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高崎駅から地域の畑へ 『タカサキエキビレッジ』が支える地域の繋がり

今回紹介するのは毎月月末にJR高崎駅構内で開かれるマルシェ『タカサキエキビレッジ』の運営を行っている金井良平(かないりょうへい)さんと智美(ともみ)さん。地域と関わる二人の“地域貢献”ではない活動の真意とは?自らの心の声を大切にする生き方と“身近なもので豊かに暮らす”暮らし方について紹介しよう。

2019.03.25

高崎市にあるもの

豊かなこのまちの緑が溢れるマルシェの風景 今回は高崎駅にある"村"にやって来ましたよ~

高崎市を楽しむ

暮らしが楽しいまち、高崎市。「群馬県には/高崎市には/地元には何もないじゃないか」という声もある中で、このまちの暮らしは多くの可能性を秘めているという話をしよう。

近年、各地で“地元/田舎住まいの魅力”が注目を浴びているのをご存知だろうか。地域やライフスタイルに合わせて、暮らしを楽しむこと――必要なのは「すこし視点を変えてみること」だけだという。幸い、このまちには「高崎で暮らすこと」を楽しんでいる人が多くいる。「ここには何もない」と思ったときにこそ、彼らの言葉を“道しるべ”にして“あなただけの高崎”を見つけてみるのはどうだろうか。

 

陽の差す縁側と、そば茶、半纏 ほっこり丁寧な暮らしぶりの金井さんご夫婦に話を聞いてみます

『タカサキエキビレッジ』

今回の高崎で暮らすことを楽しむ“案内人”は、毎月月末にJR高崎駅構内で開かれるマルシェ『タカサキエキビレッジ』の運営を行っている金井良平(かないりょうへい)さんと智美(ともみ)さん。高崎市剣崎町の通称“桃ケ丘”に暮らしながら、音楽イベントや古家具市の開催、空き家の活用など多岐にわたる活動を続けている。

インタビューに際し「あまりカッコよく書かないで下さいね。基本、何も考えてないので……」と切り出した金井さん夫婦。地域と関わる二人の“地域貢献”ではない活動の真意とは?自らの心の声を大切にする生き方と、“身近なもので豊かに暮らす”暮らし方について紹介しよう。

今回ご紹介するのは月末の高崎駅に”美味しさ”を届けてくれる金井さんご夫婦!改札をでて西口方面、賑わうマルシェを見たことがある方もいるのではないでしょうか?

何気なく立ち寄った方にも、知らなかったという方にも。駅にある”村/ビレッジ”の魅力をご紹介いたしますっ

はじまりの駅

ずらりと野菜が並べられた『すもの食堂』の写真 良平さんが集荷を、智美さんが店頭での販売を担当していたとか

『すもの食堂』というキッカケ

金井さん夫婦が運営する『タカサキエキビレッジ』は、「群馬県内の美味しい食や素敵なもの」を通して“生産者と消費者が直接出会える場”づくりを行うマルシェ。活動を始めたきっかけについて訊ねると「知人から八百屋を引き継いだのが始まりで……」と良平さんは話してくれた。八百屋を通じて2人が考えたという、地域との関係について教えてもらうとしよう。

「(良平さん)高崎市田町の古い蔵を改装してはじまった八百屋『すもの食堂』を引き継いだのは8年前。蔵の持ち主だった漆器店のご主人と知り合いだったこともあり、前任者から“意図せず”引き受けた形で店舗の運営を始めました。引き継いだ当初『すもの食堂』が掲げていたコンセプトは“群馬県産の野菜を扱うこと”。野菜に関して素人だった自分たちにとって、暗中模索の日々が始まりました」

「(智美さん)『すもの食堂』に並べられた野菜は、農家さんの野菜から家庭菜園の野菜まで様々なもので、お客さんに違いを聞かれても答えられないことばかりでした。『このままではダメだ』と思い、“美味しいもの”にこだわって運営を見直そうとしたんですが……“美味しいもの”の基準もわからなくて。結果的には、有機栽培の野菜に絞って販売をしていましたね。『オーガニック』や『無農薬』といった言葉に囚われていたんだと思います。自分たちがつくりたいお店と、周囲からの評価とのギャップに苦しみました」

『すもの食堂』を運営していた頃を振り返りながら金井さん夫婦が思い出すのは、東日本大震災の記憶。群馬県内でも各地で停電やガソリン不足などを引き起こした災害に日常が壊されゆく中で、気が付いたことがあるという。

