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高崎の生パスタ職人 素直な暮らしから見えた、街の魅力を語る

魅力あふれる高崎市。地元の野菜や果物が季節を彩り『高崎ホルモン』『高崎うどん』といった街の味や『高崎だるま』などの手細工が光る。しかしながら、こうした魅力はあまり知られていない。新名産である高崎の“地パスタ”『ジャパスタリア』を製造する吉田さんに聞く、素直な暮らしと魅力の“みせ方”に迫る。

2018.10.13

高崎の魅力

高崎市と言えば、群馬県と言えば小麦。黄金に揺れる穂が豊かな暮らしを象徴するようだ。(ジャパスタリアHPより)

高崎じまん

魅力あふれる街、高崎市。

街のシンボルである観音様のお膝元では、伝統ある名産品や新しい高崎の名物が訪れる人を楽しませている。高崎駅前西口にオープンした大型商業施設『高崎OPA』の中には、高崎の“うまいもん”を集めた『開運たかさき食堂本店』や『高崎じまん』などのアンテナショップも充実。倉渕地域の野菜や榛名・箕郷地域の果物が季節を彩り、『高崎ホルモン』『高崎うどん』といった街の味や『高崎だるま』などの手細工が光る。往来を行き交う人々の周りには音楽や映画などの芸術が芽吹き、少しばかり冬の風は強いが大きな災害も少なく気候も良い。訪れる魅力、そして何より暮らす魅力のある街だ。

しかしながら、こうした魅力はまだまだ知られていない。

高崎パスタ 『ジャパスタリア』

「アピールも自慢も、少ないですよね。魅力ある物や場所は多いのに。」と悔しそうなのは、システム開発や広告制作を行う『有限会社 メディアエージェント』の代表であり、『高崎ローカルガイド』の管理人でもある吉田幸二(よしだこうじ)さん。一昨年立ち上げた製麺所『吉田製麺』にて、高崎の“地パスタ”である『ジャパスタリア』の開発・製造も行っている。

様々な業界で活躍する彼は“高崎で暮らす”歴・7年目。メディア業界に精通した彼の目が再発見した高崎の魅力とは何か。素直に生きることをモットーとする吉田さんの暮らしから、街の魅力の“みせ方”を考えてみよう。

2018年、今年は日本最大級のパスタの祭典『キングオブパスタ』の十周年です!11月の開催を目前に、高崎パスタの今をお届けしますよ♪

見知らぬ場所で

「職人」というより「企画人」という雰囲気の吉田さん。とにかくアイディア豊富で、横道に入った話も心躍るインタビュー。

新世界へ

「出身は、太田市。2011年に高崎市へ引っ越して、土着する覚悟を決めましたね。」

はきはきとテンポよく話される吉田さんの人生を一言で表すなら“挑戦”。本人曰く「修業期」だった学生時代のはじまりから紹介しよう。

情報工学系の学生だった吉田さん。学校の勉強よりも“海外”という新世界に興味の目が向いていた時期だった。学校を自主退学し飛び込んだのは、「ロス研修有り」のビラが貼られたハーレーの整備会社。19歳の時である。

「『HPが作れます!』なんて嘘をついて、整備会社に入りましたね。WEBの勉強をしながらバイクの整備も学んで……なんとかHPを完成させて、メカニックな車検整備のスキルも身につきました。」

「その後、恥ずかしながら親を頼ってイタリアへ。留学中の友人と会おうとしたんですが、その日はアルバイト中でした。海外のアルバイトを体験してみたいという気持ちもあって、ブランド物の買い付けをを手伝うことに……運よくめちゃくちゃ買えたんですよ!これが、帰国した後に始めた仕事のきっかけです。」

19歳から20歳に駆け上がる年に、次々と新しい世界に触れた吉田さん。躊躇なく飛び込むスタイルはその後も健在、本記事内では紹介しきれないほどのエピソードがあることをお伝えしたい。

帰国後、吉田さんは岡山県という新天地でインターネットを介した小売りの仕事を始めることとなる。まだ『楽天市場』などのオンラインショッピングサイトが勃興の時期。当然、手探りでの運営でスタートを切った。

「初めて運営したページが半年で月間500万円のサイトに、その後運営したところは1000万円くらいの売り上げになったんですが……会社がブラックでやめました。自分の将来を預けられないな、と思って。その後は関東に戻ってきて、興味があったデータセンターの仕事をしたり『有限会社 メディアエージェント』を立ち上げたり。活動の場所を、徐々に地元に戻していったんです。」

