高崎市あら町 “歴史の糸”が繋ぐ人の絆 お煎餅屋さんが伝える想い
高崎市あら町。大正5年から104年続く老舗煎餅屋『東煎餅なかの』へインタビューに訪れた。この街の歴史、店に受け継がれてきた味を守るのは3代目店主・中野隆司さん。自身のお店の紹介と、地域で繋いでいきたい想いについてお話いただこう。
2020.11.06
高崎市と歴史
時代が変わり、景色が変わり
歴史ある街、高崎市。 “交通の要衝”“音楽の街”といった地域を表す呼び名や暮らしの風景には、地域で暮らしてきた人たちの営み・記憶が基盤を作っている。地域の名産品、代表となる建物、祖父母・両親から伝え聞いた話。時代が変わり景色が変われども、変わらないものは確かにある。
『東煎餅なかの』
高崎市あら町。大正5年から104年続く老舗煎餅屋『東煎餅なかの』へインタビューに訪れた。この街の歴史、店に受け継がれてきた味を守るのは3代目店主・中野隆司さん。自身のお店の紹介と、地域で繋いでいきたい想いについてお話いただいた。
『東煎餅なかの』のお煎餅やかき餅は、千差万別の味・形をしている。色とりどりのお菓子は、104年前と変わらぬ場所で、変わらない“街の味”だ。そんな店内の様子も“気付きのヒント”にさせていただきながら、当たり前の暮らしに潜む“この街だけの魅力”を探ってみるとしよう。
お腹が空きそうな店内にて、街の歴史と商店のお話をじっくり聞かせていただきました!
記事のお供に、あっついお茶とお煎餅を用意してお読みください♪
街の味
あら町と共に
「祖父が創業して、今年で104年になります」と紹介してくれた店主・中野さんは、代々あら町で続く老舗煎餅屋『東煎餅なかの』の3代目。平成元年には『全国菓子博覧会』で名誉大賞を受賞した実力のお煎餅が、店内に所狭しと並べられている。丸や四角の煎餅やかき餅の始まりと、商品に込められた想いは何か。まずは中野さんに、お店の歴史から紹介していただいた。
「丁稚奉公のために新潟から出てきた祖父が、奉公先のお煎餅屋で修行・独立開業したというのがお店のはじまり。それから104年、ずっとあら町で商売をしています。昔は小売りというよりも卸だったようですが、戦後、商品が自由に行き来するようになるにつれ、小売り専門になったと聞きました」
「3代目の私は、お煎餅屋さんを始めて44年。祖父祖母に家業のことを言われて育ってきたというのもありますが、小学校の頃から家業を手伝っていたので『気が付いたらお煎餅屋さんを継いでいた』という感じです。創業当時のレシピでつくるお煎餅と父の代で新たに作り始めた商品を合わせて、お煎餅やあられ・かき餅など50~60種類を扱っています」
スタンダードな醤油味から自慢の自家製ソースのかかったお煎餅、また、甘い砂糖の衣をまとった『しらゆき』や量り売りのあられ『真砂』等。初めて訪れた人は思わず迷ってしまうほどの種類は、中野さんが受け継いできた“歴史”を感じるお菓子たちだ。
「海苔や昆布は手巻きして、砂糖引きのお煎餅は1枚1枚刷毛で塗っています。手作業で丁寧にやる分、綺麗に仕上がっていると思います」と照れつつ紹介してくれた中野さん。やや粗挽きの米粉に自家製タレで味付けるお煎餅は、老若男女問わず楽しめるほっこりした味わいになっている。
思い出の味
高崎市のとれたて野菜や名産品など“美味しい”をコンセプトにしたアンテナショップ『高崎じまん』では、500種類以上のアイテムが販売されている。中野さんのつくるお煎餅『ソース小丸』や『福合わせ』等も“街の味”として紹介・販売されている逸品だ。地域のお店としての観点から、お店の在り方や商売についてお話を聞いてみた。
「『高崎じまん』の店舗には自家製ソースでつくる『ソース小丸』やたくさんの種類が味わえる『福合わせ』等を用意していますが、それ以外のお醤油味・砂糖味・チーズ味等の商品を求めて店舗へ来店くださる方もいらっしゃいます。最近よく声をかけていただけるのは、やはりソース味のお煎餅。私としては『げんこつ』などの硬いかき餅もおすすめです」
「この辺り(高崎街中)は観光地ではないけれど、お煎餅は軽いし日持ちがしますから。生菓子と違う良さを活かして、お土産にしていただいても良いのかなと思います」
街中の商店として、地域内だけでなく地域外への販売――“地産他消”にも力を入れている中野さん。『高崎じまん』に並べられたお煎餅のパッケージは、小さな米袋型でお土産としても十分だ。
「お客さんに『美味しかったよ』『この味が好きだよ』と言ってもらえるとね、本当にお店をしていて良かったなと思いますね。長くやっていますから、昔高崎に住んでいたという方から『しばらくぶりに来たよ』と来店していただけることもあります」
「お煎餅は1枚から売っていますし、あられは量り売りをしています。『ビンに入ったお菓子を、自分の好きな量だけ買っていく』という昔ながらの売り方も、楽しんでいただけているようです。私自身もお店に足を運んでくださったお客さんとコミュニケーションを取りながら、楽しんで商売をしています」
“街の味”だけでなく“想い出の味”としてお煎餅を楽しみにしている常連さんもいるという。歴史がある店舗だからこその価値、あなたも多くの種類の中からお気に入りの味を探してみてはどうだろうか。
店長オススメの『ソース小丸』はやや辛めな味付けに仕上がっておりますよ
『高崎じまん』にない味・種類も書ききれないほどありますので、ぜひ本店に行ってみてくださいね~!
