高崎市片岡町 畳職人がつくり支える“調和のとれた暮らし方”
仕事、趣味、地域活動をエネルギッシュに楽しむための“心安らぐ住空間”を支えるのは高崎市片岡町の畳店『上原インテリア』の上原正行さん。畳職人の彼が取り組む「畳職人だからこそできる、"暮らしとまち"への取り組み」とは?畳と共につくる"調和"のとれた暮らし方について伺ってみた。
2019.03.08
高崎市とインテリア
くつろぎの場がある暮らし
37万人が暮らすまち、高崎市。年々増加する人口数は“高崎で暮らす”ことの魅力を示す数字の一つである。特に住宅に注目すると、駅前にはタワーマンションが建設され、各地域で空き家のリフォームやリノベーションが進められていることに気付くだろう。山間部や農村地域での“自然と暮らす”スタイルに憧れて移住を決める人もおり、倉渕・吉井・榛名地域の移住や定住を促進する補助金制度の運用も始まった。
“立ち寄る”よりも“暮らす”ことが魅力的なまちへ。市民による、市民のためのまちづくりの成果を感じている。
今回考えてみたいのは、そんな“魅力的な高崎の暮らし”を楽しむためのベース――仕事、趣味、地域活動をエネルギッシュに楽しむための、“心安らぐ住空間”についてである。
『上原インテリア』
高崎市片岡町にある『上原インテリア』は明治43年創業の老舗畳店。色とりどりの「畳のサンプル」が並べられたショールームにて、畳職人として活躍する三代目・上原正行(うえはらまさゆき)さんにインタビューを行った。
群馬県が定める『一社一技術』に選定された『創上畳』の技を持つ上原さんは「畳職人の自分にできることを活かして、高崎のまちを元気にしたい」と話す。明るく前向きな畳職人に畳の良さやものづくりの楽しさを教えてもらいつつ、“高崎市と畳のこれから”の話について伺うとしよう。
すでにチラリとお見せしましたが、なんとも”ばえる”畳店のショールーム!この後も素敵な写真をたくさんお届けいたします♪
※『創上畳』とは、畳に布や革を縫い付けて装飾する上原さん独自の技術です
畳職人がつくるもの
まちの畳職人
畳職人であるお父さんと共に、個人宅や施設などの畳替え・リフォームを行っている上原さん。家業である「畳の仕事」について聞くと、「子供の頃からよく手伝っていましたよ」と振り返る。小学生の頃からの夢である「畳屋さんになること」を叶えた彼に、職人としての道のりを聞いてみよう。
「初めて畳を持てるようになったのは、小学校高学年の頃だったかと思います。当時の畳は凄く重たくて『父は大変な仕事をしているんだなぁ』というイメージがありました。大抵の畳屋は1人か2人で仕事をしていますが、畳を運ぶ時には人手が必要で、中高生の頃は学校帰りに現場へ呼ばれることもありましたね。一番重かった畳は1枚40キロほど、5階のお家へエレベーターなしで納品するのはとても大変だった記憶があります」
学校を卒業後は「社会勉強のために別の職場へ数年勤めてから畳職人になりました」と話す上原さん。職人以外の働き方に触れた経験は、畳職人の魅力に気付くきっかけになったという。
「畳屋の仕事で魅力的なのは、やはり“ものづくり”の面白さですね! 入社してから数年は畳の技術学校に通いながら仕事をしていて、『現代の名工』とされる先生に畳の技術を教えていただきました。一般的な畳づくりだけでなく、お寺で使われる『二畳台(にじょうだい)』や『八重畳(やえだだみ)』『紋縁(もんべり)』など……つくる機会は少ないものですが、畳職人の中でも限られた人しか知らない技術を学べたのは良かったです。畳をつくることが好きで工場にこもりっきりでも苦ではありません……唯一大変だったのは『畳一級技能士』の試験練習で“畳を全て手縫い”した時くらいです」
いきいきと畳づくりの面白さを語る上原さん。大変だったと話す『畳一級技能士』の試験にかかる時間は5時間。現代は機械が縫ってくれる部分を、根気よく手作業で仕上げていく必要があるという。仕事終わりに“練習”を始めると、畳を縫い終わるのは0時手前。『畳一級技能士』の資格は上原さんの高い技術を示すだけでなく、“ものづくりへの情熱”や“畳への愛情”を表している。
そんな上原さんが教えてくれたのは、現代の畳事情について。近年流行りの畳のスタイルや、高崎市内の畳職人についても話を聞かせてくれた。
「今流行りの洋間に合う畳――『琉球畳・縁なし畳』と呼ばれるものですが、実は通常の畳よりも技術に高い精度が求められるものなんです。通常の畳も、部屋ごとにズレを調整しながら作ったオーダーメイドの畳を職人技で美しく見えるよう敷いていますが……縁の無い畳はズレを1ミリ以内に納めないといけない高度で手間のかかるもの。高齢の畳屋さんにはできない仕事になってきています」
