つくる

箕郷町 革職人の手仕事に学ぶ、丁寧な暮らしと地域づくり

今回のインタビュイーは箕郷町の『森乃手仕事家』店主・桑原優子さん。革職人として活動する彼女に、“革と物づくり”への想いを伺った。職人の技と気持ちに触れながら、この街の未来の暮らしについて考えてみよう。

2020.04.17

高崎市の暮らし

大きく広がる田畑の風景 近代的な駅前の賑わい どちらも、この街に欠かせない景色です

足る、暮らし

高崎の街には、様々な顔がある。「ものづくりの街」「交通の要衝」「映画の街」「商人の街」……多くの呼び名からわかる確かなことは、この街に「多種多様な人・物・コトを受け入れる風土がある」ということだろう。都会的で、田舎的。私たちの暮らしが地域の風景を絶えず変化させている。

 

『森乃手仕事家』の店舗前には、蝶ネクタイを付けた「革のクッション」が座っていることも……(実は、子羊を丸々一頭つかった作品なんです!)

『森乃手仕事家』

高崎での暮らしに想いを巡らせながら、訪れたのは箕郷町。田畑に囲まれた景色の中で目立つコンテナハウスの店舗『森乃手仕事家』へとやってきた。店内に並ぶ靴やカバンは全て手作りの革製品。店主・桑原優子(くわばらゆうこ)さんが1人でデザインから製作までを手掛けている。

革職人として/高崎人としてインタビューに答えてくれた桑原さん。彼女が語る“革と物づくり”に対する想いは、今あるものを大切にする生き方を教えてくれる。

あなたは今、この街の暮らしに満足しているだろうか。私たちが理想とする暮らしは、この街で叶えられるのだろうか。職人の技と気持ちに触れながら、この街の未来の暮らしについて考えていこう。

カラフルな革商品だけでなく、インテリアも可愛い桑原さんのお店へとやってきました!

つるりとした革、ふやふやの革、カチカチの革……色んな表情に見とれながら、取材してまいります

クリエイティブに生きる

取材に伺った時の作業机 ものづくりの原点を感じる、そんな一枚です

革との出合い

アトリエ『森乃手仕事家』を運営しながら、展示会・ワークショップ活動もマルチにこなす桑原さん。インタビュー冒頭では、彼女と革の出合い――革職人としての歩みを伺ってみた。

「クリエイティブな仕事に関わりはじめたのは、学生時代。私は福祉関係の学校に通う側ら、服屋さんでアルバイトをしていました。服色の合わせ方を考えたり、お客様にコーディネートを提案したり――全体的にアパレルの仕事を面白く感じていました。そんな中、バイヤーさんが『新しく立ち上げるアパレルデザインの会社に入らないか』と声をかけてくださって。海外から布地を仕入れたり、デザイナーさんと協力して服を作ったりする仕事を始めました」

「その後、引っ越しや育児などで仕事から離れる時間もありましたが、『感覚を生かして仕事をする』アパレルのスタイルが好きで、趣味のハンドメイドを続けていました。革に出合ったのは、そんな時。革屋さんの店先にあった端切れにインスピレーションを感じて、革でものづくりをはじめたんですよ」

桑原さんが革と出合ったのは10年前。革小物の作り方や加工の仕方などを独学で学びながら『森乃手仕事家』オープンまで歩んできたそう。「元々服のリメイクなどは自分でしていたんですが……革は布と違って、加工や準備が大変で」と語る桑原さん。難しい素材の中に“奥深さ”を見出し、のめりこんでいったという。

「初めは趣味で作っていた革小物も、だんだんとイベントで販売したりワークショップを開催するようになったりして。2013年には前橋市にお店(『森乃手仕事家1号店』)をオープン。赤城の山の中で手仕事の品を扱う“お家のようにほっとする場所”という意味を込めて、『森乃手仕事家』と名付けました。ここ(高崎店)に移転してから、今年で4年。想いは変わらず、手作りの革製品を扱うお店を開いています」

 

作業中の桑原さん 柔和な雰囲気があっという間に引き締まった職人モードに! かっこいいですね~

革職人の想い

丁寧な仕事と高いデザイン性でファンの心を掴む桑原さんの革作品。「職人としてさらに技術・知識を深めていきたい」と話す彼女に、革の魅力を語っていただいた。実際の作業風景を背景にしながらのインタビュー、職人の熱い想いと革の世界を感じてほしい。

「先ほどもお伝えしましたが、やっぱり革は奥深い! 革製品を作るときには色々悩みますね。特に難しいのが『どこまで作業するか』の判断でしょうか。例えば『フチの部分を切りっぱなしにして素朴な見た目を楽しむ』か『角を落として丸くツルツルに仕上げる』か……。どちらも魅力的ですが、仕上がりの印象は大きく変わってきますよね。革の種類、染める色、使う糸、縫い方。追求すればするほど、大変です」

「それでも、革は自分が想像したものが立体的に作れるので面白いですよ! 服や靴といった身に着けるものだけでなく、クッションや小物入れなど幅広い作品を作ることができます。店内に置いてあるレザーハンガー(植木鉢を吊るすプラントハンガー)は、インパクトのあるインテリアとしてもオススメです。革製品は、お部屋の雰囲気をかっこよくも可愛くも変えられます」