『有限会社 メディアエージェント』ではプッシュメディアを得意とする広告制作やシステム開発を請け負う。仕事柄、場所の自由があった吉田さんは地元太田市を経て、現在活動する高崎市にやってきた。

 

 

高崎ローカルガイド、お世話になった人も多いのではないだろうか。情報提供者も募集中。(高崎ローカルガイドHPより)

旅人の期待

「高崎市に引っ越してきてしばらくは、ただ住むだけでした。パスタが有名なことも、『キングオブパスタ』という祭典があることも知らずに。確かに調べてもないけど、高崎の情報って入ってこないな、アピールがないなと感じていました。」

「実際にはあちこちでイベントをしていたり、良いものがあったり。でも知らないということは、“点と点”のままなんだなと思って。外から人を呼んでも説明しづらいし、さして特徴がないような感じを与えてしまう。高崎に来た旅人は駅に来て、近場のお店に入って『こんなもんか』で終わってしまう。」

例えば、福岡へ行ったとしたら。ラーメンを食べて中洲へ行って……でも、しばらく居ると地元の人はうどんを食べるんだということに気が付くんですよ――そんな吉田さんがしてくれた例え話に、はっと気づかされる人もいるのではないだろうか。高崎へ来たら何を食べ、どこへ行くのか。私たちが思う街の魅力はじわりと後から見えてくるものだという事実を受け止めなければならない。

「福岡県もうどん県であることはあまり知られていないですよね、小麦の栽培も盛んで消費も高い。うどんも、柔らかくて美味しい麺です。――同様に、高崎も調べると文化はたくさん点在している。そんな“点と点”を繋げるキュレーションサイトをつくろうと始めたのが『高崎ローカルガイド』なんです。」

初めてこの街に訪れた旅人が、この街へ期待するものを教えたい。

吉田さんは、自分自身が高崎の街を訪れた時の経験から、旅人のための情報サイトをつくることを決意。お金を稼ぐ事業としてではなく「俺がほしい情報」をコンセプトとした。場所の説明やイベントの説明など、高崎駅を中心とした話題をピックアップして更新している。

「2日間の出張だったり、短期滞在だったり。観光と移住の間の中期滞在者って5000人くらいいるらしいんですよ。その人が高崎に来て街を遊び歩けるように、(行きたいところを)正しく見極められるような情報収集ができるサイトにしたかったんです。今はFBをマメに動かしたり、“せんべろ”企画が人気かな。」

「千円でべろべろに酔える」飲み方あるいは酒場の俗称である“せんべろ”が人気だということについては、「一人一人が安く適当に飲むって企画だから、旅人でも参加しやすいんじゃないですかね。」とのこと。ローカルでゆるやかな発信ゆえの魅力が、この街で過ごす誰かを笑顔にしている。

「今後は色んな地域で横展開したり、皆が情報投稿する形になればいいですね。『もうちょっと歩けば、いいところあるのに!』というのがうまく伝わらないかな。地方都市には駅と中心地が離れていることがよくありますから。」

「サイト内では、都会が“優や上”で田舎が“劣で下”かと問いかけています。その定義は違うんじゃないかと思って。いいコンテンツはまだまだ埋もれているし、群馬県も高崎市ももっと自慢できるカッコよさがありますよ。」

高崎に暮らし始めた自分が発見した魅力、それは多くの高崎人にとって当たり前の事実かもしれない。しかし、初めて来た人には新たな出会いであり嬉しい発見だ。吉田さんの活動は、そうした小さな発見を丁寧に拾い上げていくことと言えるだろう。

この“足元”にあった魅力に目を向けたことが、彼の道を大きく変えてゆく。

びっっっくりしましたね……漠然と、高崎の地粉パスタはあるもんだと思っておりました。見つめ直す、捉え直す。言うは易くで、なかなか素直になるのは難しいんだからね!(ツンデレ)

この街をおもしろくしよう

ジャパスタリアで作られたボロネーゼ。高崎が誇る職人技のコラボレーション。(ジャパスタリアHPより)

足元にあったものは

「実はね、一人でやっているんですよ。“我々は……”と言いつつ。」

満を持して紹介してくれたのは、高崎の生パスタ麺『ジャパスタリア』の話。「ジャパン」と「パスタ」と「イタリア」の造語から名付けられたその麺は、2年前に吉田さんが高崎市の小麦を使って開発したこの街の“地パスタ”である。今まで製麺や製造の経験がなかった彼がパスタ麺をつくる理由。そこには先ほどの「高崎の魅力を発見する活動」の中で出会った“驚きの発見”が関係している。