「半面、今の高崎市の畳屋は組合員で20軒ほど、70代の職人さんが辞めると半数以下になってしまいます。和室のあるお家が少なくなることで、畳の需要や畳職人、そしてイグサの生産者も減っているんです。自分が21歳で畳屋の組合員になってから、年下の畳屋は入ってきていません。畳屋、そして職人になりにくい世の中だということを実感していますし、畳に触れる“きっかけ”をつくらないといけないなと感じています」
上原さんが話すように、畳職人やイグサの生産者など伝統的な暮らしを支える手仕事は年々減少している。今は一部のデザイン性を重視した畳が人気となり、住宅メーカーの調査によると『和室・畳コーナーを希望するユーザーは近年微増している』というデータもあるようだ。高度に専門的な職人の技術――失われてからでは取り戻せない”文化を支える力”はここにある。時代、そして暮らしが変わる中でも“畳の可能性”を追求していく畳職人の想いに触れた今、貴重な技術の価値に今一度目を向けてみてほしい。
インテリアとしての畳
『二級建築士』、『カラーコーディネーター』、『インテリアコーディネーター』と様々な資格を保有している上原さん。彼は畳のスペシャリストでありながら、住空間のゼネラリストでもある。畳をきっかけにして“真に癒される住空間”を考えたという上原さんの想いと、オリジナルの畳『創上畳』について伺ってみよう。
「畳屋が『畳の良さ』をお伝えする……それって、当たり前のことだと思うんです。それよりお客様が知りたいのは『畳以外の床材と比較してどうなのか』ということであったり『今の(自分の)家には何が必要なのか』といったことじゃないでしょうか? 建築を学ぼうと考えたのは住宅全般について勉強した上で『やっぱり畳がいいですよ』とお伝えしたいと思ったからですね。もちろん、お客様からお家のことについて相談されることが多いというのも理由の一つです」
「特に、『カラーコーディネーター』や『インテリアコーディネーター』の資格をとったのは“デザイン性”が畳の課題だと考えてのことです。古臭いイメージを持っている人や、洋間に合わないと思われるお客様も多いですから。『上原インテリア』のショールームには数十種類の『畳縁』のデザインや素材・色・質感の違う畳のサンプルを用意しています。畳の効能としての良さだけでなく、素敵な空間を提案するデザイン力も伝えていきたいです。例えば水玉の畳縁を保育施設の畳に使ったり、“だるまの里”高崎市らしくだるま柄の畳縁を使ったり。『創上畳』もこうした挑戦の一つとして生まれました」
上原さんの技術『創上畳』は畳表に織物や不織布、革布などを縫い付ける技術。床の間やオリジナリティあふれるお部屋のアクセントとして、畳を華やかに演出してくれる。上原さんが畳職人になったばかりの頃に「オリジナルの畳がほしい」「学んだ技術を現代でも活かしたい」と生み出した畳。伝統的な加工技術を応用し新たな製品へと昇華させた技は、旅館などでを集めている。
なお、『上原インテリア』のショールームには畳の雑貨『畳太郎』や『畳の名刺入れ』『畳のスマホケース』なども展示販売されている。桐生の織物などが縫われた『創上畳』の技術を間近で見るチャンス、ぜひとも訪れてみて欲しい。小さなだるまが載せられた畳台をみれば、このまちで生まれた技を感じることができるはずだ。
今回編集長が(頑張って)撮った写真は、記事の下にまとめて掲載しております!ほんとにあるんですよ……「だるま柄の畳縁」。ぜひご覧になってくださいね
高崎市という場に
高崎市の暮らしを支える
それではいよいよ、上原さんに畳の魅力について聞いてみる。実際に畳の良さを実感したお客様からは「心が落ち着くと言われます」と上原さん。畳職人が語る驚きの“畳の効能”と合わせて、このまちにこそ”畳”が必要な理由をお教えしよう。
「畳をつくるイグサには色んな力がありますよ。空気を浄化したり調湿効果があったり、抗菌作用を持っていたり。素足で歩く時や赤ちゃんが手をつく時に、水虫予防やO-157の繁殖を抑えたりしてくれるのは良いですよね。それから、イグサ特有の“畳の匂い”は集中力を高める効果をもっています。最近ではリビングで勉強をする子供が増えているそうですが、畳の部屋の方が集中して勉強に取り組むことができるんですよ。――これは家具屋さんから聞いた話なんですが『子供の足が床に付かないリビングの机』よりも『子供の足が床につく和室』の方が落ち着いて勉強できるらしいんです。小さなお子さんがいる家庭に畳をおすすめしているのには、こうした理由もあるんです」
