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小八木町 地域で生まれる”共創の場” シェアスペースが目指す自由な暮らし

高崎市小八木町のコワーキングスペース『Somethin’Else』、そして井野町にオープン予定のシェアスペース『Worker’Café・BOHEMIA』を運営する反保敏彦さんにインタビュー。現在挑戦中の“地方コワーキングスペースの成功モデル”づくりについてお話を伺ってみよう

2019.08.05

高崎市と発展

普段何気なく見ている風景も、一瞬一瞬が「今だけの景色」 このまちがどんなふうに変わっていくのか楽しみですね

高崎市の変化

変化するまち、高崎市。駅・市街地を中心に、“モノ・コト・ヒト”は絶えず移り変わっている。新たな住居や施設が建設され、このまちで働く人口は右肩上がり。高崎市長が「高崎の街が劇的に変わっている手応えを感じ」ているとコメントを出したように、このまちは変化、そして発展している最中だといえるだろう。

しかしながら、大きな変化の中で見落とされがちな問題も多くある。特に地域間の盛り上がりの差や“都会的なまちづくり”では補えない部分の問題、個人個人の取り組みは光の当たらない”まちづくり”の話たちだ。様々に繋がりあう地域全体で発展していくにはどうしたらいいのだろうか。私たちが踏み出すべき“次のステップ”について、考えてみるとしよう。

『Somethin’Else』の会議室にお邪魔して、インタビューをさせていただきました 当日も利用者で満員、大人気のコワーキングスペースです

Somethin’Else,and,Worker’Café・BOHEMIA

今回、取材に応じてくれたのは高崎市小八木町のコワーキングスペース『Somethin’Else』を運営する反保敏彦(たんぼとしひこ)さん。“工業団地”というロケーションに建てられた一風変わったコワーキングスペースにて、駅前でない高崎の魅力や独自の挑戦について伺った。

IT機器の発達と共にワークスタイルも変化する時代。「都市型ではない“地方コワーキングスペースの成功モデル”にチャレンジしたい」という反保さんの“次のステップ”とは何だろうか。今年新たにオープン予定のシェアスペース『Worker’Café・BOHEMIA』の構想と合わせて、地方だからこそできるまちづくりの話をしてみたい。

リモートワーク、フリーアドレス、働き方改革……近年何かと話題になる“働き方”について、地方発信のインタビューをお届けします!

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こちらは『Somethin’Else』の入り口に置いてある、看板
ジャズが好きだという反保さんがデザインされたこちら、見る人が見ると“わかる”つくりになっているそうですよ!

Somethin’Else

ウッドとグリーンを基調とした小八木町のコワーキングスペース『Somethin’Else』。オープンな雰囲気を持つ共働の場は「この上なく素晴らしいもの」という意味の名前が付けられている。働く場所を共有し、互いに刺激を与えあう“今の時代らしい”地域の場。反保さんがそうした場づくりを始めたきっかけについて、お話を伺ってみた。

「都内の情報出版会社に勤めていた私は、地元に帰ってから紆余曲折の末、今の『株式会社 フェアマインド』を立ち上げました。2013年のことです。当初は、事務所としてまちなかにスペースを借りていたんですが、数人の社員ではスペースの半分も使いきれず……余らせていましたね。シェアスペース運営ではよくあることだと思いますが、本業の“ながら”で始めた事業なんです。『Somethin’Else』は開業して6年目になりました」

以前、都内で反保さんが勤めていた会社は出版ベンチャーだったという。「社長を公選で決めたり、『働くとは何か』といった本質的な議論を毎日したり、25年以上も前にAIに関する情報誌を出してみたり……とにかく色んな社会実験をした会社でした」と振り返ってくれた。それらの興味深い話から感じるのは、反保さんの“ワークスタイル・ライフスタイルへの柔軟な考え方”である。既存の枠組みにとらわれない思考が、『Somethin’Else』という場所づくりの中にも活かされている。

「業務システムをつくる仕事は、基本あまり面白くないんです。特定業界の深い知識は得られますが、その代わりに視野が狭まったり……お客さんの要望通りにつくることを求められ、自分の思いを反映できないソフトづくりをしたり。“生活の糧”が得られるだけの仕事を、創造的でない仕事をしてはいけないなと思いました」

「僕がそう思った理由の一つに、アメリカのエンジニアの姿がありました。彼らは生き生きと働いていて、“世界を変える仕事”をしていますよね。彼らと僕らで何が違うのかと考えた時『刺激やチャンスに反応する反射神経がすばらしい』ことにあるような気がしたんです。自分自身、年をとっても『刺激に即応できる人』でいたいし、若い人にもそうあってほしい……『Somethin’Else』を作った時に考えていたのは“IT技術者が集まって刺激しあう場所”だったんですよ」

2013年のオープンから2年後、事務所を現在の小八木町に移転しコワーキングスペースの運営を続けてきた反保さん。利用者の幅も広がり、多くの業種・業界で挑戦を続ける人たちの心強い味方となっている。リラックス効果を考えて配置された自然素材や、スタートアップ事業を応援するために金額を抑えた料金設定は、変わらぬ『Somethin’Else』のメッセージを発信し続けている。多くの人が、生き生きと働き“世界を変える仕事”ができるように――共創の中で「この上なく素晴らしいもの」が生まれるように。

モットーは「面白きこともなき世を面白く」 高杉晋作が詠んだとされる歌ですね
「少しでも面白い世界になるように、自分が心がけて行動するようにしているんですよ」とのことです!

