高崎市筑縄町 地域のコーヒー店が育む、高崎のコーヒー文化と豊かな暮らし
高崎市筑縄町にあるコーヒーとやきもののお店『大和屋 高崎本店』にて、代表の平湯さんにインタビュー。市内のコーヒーシーンの移り変わりや地域とのコラボレーション、今後の事業展開についてお話いただいた。
2024.03.09
高崎市とコーヒー文化
暮らしとコーヒー。近年「豊かな暮らし」を考える中で、コーヒーが注目されている。高崎でも個人の焙煎所の新規開業を目にすることが多くなり、カフェや喫茶店に集う人たちが街の景色を作っている。若い世代も自宅でコーヒーのドリップを楽しむ人が増えてきた。
コーヒーは、日々の生活とどうつながり、豊かさを感じることができるのだろうか。コーヒーのあるライフスタイルを提案し、長年地域のコーヒー文化を支え続けてきたお店にお話を伺ってみよう。
『大和屋』
高崎市筑縄町にある、コーヒーとやきもののお店『大和屋 高崎本店』。お話を聞かせてくれたのは、代表の平湯聡(ひらゆ さとし)さんだ。コーヒー好きの市民の憩いの場であり県外からも注目を集める同店は、コーヒー豆の販売を中心に日本の陶磁器や食品の販売、店舗2階の貸しスペースを利用したギャラリーや催しを行っている。
2020年に事業承継し、二代目として活躍する平湯さんは『コーヒー鑑定士』の資格を持つプロフェッショナル。市内のコーヒーシーンの移り変わりや地域とのコラボレーション、今後の事業展開についてお話いただいた。
炭焼きで焙煎された香ばしさが美味しいコーヒー豆を扱う『大和屋』コーヒー店、ご存じの方も多いと思います。今回はそんなコーヒー通の皆さまに耳寄りな情報満載のインタビューです!
骨董品店から始まった、お店の歩み
『大和屋』の創業は1980年。代表・平湯さんのお父様が骨董品屋を創業したことからお店の歴史は始まった。
「先代社長である父はコーヒー会社に勤め、コーヒー豆を焙煎する仕事をしていました。その後は転勤で全国を巡る中、高崎支店に赴任。別エリアへの転勤辞令を固辞し、会社を退職しました。アンティークが趣味だったことを活かして、骨董品屋を創業。『骨董品だけでは来店者が少ないだろう』と、前職での経験を活かして自ら焙煎したコーヒー豆の販売も始めました。また『骨董品のコーヒーカップに合わせて、お皿も欲しい』という声から、益子焼や笠間焼といった近隣の産地から陶磁器を仕入れるようになります。コーヒー豆と陶磁器、そして関連する商品を扱う現在の販売スタイルになりました」
当時はコーヒー豆の販売や日本のやきものを扱うお店は珍しかったそう。全国各地の窯元を訪れて直接買い付け、高崎本店の陶磁器数は10,000点に及ぶ。ここまでの商品数は全国でも珍しく、日本の焼き物ギャラリーとしても見ごたえのある店舗になっている。
「でも、創業当時は小さなお店で、母親は私をおんぶしながらお店に立っていました。私にとってコーヒーは身近なものではなく、コーヒーを強く意識したのは大学生の時。ちょうどアメリカのコーヒーチェーンが流行り始めた頃でした。今までにない新しいメニューや、そこで働くバリスタの姿を見て『コーヒーってオシャレなんだ』と気付いたんです。それまであまり家業に触れこなかったのですが、コーヒーが若い世代に受け入れてもらえる“伸びしろ”を感じたことで、コーヒー自体を面白いと思うようになりました」
その後、大学三年生になり就職活動を始めた平湯さん。大手企業の海外事業部勤務も考えたものの、就職活動を通じて多くの企業を見聞きする中で、家業と向き合いたい気持ちが強くなったという。
「やっぱり両親が作ってくれた会社を伸ばしたいという気持ちがありました。二人の想いを受け継ごうと、跡継ぎになることを決めました」
コーヒー産地で武者修行
家業を継ぐことを決意した平湯さん。大学卒業後に海外のコーヒー生産地で行った「コーヒー修行」についてお話いただいた。
「『コーヒーのことを現場で知ってこい』と、コーヒーの一大産地である南米・ブラジルと中米にあるグァテマラに一年ずつ、二年間の研修に行ってきました。初めは現地の商社の方にお世話になりながら、昼は下働きをしつつつコーヒーの勉強。言葉がわからないので、夕方からは家庭教師にポルトガル語を教わりながら過ごす日々でした。ある程度喋れるようになった後は、現地のコーヒー農園に住み込みでコーヒーの収穫に従事していました。朝から晩までひたすらコーヒーチェリーの収穫というスパルタな生活でした」