「そして何より、畳があるだけで部屋が“癒しの空間”になることですね。フローリングの上でごろ寝をしたり、洗濯物を畳んだり、赤ちゃんを歩かせたりすることはないと思いますが、畳はクッション性もあるので安心してくつろげます。膝を壊しにくくもなるので、色んな世代にとってメリットがありますね。防音、断熱、消臭……まだまだ語り切れないほどですが、どんなライフスタイルであってもほっと気持ちが落ち着く場所を畳がつくってくれると考えています」
愛が詰まった“畳トーク”、中でも一番伝えたいことは「畳を居間に使ってほしい」ことだという。客間、寝室、そして物置部屋として使われがちな畳の間。家族団らんのリビングでこそ輝く“畳の良さ”がある。
「今は『とりあえず、畳の部屋が一つある』住宅が多いなと感じています。居間から離れた場所にぽつんとあったり、活用されない部屋として物置になっていたり。畳の良さは『気軽にくつろげる暮らし』ができるところですから、たとえ二畳分でもリビングに敷かれていた方がいいんですよ。知り合いの設計士さんの中に『和室』を『家族でくつろぐ部屋』と図面に書いた人がいましたが、畳の使い方や暮らしに合った間取りを考えてみてほしいですね」
上原さんが提案するのは、家族みんながリラックスできる住空間。忙しさに追われる日々の中で、普段の何気ない日常の中で、ふと香るイグサの匂いや触り心地が心や体を休めてくれる。このまちには、仕事、趣味、地域活動をエネルギッシュに楽しむ市民が多くいる。上原さんの愛する畳の力が、そうした人々を内側から支えてくれるのではないだろうか。
地域の力を束ねて
畳職人として、そしてエネルギッシュな高崎市民としても地域で活動を続けていきたいと話す上原さん。冒頭でも紹介したように「今の自分にできることを活かして、まちを元気にする」ことが彼のモットーだ。今まで取り組んできた活動を紹介するとともに、高崎のまちで実現したい“畳のあるまち・畳のある暮らし”について語ってもらおう。
「今の自分にできることを、色んな仲間と共に活動してきました。高崎青年会議所に入ったり、インテリアコーディネーター仲間と地域のオシャレな場所を紹介する冊子をつくったり。畳組合では小学生を対象にした畳造りのワークショップも行いました。小さな畳に好きな縁を付けてタッカーで止めるという簡単なものですが、畳やものづくりに馴染みのない子供にとっていい機会を提供できたのかなと思っています。共通しているのは『まちの良さ、畳の良さ、ものづくりの楽しさを伝えたい』という想いです」
「それから、ここ片岡町にはたくさんかりんの木が植えられているのをご存知ですか?秋ごろになると八千代町から石原町までの街路に大きなかりんの実が何百個となるんです。そんな地域の景色をテーマに行われているのが『観音山かりんまつり』、商店が多い地域らしく色んなお店がそれぞれイベントを行います。片岡町は歴史が古くて人が多いまちなので、強い結びつきを活かして地域を盛り上げる活動があるんです」
「今後は、畳を使ってイベントを企画したいと考えています。例えば『上毛かるた』大会の会場で畳を敷いたり、駅前にできたペデストリアンデッキに畳を敷いて飲食イベントをするのも面白いかなと。美味しい地元の食事を楽しんだりまちの文化に触れたり……その中で畳の手触りや匂い、色んな種類の畳縁があることに興味をもってもらえたら嬉しいですね。イベントの多い高崎のまちを支えるのは『誰かの小さな想いを、支える仲間がいること』だと思います。自分にできることは畳を敷くことなので、そこからまちを盛り上げていきたいと思うんです」
誰か一人の小さな想いが、大きく羽ばたけるまち・高崎。上原さんは地域の“先輩方”の背中をみて、そんな希望を感じ取ったという。
畳職人が考える、“畳のあるまち・畳のある暮らし”。それは私たちと共につくる、和やかな高崎での暮らし方なのかもしれない。
上原インテリア
住所:群馬県高崎市片岡町2-5-5
電話:0120-20-7419
この記事に関連するメンバー
西 涼子
どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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