つくる

高崎市本郷町 夜空を照らす希望の華と、花火師が描く地域の風景

高崎市本郷町の花火店『(有)菊屋小幡花火店』の代表・小幡さんへインタビュー。「高崎まつり」を始め全国の“日本の空”を彩る花火師に花火製造・打上げを通じた地域との関わりを聞いてみよう。

2021.02.13

花火のある風景

冬の澄んだ空気を感じつつ向かったインタビュー 地域の空を彩る話題をお届けします!!

高崎市と花火

日本の夏の風物詩、打上花火。ここ高崎市でも夏の夜空に輝く大輪の華は、地域のお祭りや家族団らんの夕涼みに彩りを添えている。体に響く音、真っ暗な空にパッと散る色、名残惜しさを表すような煙の匂い……そんな五感に訴えかける日本文化には、特別な思い出がある人も多いだろう。

ところが、今年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、全国的にお祭りや花火大会が開催中止となった。当然、毎年当たり前のように見ていた花火も見ることはできない。

私達の暮らしの風景や思い出の情景は“地域の文化”に支えられている――そんな当たり前に気づいた年となった。

 

鉄紺の法被で出迎えてくれた小幡さん 華やかな舞台の裏側、花火職人の想いを伺いました

『有限会社 菊屋小幡花火店』

高崎市本郷町の花火店『有限会社 菊屋小幡花火店』の代表・小幡 知明(おばたとしあき)さんへインタビュー。高崎市の代表的な夏祭り「高崎まつり」を始め全国の舞台で活躍する花火師に、花火製造・打上げを通じた地域との関わりを聞いてみた。

コロナ禍で変化を求められる花火業界、小幡さんは「“意義のある花火”づくりにこだわりたい」と意気込みを語る。地域の風景をつくる職人は、どんな未来を描くのか。花火が彩る粋なひと時に想いを馳せつつ、地域と花火の物語を考えてみよう。

美しいだけじゃない花火の魅力、高崎自慢の「技」と「熱意」をご紹介!!

写真家・新井國雄さんの作品と共に、お楽しみくださいませ

花火、その魅力

写真家・新井國雄さん撮影の『モノクロームの華』 細い線と強い線の強弱、華々しくもしっとりと落ち着いた印象に心惹かれる花火です

“菊屋”の誇り

明治5年から続く老舗花火店『有限会社 菊屋小幡花火店』。5代目を務める小幡さんは「大曲全国花火競技大会(平成30年)」にて内閣総理大臣賞を受賞した経歴をもつ実力派花火師だ。先代を務めた4代目・清英さんも『現代の名工』に選ばれた名花火師。連綿と受け継がれてきた“菊屋”の技と想いについて伺ってみるとしよう。

「当社は花火製造から打上げまで行う花火屋で、代々真円を描く菊型花火の製造に注力してきました。父が日本初の『四重芯菊』を完成させたことを機に“菊屋”の屋号を認めていただき、高崎を中心に全国の花火大会・競技会へ出品しています。花火づくりは全てが手作業なので、『群馬の小幡は非常に丸く良い玉を作る』と言っていただけた評判を落とさないよう、技術を引き継ぎ磨いていきたいと思っています」

「また近年は『よりお客さんに喜んで頂けるように』と、“創造花火”と呼ばれるオリジナルの花火づくりにも着手しています。派手な色彩を使用せず夜空の漆黒をバックに炭火・錦火・銀火で魅せる『モノクロームの華』や雪国での情景を描いた作品『里山の忘れ柿』は、花火に詳しくない人でも玉名(花火の名前)を聞いただけでイメージが伝わるように仕上げました。古くから伝わる“丸い花火”と、自由な発想で作る“新しい花火”。両方を大事にしながら、花火づくりに専念していきたいです」

“菊屋”の技術を守りつつ、挑戦を続ける小幡さん。鑑賞する人や時代の変化に合わせて技術を昇華させていくだけでなく、積極的に花火の企画作りにも携わっている。

「コロナ禍で軒並み花火大会は中止となりましたが、花火の力で希望と元気を届けられればと『全国一斉悪疫退散祈願 Cheer up! 花火プロジェクト』を仲間と企画しました。全国約150社の花火会社が協力して仕事をする機会は初めての試みで、業界にとっても画期的な取り組みだったと感じます。花火を好きな人が増えて、地域の花火屋さんを知ってもらえるように……先輩や若手の花火師と協力して、“花火文化”を盛り上げる活動を続けていきたいと思います」

 

写真撮影に協力してくれた小幡さんのお兄さん・英明さん 
手作りの火薬を花火玉に詰める作業について「少しのズレが上空では何十メーターのズレになる。星の重さや大きさを揃えるだけでなく、隙間なく均等に詰めることで美しい真円が完成します」と説明してくれました

ひと時をつくる

“花火一筋”の職人として日々花火と向き合う小幡さん。続いて伺ったのは花火の道を志したきっかけについて。熱き職人魂に火をつけた思い出を語っていただいた。

「夏休みはどこにも行けず、家業の手伝い――そんな学生時代を過ごした私達兄弟は、全員が『花火屋にはならない』と思っていましたね。私はものづくりに興味があったので服飾関係の学校へ進学しましたが、憧れだけで入った分野に馴染めず。1年も経たずに学校を辞め、目標もないまま投げやりに過ごす時期がありました」