「(良平さん)東日本大震災で物流がストップした時のことでした。道を歩けば畑に野菜はあるのに、スーパーには群馬の野菜すら入荷がない。農家さんから話を聞くと、県産野菜の多くは都内の市場を経由してから県内のスーパーに並ぶということでした。“地元の野菜が、地元の人に届いていない状況”を初めて知って、『おかしいな』と思ったんです」

「(智美さん)一方、『すもの食堂』では地域の野菜を直接仕入れていたので、震災の時にも新鮮な野菜を販売することができていました。お客さんで賑わう店の様子をみて『うちはいつでも(野菜の入荷があって)安心だ』と思っていると、農家さんから『日々のつながりがあってこそだよね』と言われたんです。その言葉にハッとさせられました。身近に畑があっても、地域に野菜をつくる農家さんがいても、人と人とがつながっていなければ野菜は手に入らない――当たり前のことなんですけど、普段スーパーなどで“お金と商品のやり取り”をしている私にとって衝撃的で、その言葉は今でも心に残っています。」

震災、そして未経験の八百屋運営を体験する中で「地域で暮らすことについて考えさせられました」と語る金井さん夫婦。地域と繋がっていない暮らしへ“危機感”を抱いた2人は、「身近なもので豊かに暮らす」ための活動をはじめることとなる。

8年前の大震災では、人と人との繋がりが再注目されました。人間関係の大切さ、困難さ、貴重さ、脆さ……色んな意味で、立ち止まって考える契機となりましたね。風化させない、というのは、そうした“悩み考える機会”を失わないことでもあると、編集者は考えます(悩み悩み)

『タカサキエキビレッジ』に出店している農家さんのもとへ足を運ぶ金井さん夫婦
“美味しさ”がつくられる土地や人に触れた時の想いを、熱く語ってくれました

八百屋からマルシェへ

『すもの食堂』の開店から数年後、金井さん夫婦の取り組みは『タカサキエキビレッジ』の開催へと繋がっていく。「不特定多数の(そして、買い物以外を目的にした人も多く訪れる)場所でマルシェが成立するかは半信半疑でした」と振り返る智美さん。新たな挑戦から2人が見つけたのは、“自分たちがやりたいことのかたち”だった。

「(良平さん)『駅で、マルシェ』という形を選んだのは『つくる人と食べる人の交流の場”を設けたい/広げたい』という想いがあったからです。きっかけをくれたのは、前橋市粕川町でチーズ工房を営む『Three Brown』の松島ファミリー。全力でチーズづくりに励むご主人と、販売を担当する奥さん、仲の良い家族の雰囲気と愛情を込めて育てられている牛たちの魅力に触れたことでした。チーズの美味しさを伝えたいのはもちろんですが、ご主人が抱くチーズ愛の深さや『Three Brown』の“松島ファミリー”が面白いということは伝えても伝えきれないもの! 仕入れをする時に感じるワクワク感を、美味しいチーズ(商品)を食べた人に知ってほしい……松島さん(つくり手)に直接会って話をして欲しいと思うようになりました」

「(智美さん)同時期に運営していた『すもの食堂』は、納得できるお店づくりが出来ないままでしたが……駅のマルシェでは『直接つくり手と会話をしながら、魅力が伝えられる』ことに可能性を感じていました。また、自分たちが良さを実感した出店者さんだからこそ、魅力を全力で伝えられるのも良かったですね。商品やつくり手を知らないまま売ることのないように、時には1年2年と時間をかけながら出店者さんを選んでいます」

『すもの食堂』と『タカサキエキビレッジ』――似ているようで違った2つの企画を運営するにつれ、“自分たちがやりたいことのかたち”が明確になってきたという金井さん夫婦。『すもの食堂』については、「心や体に無理を強いてまで続けるべきではない」と閉店を決断。改めて「自分たちが、美味しいと思えるもの」を追求したマルシェの運営に力を注ぐことを決めたのだった。

 

つながる、ひろがる

マルシェは月ごとにテーマが決められていて、出店者も商品も一期一会!?
2日間のうち「片方のみ出店」というつくり手さんもいますので、FBやHPをチェックしてから遊びに行くのがおススメです

心の声を聴く

出店者自らによる商品の案内や、金井さん夫婦がブログにて紹介する“暮らしの風景”が魅力の『タカサキエキビレッジ』。その活動は“地産地消”や“地域貢献”が目的だと思われがちだが、「そんなことはないんですよ」と金井さん夫婦は話す。マルシェ運営、そして暮らし方にも共通する2人のポリシーについて話を伺ってみた。

「(良平さん)自分は『体に良いんだから、まずくても仕方がない』という考え方はしたくないなと思っていて……というのも、子供の頃に無理やり健康食品を食べさせられていた経験があるんです。『まずい』と思っているものを、無理に食べ続けるのって辛いんですよね。『美味しい』と思うものを食べて、『健康』になる――自分自身の“心の声”を聴いて、行動したいんです」

