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高崎市片岡町 茶道具販売店が伝える「一服のお茶を楽しむ暮らし」

高崎市片岡町の小売店「株式会社泰山」にて、店主の井上さんへインタビュー。茶道具・甲州印傳・漆器の販売を行う同社が発信する「お茶のある暮らし」について語っていただいた。時代を超えて伝わるお茶の魅力に触れながら、美しい茶器が彩る日常について考えてみよう。

2021.07.02

商いの心と高崎市

小さくも存在感を放つオシドリの香合(こうごう) 作り手の想いを届ける、小売店の挑戦をご紹介します

商品が伝える「暮らし」

個性的な店舗で賑わう、商いの街・高崎。街の風景に「新たな暮らしの提案」をする商品が集い、活気ある街づくりに一役買っている。

毎日を魅力的に引き立てる商品を支えるのは、商品の作り手と販売者の“熱い想い”だ。良い商品は、必ずこの街をさらに魅力的な地域へ変えていく――そんな想いが感じられる、暮らしと共にある商品たちを見つけてみたい。

 

取材を快諾してくれた井上さん、見どころ盛り沢山な店内を丁寧にご案内いただきました!

「株式会社泰山」

高崎白衣大観音のおひざ元・高崎市片岡町。茶道具・甲州印傳・漆器の販売を行っている「株式会社泰山(かぶしきがいしゃたいざん)」を訪れた。出迎えてくれたのは店主であり茶道講師の井上智太(いのうえともひろ)さん。店内に設えた茶室にて取材させていただき、扱う商品のお話と「お茶のある暮らし」について語っていただいた。

「株式会社泰山」では道具の販売だけでなく、文化や歴史への想いを込めた「抹茶文化の発信」にも力を入れている。時代を超えて伝わるお茶の魅力に触れながら、美しい茶器が彩る日常について考えてみよう。

何気ない毎日が、一杯のお茶で変わるかも?!

暮らしを豊かにする「抹茶文化」について、詳しくご紹介していきます🍵

師と共に

井上さんのお父さんが名付けた店名「泰山」は中国の世界遺産にもなっている聖山から 正面のディスプレイ棚は「棚田」を模して作られたそうです

道をゆく

「株式会社泰山」は茶道具を中心に器や掛け軸などを扱う道具店。季節を映した商品たちが並ぶ店内は、お茶の先生である井上さんの解説と共にゆっくり買い物が楽しめる。まずはお店のご紹介と、井上さんとお茶の出合いを聞いてみよう。

「1982(昭和57)年に父が創業した『株式会社泰山』はもともと輪島塗の専門店。知人に紹介された輪島塗を気に入った父が『群馬県中に輪島塗の素晴らしさを広めたい』と始めた漆器店でした。当時から塗り物として茶器を扱っており、お茶の先生や茶道愛好家のお客様は多くいらっしゃいました。年々お茶道具へのニーズが高まっていること、自分自身もお茶を始めたことで、お茶室を併設した現在の店舗に移り営業を続けております」

「私は父に『一緒に仕事をしないか』と声をかけられ、大学を卒業してすぐ家業に入りました。生活の中で器や骨董品に触れていた経験や父の働く姿を見ていたこともありすぐ店に馴染むことはできましたが、“お茶”については知識がなく……茶道具を扱う以上、茶道の稽古に行きたいなと思っていたんです。そこでお店の常連だったお茶の先生へお願いし、茶道を学び始めました」

「面倒見良く、気っ風のいい先生の人柄に惚れ込んでしまって」とお茶の道へ進み始めたきっかけを教えてくれた井上さん。その道30年のベテランでありながら「まだまだお茶の道は奥深くて、私は“中盤”くらいです」と謙虚な姿勢で茶道と向き合い続けている。

「今までお世話になった方の“人間的奥行き”ある魅力、お点前・茶道具の面白さ……全てが楽しく、お茶を続けてまいりました。妻ともお茶を通じて出会ったのですが、本当に周りの方に恵まれたと実感しています」

「現在は母と妻と私の3人で、週に4~5回店舗での茶道教室を開催しています。その他、和文化体験なども企画することで、お茶を多くの方に身近に感じてもらうような取り組みができればと考えています」

 

お茶室にて抹茶を振舞ってくださった井上さん 湯の沸く音や茶筅のリズム、茶葉の香り……五感すべてが楽しいひと時でした

お茶の歴史

「お抹茶について知ってほしい、日常で飲む機会を増やしてほしい」と「抹茶文化の発信」に力を入れている井上さん。文化・歴史の積み重ねが作る“お茶の美味しさ”について、詳しい解説をお聞きしてみよう。

「緑茶、ウーロン茶、紅茶……多くのお茶は同じ葉からできた飲み物なのをご存知でしょうか。抹茶は収穫前に太陽光を遮って柔らかく育てた茶葉の新芽だけを摘み、蒸し・乾燥させ・挽いた微粉末のこと。煎茶の茶葉とは全く違う、夏まで青々と茂る茶畑から少ししか取れない“葉っぱそのもの”を飲む飲み物です」

「日本で抹茶を飲むようになったのは、鎌倉時代のお坊さん・明菴栄西(みょうあんえいさい)が中国からお茶を持ち帰ってきたことが始まりです。飲まず食わずの厳しい修行の中で、お茶は“気力を取り戻すための薬”として飲まれていたんですよ」

「その後、戦国時代になるとお茶は特別な意味――茶道の第一人者である千利休ら商人と茶会をすることは、火薬や武器の交渉をすることに繋がっていきます。『領地を貰うよりも、信長からの茶入れが欲しい』と言った武将もいたほど、茶道が重要視された時代でした。『抹茶文化』は時代ごとに親しまれ方を変えながら、現代へと伝わってきた歴史をもっています」