本州最大の小麦の産地であり『キングオブパスタ』が開催されるこの街に、“パスタ専門の製麺所が存在しない”という発見だ。

「『高崎うどん』しかり、粉食文化が息づいている街だからパスタは流行っていますよね。特に『キングオブパスタ』は日本の中で一番のパスタの祭典。パスタ専門の製麺所は高崎に『絶対ある』と思っていたんです。でも、ない。これは結構“悪魔の証明”で……ないって言うのを明らかにするのには、すごい時間がかかりました。」

「探してみると、うどん屋さんが作っていたり、ラーメンの製麺所だったり、パスタだけじゃなかったり。製麺機を見つけられなかったんですね。『美味しいな』と思ったお店の麺は外から引っ張っていたんですよ。『そこ、外部調達かよ!』みたいな。」

小麦の産地、群馬県。その土地の名産に“地粉”が使われていないとは何事か。悔しい、もったいないという思いと共に、新たな高崎の“魅力の原石”を見つけた気がした。静かに火が付いた想いを周囲の人へ話すにつれ、地元小麦を軸とした「パスタ麺の開発」企画が形になっていく。

「僕には、椅子取りゲームでぽっかり椅子が空いているように見えました。一次産業の小麦の生産はあるし、三次産業の飲食店は盛ん。それなのに、どうして二次産業の椅子には誰も座らないんだろう、って。ちゃんとその席を埋めてあげれば(小麦の生産からパスタの消費まで)地元で一気通貫になって、素直じゃないですか。納得するじゃないですか。これは大きな武器ですよ。」

だから、高崎にこだわっているんです――そんな風に説明してくれた吉田さん。彼にとって、高崎は地元でも魅力があって来た街でもなかった。それでも、いや。だからこそ。誰もが気付けなかった面白さを拾い上げることができたのだ。

 

 

付箋の数だけ失敗がある――紙の詰まった袋は、やけに重く感じるのです。

高崎パスタ

改めて『ジャパスタリア』、その麺の特徴を紹介しよう。高崎の“だるま”カラーで描かれたロゴマークが旗印の麺は、群馬県で育種開発された高崎産小麦「きぬの波」からつくられる生パスタである。小麦をはじめ、国産卵と国産塩、上州の美味しい水といった「目で見えるルート」の食材を使うことがこだわりのポイント。添加物は一切使わず、独特の硬さともっちり感がバランスが良く仕上がっている。

「『ジャパスタリア』はJAとの共同開発なんですが、過去にも高崎の小麦を使ってパスタ開発はされていたんです。ただ、うどんに似ていたり、ラーメンのようだったり。製品化されていませんでした。」

「俺はそんな事情を全然知らず……研究し始めの自分がつくってみたら2か月くらいでできたんです。もちろん、何十と『うどんっぽい』失敗はしましたよ。」

麺のプロには“パスタづくりの前提”があったからかもしれないですね、と吉田さん。実は、パスタというのはデュラム小麦あるいは強力粉を用いて作られる麺のことを指す。本場イタリアの出国基準では「デュラム小麦100%」が義務付けられているほどだ。おそらく、その道では常識の……それこそ、吉田さんのような“初心者”以外には当たり前の事実だったに違いない。しかしながら日本の小麦の多くは中力粉であり、「きぬの波」も中力粉。代用品で求める“本場の味”がうまくいかなかったというのは想像に難くないだろう。

「パスタのそもそもの定義は水と粉を練ったものですから。日本で作ろうと思ったら目の前に広がっている(中力粉の)小麦畑からつくろうと思う、それは自然な流れですよね。加えて、製麺所がパスタ専門でないからこそのバイアスもあったと思います。やっぱり『うどんはうどん』の『ラーメンはラーメン』のノウハウがありますから。」

パスタの麺づくりに教科書はなく、作り方の手本も指導者もいなかった。それだからこそ、試行錯誤を繰り返し、無限のかけ合わせの中から選び取った“高崎のパスタ”ができた。知らないからこそ、見つけられた魅力――『高崎ローカルガイド』と同じ仕組みであることは、言うまでもない。