「日本から持っていったものはポルトガル語の辞書一冊だけ」と過酷な研修時代を振り返る平湯さん。コーヒーがどう作られているのかを実際に見聞きして、産地の現実やつくる苦労を身をもって知れたことが貴重な財産になったという。
「ブラジルとグァテマラでは生産事情が大きく違うことも、現地に行って初めて分かったことです。ブラジルは見渡す限りコーヒー農園が広がっていて、機械や重機を導入した効率的で機械的な栽培・収穫を行っています。一方、グァテマラのコーヒー農園は山の麓にある森の中で自生しているように栽培されています。山の斜面にあることが多いので、収穫は機械ではなく人の手。斜面を登り降りしながら、熟した実を一つひとつ選んで腰の籠に入れていく……相当な重労働を経て、おいしいコーヒーがつくられることを知りました」
取材中にいただいたコーヒーは、グァテマラのレタナ農園イエローブルボン。甘く華やかな香りと口当たりの良さがおいしいコーヒーは、昨年に平湯さん自ら現地を訪れ買い付けたものだという。
「ブラジルやエチオピア、マンデリンなどいろいろな種類のコーヒーがあります。それぞれの銘柄にはいろいろな産地特性があって、その土地ならではの作られ方で、それぞれのコーヒーの味ができています。当店では浅煎りの酸味のあるコーヒーから、深煎りのコクのあるコーヒーまで40種類近くのコーヒーを扱っていますが、それぞれの個性をいかして、お客様の好みに合うものをおすすめしたいと思っています。
「ただ、個人的に好きな銘柄はグァテマラですね。やっぱり現地に滞在していた思い入れがあるからでしょうか。ストレートコーヒー(単一の生産国で作られるコーヒー)は個性のあるものが多いですが、グァテマラはストレートコーヒーとしては味のバランスが取れていて飲みやすいと思います」
「グアテマラは、コーヒー初心者の方にもおすすめですよ」と笑う平湯さん。コーヒーを見つめる温かな目線は、現地の景色や人への愛情を語っていた。
ちなみに『大和屋』さんではオリジナルのお菓子も販売されています。ロングセラーの「カフェチョコ」は、ご当地カプセルトイのキーホルダーになるほど親しまれている商品なんですよ!
群馬県庁での新店舗『YAMATOYA COFFEE 32』
ブラジル・グァテマラでの修行後、平湯さんは焙煎工場にて製造業務に従事。コーヒー豆の焙煎や品質管理などを経験することで、コーヒーに関する知識を深めていった。その後、会社を離れて大阪のコーヒー輸入商社へ。二年ほど外回りの営業として働きながら研鑽を積んだという。
「社内外の色々な方にお世話になり、30歳の頃に会社へ戻ってきました。ちょうど北海道の新規店舗がオープンする予定があり、一年ほど店舗の立ち上げから開店準備に行きましたね。そして、2020年に事業承継。今までの『大和屋』の強みや伝統を残しつつ、新しい世代に受け入れられるようなお店作りをしていきたいと思い、大和屋のリブランディングを始めました。シンボルマークやロゴデザインを新たにつくり、商品のパッケージデザインも変更していきました」
新代表としての初仕事は、群馬県庁32階のコーヒースタンド『YAMATOYA COFFEE 32』の立ち上げ。2020年10月にオープンしたお店には、「アカギコーヒー」、「ハルナコーヒー」など上毛三山にちなんだオリジナルブレンドや、県内事業者とコラボしたメニューが並ぶ。
「群馬県知事の『イノベーションが起きる場所にしたい』との発案で、32階の展望スペースでのカフェ事業者の公募がありました。めったにないチャンスだと考え、公募へ参加。メニュー提案や収支など事業計画にまつわる申請書の作成に頭を悩ませながら準備を進めました。プレゼンでの熱意が認められ、6社のうちから採択されました。オープンまで時間のない中での開店準備は大変でしたが、今となってはスタッフと一緒に手掛けた最初の仕事として良い思い出になっています。