このまちに見つけたもの

ここまで『Somethin’Else』の紹介とその想いについて語ってくれた反保さん。これまでの運営経験は、2019年10月井野町にオープン予定のシェアスペース『Worker’Café・BOHEMIA』誕生へと繋がっていく。新たな一歩を踏み出す彼に尋ねたのは、地方のロケーションで“次のステップ”を踏む時に考えたことについて。中心地だけでないこのまちの取り組みから、高崎市全体が発展するためのヒントを探してみよう。

「渋谷がビットバレーと呼ばれていた頃、コワーキングスペースがない時代に“ノマドワーカー”いう言葉が流行ったのを覚えているでしょうか? 都内のビルにIT企業がこぞって集まり、ノマド達は電源と電波を求めて彷徨っている……そんな時に、僕も地元で2年くらいノマドワーカーとして活動していたことがありました。今でこそお店に電源やWi-Fiがあるのは当たり前ですが、当時は“限られた店舗の限られた座席”しか電源がなかったので大変でした。コワーキングスペースは、そんなノマドワーカーたちを対象に都内で始まった事業だったんです」

「働き方(の多様さ)や移動のしやすさということもあって、コワーキングスペースが多くあるのは都市部ですよね。実際、地方にあるコワーキングスペースも東京のスペースを真似た”都市型”のつくりをしているものが多いと思います。ビルや内装がハイグレードで、駅近くの一等地にあって。まさに『抜群のロケーションに充実のファシリティ』ですね。ところが、私が作ったのは『田舎のロケーションで、チープ&手作りのファシリティ』……車移動が必須な場所にある、豪華さでは勝てないコワーキングスペースです」

「たぶん、銀座や六本木にあるコワーキングスペースに似せたものを高崎でオープンしてもうまくいかないでしょう。きっと中途半端に新しくて、中途半端に豪華なものになってしまうと思います。『抜群のロケーションに充実のファシリティ』で勝負したら、お金持ちの大企業にはかなわないわけです。でも、違うコンセプトで勝負をしたらどうでしょうか? 僕は『田舎のロケーションで、チープな手作りの反面、温もりある個性的な空間』が“都市型”と差別化するための要素だと思っています。“都市と地方”に深い意味があるのではなく、今この場所で強みとなるものを戦略的に活用して、“地方の中で地方勢が勝てるもの”をコンセプトにしたいと思っています」

人・物・金の流れが早い地域に、“最先端で豪華”といったコンセプトで打ち勝つことは難しい。コワーキングスペースのみならず、地方で成功――ナンバーワンとオンリーワンを勝ち取るには、別角度からのアプローチが必要だ。反保さんは地方の環境を嘆くわけでも褒めるわけでもなく、等身大の“暮らし”からコンセプトを考えていた。例えば、車移動が必須な”田舎のロケーション”は“車社会の暮らし方”があればデメリットではない。逆に考えるべきは「新規事業者がまだ少ないこのまちで求められているサービス」かもしれない――

地域性、暮らしのスタイル、人柄、愛着、唯一無二の物語……その地域に合わせた事業のカタチを見つけることは、優劣の物差しを取り去るところから始まってゆく。新たに企画された『Worker’Café・BOHEMIA』は、あなただけの、このまちだけの自由な魅力を見つける場所になるだろう。

『高崎で暮らす』が取り上げる活動や高崎市というまちは、全国的に「特別」なものではないかもしれません。ですが、このまちにしかないモノがあり、ヒトがいて、コトができる……そのストーリーや想いは、かけがえのないたった一つの価値だと思うのです(しみじみ)

自由

『Worker’Café・BOHEMIA』のイメージ図 ナチュラルなテイストと、開放的な配置が特徴的ですね! あなたなら、この場所で何を始めますか……?

『Worker’Café・BOHEMIA』

それでは、改めて新たなコワーキングスペース『Worker’Café・BOHEMIA』の特徴と企画への想いをお聞きするとしよう。
「習慣や常識にとらわれず移動しながら自由に暮らす人を、ボヘミアンやジプシーといいます。もともとチェコスロバキアのボヘミア地方にそうした暮らしの人が多かったことから、自由奔放に生きる風変わりな人をボヘミアン、ボヘミアン達が集まった自由なコミュニティをボヘミア的社会などと言います」

