ビルの小路の先に「梅ふく」はある。

夕暮れと共に明かりの灯る赤提灯と使い込まれた藍の暖簾、木製の引き戸。扉の先には驚くことなかれ、昭和と変わらぬ活気が息づく居酒屋がある。初めての人は寂しくなった商店街とのギャップに戸惑うかもしれないが、席につくなり実家のような温かさを与えてくれる名店に落ち着いてしまうだろう。

今回は、「梅ふく」店主の望月雅男(まさお)さんと自慢の料理がつくりだす高崎の味をお伝えしよう。

物理的に隠れた名店「梅ふく」さんを取材しました!

街歩きと飲兵衛の間ではかなり人気なお店なんですよ。

梅ふくの味力

「梅ふく」のはじまり

「居酒屋の店としていやな名前でもないし、いい名前ってわけでもなかったし…凝る方じゃなかったからね。」

と語り始めたのは、「梅ふく」の始まり。修行先だった名古屋「梅ふく」の屋号を地元へ持ち帰る形での開業となったのが始まりだ。

店内に飾られた“寄せ書き”は独立までお世話になった同僚からのメッセージ。「モッチャン、ガンバレ」と修行先・名古屋の店舗から送り出された。「はやく自分の店をもちたい、自分の力でやってみたい」と始めた修業が実を結んだのは、27歳の時。高崎市の街で「梅ふく」がはじまった。

現在のお店より100mほど離れた場所にあったという「自分の店」。独立したての若者らしく、小資金で始めたお店だった。3,4年後、中央銀座に新しいビルが建つと聞いて思い切ったのが40年前。「今は古くなっちゃったけどね」と紹介してくれたお店は、長年寄り添ってきた相棒だ。

高崎で仕込む味

そんな「梅ふく」自慢の味を聞いてみる。

カウンターに並べられた山の幸、黒板に書かれた海の幸。果たして、名古屋で修行してきたご主人一押しのメニューはどれだろうか。

「看板メニューってものはないけど、おでんが一番かな。ただ、5月の連休から秋のお彼岸までは(おでんは)お休みで。ほんとは一年中やれればいいんですけど、暑いのと湿気でねぇ。おでんは湿気があると傷んじゃうから。作る時は沸騰させずに80度~90度。冬だけなんですよ。」

名古屋仕込みのおでんは、白醤油をベースにした見た目にも美しい一品。関東、群馬の味と大きく違うところは、出汁で味を決めるところだという。

「白醤油は群馬じゃ見ませんが、つくりたてのおでんの汁が、まったく濁らないのが特徴です。おでんっていうのは、日がたつにつれて具材から味と色が染みだしてくるんですが、私はちょっと黒くなるとすぐ新しい出汁に変えてますね。お客さんによっては、静岡みたいなの(黒おでん)がいいって人もいますけど、私はお吸い物みたいな綺麗なおでんが好きですね。」

「皆さんによく『50年やってれば50年前の店の味が残ってる』とか、『継ぎ足しの味』なんてウナギの秘伝のタレのようなこと言われちゃうんですけど、その都度新しく名古屋の(綺麗なおでんの)味を作っていますよ。」

琥珀色に美しく輝くおでんの出汁は、40年前の味があるわけではない。

それでも、その出汁に溶けだしたものは望月さんが40年間守り続けてきた「梅ふく」の美学なのだ。

 

ところで、この記事が掲載されるのは7月初旬。

おでんがやっていない時期だとがっかりされた方も多いのではないだろうか。

もちろん、「梅ふく」のすごさはおでんだけにあらず。刺身は一流の寿司屋と変わらない仕入れと技で仕上げられ、採れたてと作りたての美味しさを引き出すテクニックは普通の居酒屋とは段違い。季節の物を中心に、きんぴら、おから、もつ煮…オーソドックスなメニューだけに、その非凡な腕前に惚れ惚れするだろう。

40年の粋が集められた「梅ふく」の味は、食べたものを感動させること間違いなし。おでん以外も目当てに、通ってみてほしい。

カウンターに置かれた大皿、山盛りのご馳走。

食べて話して飲んで忙しいこと間違いなし…!

こだわりは“こだわらない”こと

ここまで、「梅ふく」の並外れた料理の美味しさを取材してきた。

雰囲気のあるお店で美味しいお酒とあたたかな店主…これ以上ないほどにお酒を飲むにはいいシチュエーションが揃っている。店内を見回すと、キリッとした旨辛口と噂の名酒「銀盤」が目に入った。どうやら、最近の居酒屋とは違って、「梅ふく」には限られた種類の酒のみが並べられているようだ。

お酒のこだわりはなんだろうか、訊ねてみることにした。

「お酒には逆にこだわらないで、最初っから富山の『銀盤』なんです。これは40年前に酒屋さんに勧められて、自分で飲んでみていいなと思ったからですね。昔でいうとこの二級酒というやつなんですが、うちは冷酒も常温も燗もこれ。」

「流行りもんじゃなくて、自分の性格があっちだこっちだって浮気できないんですね。決めたらこれっていうのが好きなんで。生意気いうんじゃないけど、うちはこういうスタイルっつーことでやっております。」

聞けば、ウイスキーも「どうしてもハイボールが飲みたい」という常連さんの声に負けて出し始めたという。こだわらない、けれど、ブレない。40年高崎の街で店を続けてきた男の生き方が見えた気がした。