伝えたい想い
文化、暮らし、商売
コロナ禍において、厳しい状況に立たされている小売業界。中野さんのお店も例外なく、また、時代の移り変わりと共に厳しい現実があるという話を伺った。街中で暮らす人も少なくなってきた今の時代、これからの商売・小売の風景はどのように変わっていくのだろうか。
「今は本当に“売れない時代”になってしまいましたね。景気の良い話ができなくて申し訳ないけれど、私が家業を継いだ頃の良い時代は終わって、リーマンショック・コロナと景気が落ちて立ち直らないのを感じています。特にお煎餅は “贈答文化”が薄れてきていることが大きく影響していて、必要とされる時が減っているのを感じます」
「うちには跡継ぎもいないので、お店を閉めるときのことも考えなきゃいけません。ある程度時期を定めて廃業していくしかないなと、近所の小売店仲間とは話をしていますけどね。今はどこも商店が厳しい時代、うちに限らず、多くの店舗に言える状況なんですよ」
『会社間での贈り物』や『親族でお盆・お彼岸に集まったときに』と重宝されてきたお煎餅。文化の移り変わりが、私たちの働き方・暮らし方を変えていくのを実感する。私たちが地域のお店・暮らしの風景が見える街中を楽しむことができるのも、移り変わる時代の中で“当たり前”のことではなくなっていくのかもしれない。
「今、私が大切にしているのは“きっちり店を開けて、きっちり営業していく”という基本のこと。本当に美味しいと思える商品をつくり、自分がオススメできる商品を売る仕事をしていきたいです」
糸の先には
最後に、「あら町に生まれ、あら町で育った」という中野さんへ地域の想いを伺ってみた。現在行っている地域活動と、これからの世代へ繋げたい想い。地域は暮らしと切り離せないものだからこそ、今ここで暮らす私たちが知らなければいけないものがある。
「あら町には4町内あって、私は町内全体をまとめる『あら町会』の会長をしています。主な役目は町内のお祭りやあら町諏訪神社の例大祭など……色々とやることがあって大変ですが、高崎・あら町に100年以上も住まわせてもらっている家族の1人として、地域への感謝の気持ちでやっています」
『あら町会』の役目の1つに、延養寺での「新町御伝馬事件」の供養があると中野さんは話をしてくれた。幕末のあら町で起きた危機は多くの人の尽力によって乗り越えられ、今のあら町があるという。
「かつてあら町で多くの人が『あら町のために』と頑張ってくれた。そうした歴史があるからこそ、今の私たちがあるんですね。古くからあるものや歴史を守り伝えていくことも難しい時代になってきましたが、大切なことは忘れずに暮らしていきたい。若い人たちにも、私たちが繋いできたものを知って、今後も継続してほしいなと思いますね」
私たちの暮らしは、過去から未来へと続く“糸”で色彩豊かに紡がれている。その糸の先には、どんな人達がいるのだろうか。はるか先の未来で、『高崎で暮らす』が糸をたどる道しるべとなれるよう、これからも読者の皆様・取材に協力してくれている地域の皆様と共に邁進してゆきたいと思う。
私たちが今知るべきもの/伝えていくべきものを共に拾い上げながら、暮らしをより豊かなものにしていこう。
『東煎餅なかの』
住所: 群馬県高崎市あら町二の四
電話: 027-322-2282
定休日:日曜日
この記事に関連するメンバー
西 涼子
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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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