茶葉の違いや抹茶文化の歴史を伝えることで、広く茶道に興味を持ってほしいと話す井上さん。美味しさの背景にある文化や歴史に触れることで、一層抹茶の味わい深さを感じることができるだろう。

「先人が450年かけて『美味しいお茶を点てるために』知恵を注いできた茶道の文化、一つ一つの意味を学ぶたびに、抹茶が美味しく感じられると思います。一般的には薄茶が注目されていますが、本来お茶事のメインとされる濃茶(抹茶を練ってつくる濃厚なお茶)にも興味を持って頂ければ嬉しいです。時代が移り変わる中でも大切にされてきた、世界で唯一の“日本の抹茶文化”をぜひ体験してみてください」

インタビューではお伝え出来ない程、お茶知識を教えてくださった井上先生

「抹茶フレーバー誕生のお話」や「本能寺の変と茶道の意外な繋がり」など、どれも面白い話ばかり……ぜひとも直接お話をきいてみてくださいね

受け継ぐ想い

こちらは「株式会社泰山」の店内茶室 入室時には緊張していても、お茶を頂けばすぐにリラックスできちゃいます

「清流間断無」

茶室の床の間に掛けられた、「清流無間断(せいりゅうかんだんなし)」の掛け軸。続いてお聞きしたのは、井上さんがお店と茶道を続ける中で大切にしている想いについて。流れる清水の情景はどのような教えを伝えてくれるのだろうか。

「必ずお茶室にはテーマとなる掛け軸が飾られていますが、この『清流無間断』は『清い水の流れが、途切れず続いていく』という意味を表す水の季節の掛け軸です。私はこの掛け軸の言葉を、常に心に思い浮かべて活動しています。自分自身の仕事――“父から受け継いだお店”も“茶道の師から受け継いだ所作や精神”も、澄んだ水の流れのように続けていくことを大事にしています」

井上さんは、自身が茶室で使っている茶釜もまた「清流間断無」なのだと解説してくれた。茶道を広める活動を続ける井上さんへ、師匠からの激励と共に譲り受けた茶釜――想いを込めて渡す/想いを込めて使う道具は、本来以上の“価値ある働き”をしてくれる。

「流れる水のように、師から受け継いだ茶道を私なりに解釈して弟子へ教えていきたいと思っています。この仕事は誰よりもお茶が好きで、情熱を持ってやっていかなければ続きません。お教室も単純な所作を繰り返す稽古ですから、お弟子さんに気持ちを伝えられるよう茶室の設えに力いっぱい想いを込めて作ることを心がけています。テーマとなる掛け軸や季節を感じる花やお菓子を通じて、お茶への想いが伝わってくれればと思います」

「またお店では中古の茶器も扱いますが、大切に使われていた道具を次の方へ渡すことも『清流無間断』だと感じます。茶室に飾られている掛け軸も、多くの人の手を渡って私の元へやってきました。道具も想いも、次へ次へと伝えていきたいですね」

抹茶文化が紡いできた歴史、受け継がれてきた所作、残された茶道具……それら全てが「清流無間断」なのですね(しみじみ)

高崎の街で無数に流れ伝わる“清流”、見落とさずに取材してまいります!!

「今は椅子に座って楽しむお茶もありますよ」と井上さん お家時間を抹茶と過ごしてみたい方、気軽に店舗へ伺ってみてくださいね

街で芽吹く文化

『清流間断無』の想いを胸に、「抹茶文化」を広め伝えていきたいと語る井上さん。最後にご紹介したいのは、井上さんが「抹茶文化を広めたい」と考えるきっかけをくれた茶会について。お茶が生み出す暮らしの良さをお話いただいた。

「私が『抹茶文化を広めたい』と考え始めた転機は、東日本大震災の時。妻や群馬県茶道会青年部の友達・先輩と一緒に、チャリティー活動として義援茶会を開催したことでした」

「通常は一年かけて準備する茶会を、皆で協力しあい(3.11から2か月後の)5月4日に初回を開催。自粛ムードの中、若い人達を中心にお茶会を立ち上げることは冒険でしたが『私達にできることがあれば』という一心で準備したことを覚えています。街のお茶の先生や茶道愛好家の方にお越し頂いて、皆さんとてもほっとした顔をされていたのが印象的でした。あの時、お茶を通して皆さんと一緒に掛け替えのない時間を過ごす事ができました」

お茶の素晴らしさを実感することとなった義援茶会は、約8年の年月をかけて10回開催された。普段とは違う茶会の中で「抹茶文化を広める大切さ」を掴んだ井上さん、積極的に茶道体験の場を設けるようになったと自身の変化を話してくれた。

「抹茶に対し“難しいイメージ”を持つ人は少なくありませんが、実はお湯を入れてかき混ぜれば完成する『インスタントな飲み物』であることは知られていません。珈琲や紅茶よりも手軽に楽しむことができる栄養価の高い飲み物なので、日常的に抹茶を楽しむ人が増えてほしいと思い活動しています」

「街の中で『枝に新芽が出たな』『季節の花が咲いたな』と四季を感じるようになったのは、お茶を始めてからでした。小さなことですが、茶道を通じて感性が磨かれてきていることを実感します。日本の文化全てに通じる茶道の世界、この片岡町から“お茶好き”を増やしていければと思います」

四季の恵み豊かな高崎の街で、抹茶文化の発信拠点が提案する「お茶のある暮らし」。

一服のお茶に宿る想いを未来の街へと伝えつつ、ほっと一息、この街の暮らしをお茶と共に楽しんでみたい。

株式会社泰山

住所:〒370-0862 
   群馬県高崎市片岡町3-1-20 プレステージ101
電話:027-327-2366
営業時間:午前10時~午後7時(水曜定休)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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