かくしあじ

カウンターのむこうから

さすがは40年カウンターを切り盛りする主人の力量、実際には笑いの絶えないインタビューとなった。

高崎の街が様々に変化する様を見守り、育ててきた望月さん。普段はどのような人物なのか。

「お酒、といえば私自身も結構飲む方で、それが一番悪いんですね。店で結構いただいちゃう。お客さんも承知で、自分も調子もんだから…自分で言うのもあれだけど、飲まない時はあんまり喋れないんですよ。固くなっちゃって。」

「わりに人と接触するのが得意じゃない方で、営業中は気を使うじゃないですか。お客様に楽しんで帰ってもらうのが一番ですからね。だから、昼間や休みの日はなるべく喋らずに充電してるんです。じつは、そういう方が好きなんですね。」

お店の時のご主人からは想像できない打ち明け話に驚いたと同時に、「梅ふく」でのひと時…その貴重さに気が付くことができる。

「梅ふく」は中央銀座の居酒屋、初めに来る方もシメに来る方も様々だ。それでも皆が皆、満足できるのはご主人の繊細な気配りと奥さんのさりげない気配りがあってこそ。長年続く繁盛店らしい、格好良さだ。

「ちょっと飲むとすいすい喋れるもんだから、つい飲みすぎて。余分なこと言ってかあちゃんに怒られることもあるんですけどね。7時くらいに来たお客さんが「今日は飲んでないの?」と言ってきたり。そんな感じなんです。」

 

酔っ払いで通っています、と笑う望月さん。そんなところも、格好良いなぁ。

カウンターのむこうへ

客と店とが一体になる居酒屋「梅ふく」。目指すのは「カウンターを挟んでうぃんうぃん(win-win)な関係」だという。

「特にここ最近はお店が楽しくなりました。気兼ねなくできるお客さんがね、増えたので。お客さんにも色々で…お酒の席なのに気持ちよく飲まない人もいるんですよ。40年やってきて、お客さんのためにダメだなぁと思ったときは…喧嘩したこともありましたね。」

今の店のスタイルも、雰囲気も。すべては長い年月の中でお客さんと共に作ってきたものだ。長く続けるほど、ブレない芯があるほど、お客さんも店を選び自分も雰囲気を選んでいく。客商売、お客さんとの喧嘩なんてご法度だろう。それでも守りたかった芽が、今、「梅ふく」を支える大樹に育ったのだった。

「こういう呑み屋さんは銭湯と同じような感覚で、みんな同じになれる部分があると思うんです。風呂の気持ちよさは、どんなに偉い人でも偉くない人でも裸になっちゃえばわからない所にあるからね。」

だから、今の言葉で言うならwin-win、お互いに良くしていくものなんじゃないかな…そうカウンターから語る望月さんの目は、真っすぐにお客さんを見つめていると感じた。

カウンター一枚。距離にすればほんの数十センチの壁は、得てして上下や優劣が付くことが多い。双方の声は満足に届かず、初めてのお客さんは往々にして気まずい思いを抱くこともあるだろう。

だからこそ、望月さんは初めて来たお客さんには必ず声をかけることにしている。

「店の立地が(路地の)中に入ってるんで、ただ通りすがりの人が来たってことはないんですよね。皆さん、何かの興味をもってうちを探して来てくれた人ですから。」

街中の店舗だけに、出張の際に寄る人も多い「梅ふく」。1人で来たひとがまた人を呼び、連日店は満員だ。地元じゃないのに地元のような安心感が来る人を惹きつけてやまない。高崎に深く根を張った大樹に、羽を休めて明日を生きる。

高崎と共に生きる

梅ふくとともに

今年で68になったという望月さん。今は、できるだけ長くお店を続けていきたいという。もちろん、しっかり者の奥さんと2人で。それが「梅ふく」のスタイルなのだから。

「3年位前から週休二日、もうちょっとしたら週休三日でもいいかなと。何年か前に『あと10年やります』なんて張り紙だしちゃったけど、いつからだったか忘れちゃったなぁ。また来年あたり、あと五年くらいはやりますって出そうかな。」

1人で店を切り盛りしたこと、8トラのカラオケが置いてあったこと、朝の5時までお客さんに付き合ったこと。若さで駆け抜けた20代から今の自分へ、店とともに歩んでいく。

高崎のあなたとともに

「梅ふく」とともに、高崎の街も人も変わりながら生きている。望月さんはこれからの高崎についてこう語ってくれた。

「前、高崎の街にいきるとかって映画を撮りに来た方がいましてね。すごく生き生きしてて…高崎を盛り上げようって若い方がたくさんいました。20代、30代。就職されてる方だと一番楽しい時期だと思います。私はこれからの高崎を、その人たちに期待したい。『高崎で暮らす』でたくさん、聞かせてください。」

「それから、若い人へ。一度思い切って、こういう居酒屋の暖簾をくぐってみてください。中にいる方は皆あなたより年上の人が多くて、窮屈かもしれないけど…飲み始めると(居酒屋の)席ではみんな同じ、みんなが仲間。その楽しさは知ってほしいね。」

壁一面に書かれたメッセージの数々。「おめでとう」「結婚したよ」「再会を祝して」…あの時のメッセージが迎え入れてくれる、私たちの街の記憶。自分の心の中に、街の中に、一つは帰れる場所を持っておきたい。「梅ふく」は今日も誰かの、ふるさとだった。

梅ふく

住所:群馬県高崎市寄合町7
電話:027-326-9910
営業時間:17時半~(日曜日、月曜日定休)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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