「地域貢献というか、循環する経済っていいじゃないですか。海外の安い物を使って生態系を壊すのもおかしいし、デュラム小麦は国内でなかなか作れないし。俺は「俺ににできること」を素直にやって、小麦農家がさらに一生懸命に小麦を作るようになって、『ジャパスタリア』という形で価値のある製品として出していけるといいですね。」

『ジャパスタリア』、そのブランドが目指す先は「高崎のパスタ文化を下支えすること」だという。パスタの美味しさはソースや形状の違いだけじゃない。高崎は、日本の中で一番のパスタの街である。そんな、彼なりの「高崎じまん」の想いをカタチにした麺なのだ。

「群馬はまだ『食で胃袋を捕まえる』コンテンツが弱いです。高崎には『キングオブパスタ』で研鑽する、パスタの美味しさを表現できる料理人がたくさんいる。多様性のある食・パスタのアピールを支えたい、それが今の想いです。」

『ジャパスタリア』のパスタは市内の多くの店舗で食べることができますよ!(店員さんに確認してね。)クオリティが高いと評判の高崎のパスタ店で地元の生パスタを食す……これが美味しくないわけがないッ!

地元の空の下で

だるま型につくられたパスタ麺。(編集長はだるま型ときいて、ニョッキのカタチを想像していました。)

ほんとうに良いもの

『高崎ローカルガイド』や『ジャパスタリア』といった活動を通じて、高崎の魅力を発見・発信する吉田さん。「高崎で暮らす」というこだわりだけではなく、ローカルに生きる彼らしい暮らし方が生んだ魅力を見つけることができた。自分を「パスタのおじさん」と称する彼に、今後の活動について聞いてみよう。

「新しい麺を開発しています、だるま型の。型は完成しているんですが、実際に食べて価値のある麺かというのは大事だと思うんですよ。独りよがりじゃ面白くない……地方で盛り上がるためのダメなパターン――厚化粧の急ごしらえでなく、本当に良いものをつくるために試行錯誤しています。」

高崎市産小麦のPR、無添加生パスタにおける保存期間の延長、新しい麺のかたちや楽しみ方。決して留まることはせず、日々たゆまぬ努力をし続けている。自分が良いと思ったもので、周りも幸せになっていく――吉田さんの変わらないスタンスだ。

 

 

「ああ」と出たため息は、あの時の自分を想ってでしょうか。おすすめということでチラ見せ。

素直に生きる

『素直なパスタ』

これが、『ジャパスタリア』に冠せられたキャッチコピーである。素材を活かした味わい、高崎人の手で育てた小麦が高崎の街でパスタになる構造的な素直さ……そんな『ジャパスタリア』の想いや特徴を端的に表している。なにより、吉田さんの“素直”な生き方が浮き出てくるのがいい。最後に、私たちの暮らしを「面白くする」ヒントを、吉田さんから教えてもらおう。

「尊敬する人の本、そのあとがきに感動しまして。」

そういって取り出したのは、一冊の本。何度も開かれたのだろうページをめくると、新しいことへ挑戦する者への激励が綴られていた。

「あきらめる理由なんていくらでもある。」

「でも、自分が信じることがあるなら、やらなくちゃいけない。」

新しいことを試みる人、たった一人で初めの一歩を踏み出す人、心の中に熱い想いがある人。きっと、そうした人はいつだって自分自身にこうした言葉をかけながら進んできたはずだ。吉田さんの場合は、この本が声をかけてくれた。うねりのように心を貫く先人の言葉が、その土地に合わせた素直な生き方・仕事の仕方を選ぶ勇気をくれたのだ。

 

高崎の空を見てみよう。

上州のからっ風で雲一つない、突き抜けるような青。遠くに見える山々、観音像、広がる街並み、暮らしの風景。これが、私たちの街・高崎市の姿だ。素直な気持ちであたりを見渡せば、新しい価値や自分のやりたいことが見えてくる。「ちょっとだったら、自分にもはじめられるかな。なんだか楽しそうだし。」吉田さんを勇気づけた本の一節が、しっくりくる。

高崎市の魅力、私たちが暮らす街の良さ。それは、私たちが一番よく知っている。だからこそ、できることがある。

『ジャパスタリア』の挑戦は続く。負けていられないぞとワクワクしながら、今日も楽しく、この街で暮らそう。

Japastalia 生パスタブランド

吉田製麺
住所:370-0827 群馬県高崎市鞘町20-1 鞘町ビル1D
メール:info@japastalia.com

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西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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