インタビューを受けながら、サクサクと作業を進めていく桑原さん。菱目打 (ひしめうち)という道具を使って革に穴をあけながら、太い糸を二本交差させて縫い合わせていく。革素材がもつ無限の可能性の中から“商品に合わせたイメージ”を形作る姿は、まさに職人。どんな想いを込めて製作しているのだろうか。

「今作業しているのは、すいた(薄くスライスした)牛革でつくる電球カバーです。革の表をすいた残り、染められていない革本来のナチュラルな素材に太い糸を合わせて素朴な見た目にしています。雰囲気に合わせてフチは整えず、柔らかい革の素材は光を暖かく映してくれそうです。……そんなイメージをつくりながら、商品をつくっています」

「作るときには“手作りの温かみある”商品をつくることを大切にしています。手縫いはミシン縫いよりも、糸を合わせて縫う分手間も時間もかかりますが、すごく丈夫で表情豊かに仕上がるんですよ。革・ものづくりの魅力も商品を通じて伝えていけるよう、手作り・手縫いにはこだわっていきたいと思います」

 

今後は「物づくりの楽しさ、手作り品を身近に感じてほしい」と、ワークショップをメインに活動していく方針だという桑原さん。革のように剛柔の魅力を備えた彼女だからこそできる挑戦にワクワクです!

私たちと革

手染めのカバン、素敵な色合いですね! 革の様々な可能性を感じます

新しい命を吹き込む仕事

続いて紹介したいのは、『森乃手仕事家』の中でもひときわ目を引く“変わった鞄”について。大きく「群馬のお米」「きぬの波」等とプリントされた、柿渋染めのトートバックに注目したい。お米や小麦粉の“袋”をリメイクして作られた『米/小麦粉袋の柿渋バック』は、“手仕事家”のポリシーが詰まっている。

「この商品を作ったきっかけは『私の実家が農家だったから』ですね。野菜やお米をつくる我が家では、頑丈なクラフト紙を合わせてつくられている“米袋”が毎年大量に捨てられていました。『重たいお米を運んでも破れない丈夫な袋を、一度使っただけで捨ててしまうのはもったいない!』……そんな“もったいない精神”で、トートバッグやブックカバーを作りはじめたんです。番傘に倣って柿渋で染めて、革や綾テープの持ち手をつけて。お店をオープンしてからずっと、人気商品なんですよ」

「『最後まで使う、大切に使う』ということを、職人としても農家の娘としても大事にしています。父が作るお米や野菜を残さず食べたいと思うように、自分が革製品をつくる時も“革の端切れ”や“糸の余り”を無駄にしないように心がけています」

「革には色んな種類がありますが、中でも牛や豚の革が多いのは『私たちがお肉を食べているから』でしょうね。命を無駄にせず、革として活用している。私の仕事は“新しい命を吹き込んで、大切にしていく”ことなんだと思っています」

桑原さんの軸となる“今あるものを大切にする”気持ち。『森乃手仕事家』の仕事には、彼女のシンプルで丁寧な暮らし方が映し出されている。古いもの、要らないとされていたものに命を吹き込む仕事――そんな職人の矜持を、感じることができた。

「革というのは長持ちで、使えば使うほど味がでてくる素材。途中で壊れたり不具合が出ても大切に使ってほしいから、私は手作りにこだわっています。壊れたら次を買うのではなく、壊れたら修理して使えるように……『森乃手仕事家』で購入されたお客さんには必ず『壊れたら持ってきてくださいね』とお伝えしているんです」

牛や豚は群馬県の特産品でもありますね。意外と「革」は私たちの暮らしにとって、身近な存在なのかもしれません……っ

展示会の様子 革のグラデーション、テクスチャの違い、素材の持つ温かみが素敵な空間を演出しています(写真:桑原さん提供)

革と暮らし

桑原さんが最後に話してくれたのは「これからの活動について」。“革×高崎”の挑戦を伺った。暮らしと密接した素材・革。人々の歩みの中で変化してきた歴史の中に、新たな魅力が隠されている。

「私がやりたいなと思っていることは、『高崎の“革”の歴史を掘り起こしたい』というもの。長い歴史を持つ革の魅力・失われてしまった革職人の技術を調べてみたいと思っています」

「機織り機もない時代、人類が初めて身に着けたものは皮でしょうし、(後の時代には)紙の代わりや草履のソール・甲冑・防火服に使っていたという記録もあります。『昔の人はどんなことを考えて、どんな物をつくり、どう暮らしに役立てていたんだろう』……先人の素晴らしい物づくりについて知ることは、新しい物を創造することにも繋がると考えています」

「高崎という街は、近代的なものもあれば伝統的なもの・歴史もあるいい環境。今この街に住んでいる自分だからこそ“革×高崎”の歴史について学び、古い技術にも新しい技術にも挑戦していきたいと思っています。10年先、100年先の未来になっても、大事な思いや技を残していける地域づくり/お店づくりをしていきたいです」

身の回りにあるものを大切に想いながら暮らす職人の地域づくり/お店づくり。故きを温ねて新しきを知るその姿勢は、この街の暮らしを目いっぱい楽しむためのヒントとなったことだろう。

まずは私たちの暮らす街をよく見てみよう、未来への手がかりがきっと隠されている。

『森乃手仕事家』

住所:群馬県高崎市箕郷町下芝531-4 chee's cafe dining 敷地内
電話:080-5908-3992
営業時間: 11:00〜15:00 火曜日定休

※お願い|臨時営業・臨時休業等、突然の変更がある場合もございます。
ブログ・Facebook・インスタグラムでいち早くお知らせしております。

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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