「パソコン一つで専門性を発揮し、暮らしに溶け込むように働くノマドワーカーは、現代のボヘミアンといえるかもしれません。こうした人たちが集い、“職”と“食”で刺激しあう空間をクリエートしてみたかった、抽象的ですがまずそんな思いがありました。『Worker’Café・BOHEMIA』にはワークスペースの他に、シェアキッチンを作ってポップアップカフェが出店できるようにしたいと思っています。働く場所(職)に食があることで、面白いコミュニケーションが生まれるんじゃないか――そんな期待をしています」

大きく曲線を描く壁が特徴的な『Worker’Café・BOHEMIA』の室内に彩りを添えるのは、室内に設置されるアクアリウムやインドアグリーン、手作りデスク、DIYのアイランドキッチンなど。自然の魅力と人の手がつくる暖かみを特徴として、利用者と共に作る空間を目指しているという。

「『Somethin’Else』にも会員さんが作った机などがあるんですが、今回はそうした作品を魅せる(見せる)場所、ショールームとしても機能させたいと思っています。例えば、地域の農園事業者さんの力を借りてインドアグリーンをつくったり、会員さんのハンドメイド作品を活用したり。手伝ってくれた方が『企画から関わっている場所なんだよ』と紹介できるような場所にしたいと考えています」

反保さんがそうした想いを抱くようになったきっかけは、コワーキングスペースを運営してきた中で多くの利用者の“課題”に触れたことだという。新事業を展開したいと願う事業者が多い中で、なかなか発表の機会に恵まれないという人や既存事業の殻を打ち破れないなど、1人や1社だけでは解決しがたい課題を抱えている人は多いという。“企画からシェアリング”できる、シェアスペース『Worker’Café・BOHEMIA』。新しいチャレンジを後押しする人の多い高崎のまちらしさを感じる、そんな場所になりそうだ。

「頭の中ではわかっていてもなかなか実践できなくて……こうした場所を作ることから始めてしまえ!と思ったんです」と反保さん、なかなか豪快な意見です(笑)

“食”を取り入れたコミュニケーションの重要性は、家庭でも企業でも注目されていますよね。新たなスペース、どう活用されていくのか楽しみです!

こちらは『Somethin’ Else』にあるメンバーズボード 室内にはこうした名刺やチラシを掲示する場所が用意されています
同じ場所で活動する"仲間"だからこそ、共に創れるものがある――デジタルとアナログ、両方の良さを生かしながら暮らしを楽しみたいものですね

目指す場所

『Somethin’ Else』が目指す、「この上なく素晴らしいもの」の共創。コラボレーションやイノベーションといった言葉が身近なものになった今、共に作ることの価値について反保さんに質問してみた。

「ずいぶん前のことになりますが、僕は中小企業診断士として事業を診断・応援する活動をしていたことがありました。コワーキングスペースを始めたのも、企画をシェアしようと思ったのも根っこは同じで……誰かの悩みを聞いて、他の人に繋げて解決することなんですよね。今回の『Worker’Café・BOHEMIA』を企画するときも、『この分野は、誰に声をかけてみようかなぁ』と考えながらはじめました」

「今、世界的に“1つのコンセプトで一気にネットワークをつくる取り組み”は多くありますよね。『Uber』 とか。ただ、僕はそういう大きな仕組みでなくて“地域の中で、顔の見える範囲で”何がシェアリングできるかな、ということに注目しているんです。シェアスペース事業の例で言えば、1つの考え方として『オーナーさんに事業を提案し、オーナーさんを事業に巻き込む』というのもあるかと思います。『場の価値を高める』活用提案ができれば、新規事業に投資してもらえるかもしれません」

「物件に借り手がつかない」「空き家の維持費や固定資産税が負担」そういった話は、全国的に空き家問題が話題となる中で、よく聞く声となった。もし、スタートアップの費用を抑えて収益を上げられれば……その場所に集う人が増えることは『場の価値を高める』ことにつながっていくだろう。そして、そうした事業が増えていくことは――この地域の価値を高めることへとつながってゆく。

「今、今年といった近い未来のことだけでなく、未来に何を取り組んでいくかに面白みを感じてほしいと思います。色んな人を巻き込むことで、事業も場所も変わっていくし変わらなければいけないとおもいます。頑張っている人が報われる社会になるために、1人1人の力が発揮できる場づくりができればいいなと思います」

反保さんは最後に「この上なく素晴らしいものって、人との出会いかもしれません」と話をしてくれた。事業を始めること、企画をシェアすること、自分らしく働ける場所を見つけること――踏み出したその一歩は、もうすでにこの上なく素晴らしいものを生み出しているのかもしれない。

記事内で紹介のあった『Worker’Café・BOHEMIA』は現在クラウドファンディングでの協力者も募集中!
スペースの詳細情報などは、下記リンクよりご覧くださいませ

株式会社 フェアマインド

『Somethin’Else』
 〒370-0071 群馬県高崎市小八木町312−15
 ビジネスパーク小八木 2F

『Worker’Café・BOHEMIA』
場所は井野駅から徒歩で10分弱のところにありますが、駐車場があるので断然車が便利です。
クラウドファンディングにも応援いただきたいのはもちろんですが、オープン後も気軽に覗いてみてください。

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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