カフェのコンセプトは「素晴らしい眺望で、最高のコーヒーを」。オープンカウンターでのコミュニケーションを楽しみながら、コーヒーを味わうことができる。店舗はカフェとしての提供の他に、物販店舗としてコーヒー豆やドリップパックも取り扱っている。平湯さんは「コーヒー豆の銘柄ごとの違いや生産地でのストーリーを語りながら、お客様の好みに合わせたコーヒーの提案をしていきたい」とお店に込めた想いを教えてくれた。
高崎のテロワールを表現するコーヒー
今年で創業44年の『大和屋』。コーヒーを通して若者からシニアまで幅広く親しまれるためにどのようなアプローチをしていくのか、今後の展開をお聞きした。
「私がコーヒーの味を知ったのは、ブラジルでカッピング(コーヒーのテイスティング、品質検査のこと)を経験してから。コーヒーを買い付ける際に豆本来のクオリティを確認するために、挽いた粉とお湯をカップに入れた上澄みの味をみるんですよ。カッピングを経験していくと、最初は“黒くて苦いだけ”だったコーヒーの味が、農園ごとの特徴や収穫後の処理の差による味の違いが分かるようになりました。そこから本格的に『コーヒーって美味しいな』と思うようになりましたね」
ブラジルでコーヒー鑑定士の資格を取得した平湯さんが三年前から企画・販売している商品が「鑑定士が選んだ珈琲シリーズ」。スペシャルティコーヒーを求める時代の流れに沿った、トレーサビリティや品質にこだわった新ブランドを展開している。
また、コーヒーの多様性を表現するのは産地だけではない。新たな商品開発や新事業を通じて、様々な角度からコーヒーの魅力を発信し続けている。
「コーヒーの消費量は年々増えていますが、ブラジルやコロンビアといった海外からの輸入がほとんどです。いつか群馬県でコーヒーの木を栽培して国産のコーヒーを作りたいと思っていました。今、縁あって別の事業者の方と手を組み、高崎市内で試験的にコーヒーの木を栽培しています。まだ収穫量は少ないですが、高崎産コーヒーとしてブランド化していけるようにしたいです。消費者の方にもコーヒーが栽培されている様子や収穫後の処理の仕方を知ってほしいですし、収穫体験を通じてよりコーヒーを身近に感じていただければうれしいです」
「それから、積極的に異業種とのコラボや、地域の特産品を使って、群馬・高崎ならではのコーヒーを開発したいと思っています。例えば、群馬県には有名な温泉地がたくさんあるので、「温泉×コーヒー」という組み合わせで商品開発できないかと考えてみたり、いちごや梅などの地元の農作物とコーヒーを組み合わせることができないか考えてみたり。昨年10月に販売した群馬の地酒とコラボした『SAKE珈琲』もそうした試みの一つなんですよ」
「皆さんそれぞれ、コーヒーの味の好みは千差万別で、お気に入りの味のコーヒーを選ぶこともコーヒーの醍醐味です。コーヒーを選ぶのと同じように、お好きなカップや美味しいお菓子と共に楽しんでいただければ、コーヒーの面白さがもっと広がるのでは――そういう“コーヒーのある暮らし”を提案していくことが、大和屋にしかできない価値なのかなと感じています。コーヒー豆を売るだけでなく、より一層、コーヒーの楽しみ方の幅を広げる提案をしていきたいです」
平湯さんにとって、コーヒーを淹れる時間は大切な時間だという。豆を挽き、器具を揃え、自分が思い描く“一杯のコーヒー”を丁寧に淹れることは、自らと向き合い心を豊かにしてくれる。「最近は子どもたちも飲みたいと言うので、手伝ってもらって一緒に淹れるんですよ」と平湯さん。家族でコーヒーを楽しむ時間のなかに、平湯さんが伝えたい“コーヒーのある暮らし”の豊かさがある。
日々変わりゆく街の中で、私たちはどのような時間を過ごしているだろうか。お気に入りのものや場所、そして大切な人たちと過ごす時間をじっくり楽しめるような、そんな暮らし方をさがしてみよう。
『大和屋』
【高崎本店】
住所:群馬県高崎市筑縄町66-22
電話:027-362-5911
営業時間:年中無休 9:30~18:30
この記事に関連するメンバー
西 涼子
どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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