「(智美さん)『タカサキエキビレッジ』にも、『オーガニック』『地域貢献』『地産地消』のイメージを持つ方が多いようですが……誰かのため、地域のためというわけでもないんですよ。自分たちのため、というか」

「(良平さん)マルシェの開催を決めた出発点は、『自分たちが地域の美味しいものを食べたい』という想いですからね。『すもの食堂』の時には“美味しい野菜”の判断基準が『有機栽培』や『無農薬』などの“言葉”になっていたので、『タカサキエキビレッジ』では『自分が食べてみて、何も考えず「美味しい!」と思えること』を大事にしています」

気負い過ぎず、自分たちの心が喜ぶことを軸に活動する夫婦の想い。意外にも“個人的な願望”が初めの一歩だったという『タカサキエキビレッジ』は、今や多くの人を笑顔にさせる“地域を盛り上げる力”となっている。試行錯誤しながら開催するマルシェについて「開催のたびに、気付かされることが多いですね」と話す金井さんたち。今後も『タカサキエキビレッジ』はパワーアップを続けながら、月末の高崎を盛り上げてくれることだろう。

「まちを歩く人は少なくとも、駅にはたくさんの人がいますから」と“駅”の良さにも注目している金井さん夫婦。「年をとってもまちを楽しめるように」と車を使わずに電車で遊びに行く企画もしているそう(めっちゃ楽しそう)

まだまだ発見されていない高崎の魅力、あなたも探しに出かけてみませんか?

お客さんも出店者もどきどきの駅ナカマルシェ 体温が伝わる距離でのコミュニケーションが、一番の魅力かもしれません

身近にあるもので豊かに暮らす

「駅以外でも『タカサキエキビレッジ』をやりたいんです」と今後を語る良平さん。最後に、2人の活動が目指す未来について聞いてみた。かつては地元に魅力を感じていなかったという2人は、一体どのような“面白いこと”を考えているのだろうか。

「(智美さん)『タカサキエキビレッジ』では“美味しいもの”にこだわってきましたが、舌先だけでない“おいしさ”を知ることが多くなってきました。例えば、食卓に地域の農家さんの野菜が出た時――自然と農家さんの顔が思い浮かんだり、作り手それぞれの個性を感じたり、嬉しさや楽しさ――色んな感情があっての“おいしさ”を感じるんですよね。マルシェという“直接つくり手に会える場”は、味と価格以外の魅力もたくさん伝えてくれます。⽣産者や消費者という垣根を越えて、あいさつをするくらいの距離感で、お互いの⽣活が成り⽴てばいいな、と思っています」

「(良平さん)だからこそ、今後は駅での出会いをきっかけに、生産者さんの所へ行って欲しいですね。東京の人がいきなり群馬の農家さんを訪れたり、高崎で畑を始めるのはハードルが高くても、マルシェがあれば繋がれる人がいる。作物が育った土地を、つくった人を見て欲しいと思います」

「(智美さん)今、改めて思うのは……私が昔『地元には何もない』と思っていたのは、地元のことを知らなかっただけなんだなということですね。面白い出会いが1つあると、どんどん繋がって楽しくなるということを知りました。私たちの活動が『この人がいる地域が好き』『美味しいものがある地元が好き』という気持ちに繋がる一つのきっかけになったらいいなと思います」

『タカサキエキビレッジ』を始め、古家具の販売、空き家のリノベーション、音楽イベントの企画……幅広い活動を行う金井さん夫婦。暮らしを楽しむことを諦めない2人の活動は『身近なもので豊かに暮らす』ことを軸にして、繋がり/広がってゆく。このまちにある食、このまちで暮らす人、このまちだからこそできること――高崎のまちは、まだまだ面白くなる可能性を秘めているのだ。

もし、あなたが高崎のまちを楽しみたいと思ったら。同じ想いを、同じ未来を描く仲間はすぐ傍にいる。

――それは間違いなく、このまちの魅力と言えるだろう。

タカサキエキビレッジ

日時:毎月最終金・土曜日の2日間開催
   11時~18時
  ※日程は変更になる場合があります。
   詳しくは「タカサキエキビレッジ」のHPをご覧ください。

場所:JR高崎駅構内、中央コンコース(高崎市八島町)
   *中央改札を出て西口方面へ。通路沿い左手側となります。
   *お車でお越しの方は、近隣のコインパーキングをご利用ください。

お問い合わせ:eki-village@hotmail.com(エキビレッジ事務局・金井)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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