「夏の繁忙期だけ実家に帰り、花火の手伝いをしていた19歳の夏。『たまむら花火大会』の打上げを手伝って……ラストの花火を見た時のことです。物凄い迫力の花火と大歓声をうけ、私は鳥肌が立ち『やっぱり花火っていいな』と心の底から感じる体験をしました。花火師になろうとおもった、きっかけの一つですね。今では姉と兄に助けられ、兄弟3人一緒に花火屋をやっています。本当に、花火には不思議な魅力があるんだなと感じます」

「花火は見る人次第で、印象が変わるもの」と自分の経験を元に振り返る小幡さん。実家で幾度となく見ていた花火が“19歳の心”を動かしたのは、大輪の花の輝きにどんな未来を見たからだろうか。花火の道に進んだ彼は今、花火の先にいる人々のことを想いながら打上げを続けている。

「芸能人やスターでない限り大観衆の歓声を感じることはできませんが、我々花火師はそれに近い経験をすることができます。良いも悪いも全ての反応を受け止めて、『高崎の花火はすごいと、誇りに思ってもらえること』を目標に頑張りたいと思います」

 

地元職人がつくる花火が見れること、それは高崎市の魅力の一つですね~

製作に数か月かかる花火玉が魅せる「一瞬の輝き」…その価値を改めて感じます(じーん)

高崎の空に描く

文字通り「魂を込めた」花火づくりの世界はいかがでしょうか? 日本の伝統美はまだまだ進化していきますよ~

誰がために

令和3年1月9日、高崎市では成人式に合わせ“祝いの花火”が空を彩った。有志と共にクラウドファンディングを活用し、花火の打上げを企画した小幡さん。プロジェクトを通じて改めて「花火の価値」に目を向けたという。

「今年は開催できない市町村も多かった『成人式』。直接会ってお祝いはできなくても、花火を通じて応援する気持ちや祝福する想いが伝わればと、『令和三年、新成人を花火で祝う!〜成人式×花火 前へ進もう 新しい世界へ〜』というプロジェクトを企画しました。地域花火店の協力もあり、県内6か所での打上げが実現。お祭りと比べると規模は小さいものですが、新成人の方が喜んでくれたと聞いています」

イベントの開催が難しい昨今、花火の打上げも従来の集客型では臨めない。それでも「皆が花火を受け入れてくれて、応援してくれました」とのこと。新たなハレの日の祝い方、そして新しい花火の可能性が切り拓かれた。

「成人式を終えて感じたことは“何のために花火を上げるのか”が重要だということ、そんな当たり前のことを改めて気付かされました。200人近くの支援者の想いを背負って打上げた花火だからこそ、新成人の方に気持ちが伝わったのかなと思います。『成人式は花火で祝うものだ』って、新しいお祝いの仕方が広まったら嬉しいですね。これからも“意義のある花火”にこだわって仕事をしていきたいです」

意義のある花火、想いを乗せた花火――それは小幡さんが花火師の道へ進んだきっかけの花火のように、誰かの背中を押す力となるだろう。なかなか明るく上を向けない時代だからこそ、空に輝く花火に“新しい価値”が見つかるのではないか。小幡さんの言葉からは、そんな希望が感じられた。

 

『高崎で暮らす』でお知らせしたCF、無事大成功したようですね♪

小幡さん、有志の皆さん、支援者の皆さん、お疲れ様でした

そして新成人の皆さん、改めておめでとうございます!!

こちらは高崎市倉渕町で花火打上げを行った際の記事、想定をはるかに超える人手に自治体担当者は嬉しい悲鳴をあげたそう
新たな地域おこしのヒントが見えてきますね!!

花火を打上げる力

最後に紹介したいのは、地域と花火に関する2つのエピソード。新しい花火を模索する小幡さんの体験を教えて頂くことで、街と花火のこれからを考えてみるとしよう。

「昨年11月に吾妻郡嬬恋村田代地区で行われた『田代村おこし花火大会』は、地域の方から『花火を上げたい』という声を頂いて開催した花火大会でした。特産品のキャベツを収穫した後の畑で打上げので、『自宅から鑑賞できて良かった』『いつもより大きい花火で迫力があった』と喜んで頂けたようです。オリジナルの“キャベツの花火”も、地域の宣伝に繋がればいいなと思い考案しました。打ち上げ場所の調整から打上げ後のゴミ拾いまで住民の方が協力してくださって、本当にいい仕事ができました」

「今年1月には市内企業の方から『花火で創立4周年を祝いたい』と、打上げの機会を頂きました。店舗近隣の田んぼを利用した打上げで、5分ほどの小規模な花火。それでも美容室の従業員さんにとっては特別な体験になったんじゃないかと思います。こちらも地域の皆さんが快く協力してくれて、花火を通じてお店の紹介もできました。企業も個人もやりたいことができない状況だからこそ、花火を新しい形で楽しんでもらえれば嬉しいです」

「私たち花火屋が求めているもの、それは地域との繋がりだと考えています。花火は音も出るし、ゴミも出る。地域の方に望まれなければ打上げることはできませんし、望まれて仕事をしたいと思っています。一方で、私たち花火屋に求められているものは“楽しいひと時”をつくること。職人の技術や芸術性も大事ですが、シンプルに喜んでもらえる花火を目指して、信念を曲げずに挑戦し続けたいと思います」

“ニューノーマル”と名付けられた新しい暮らし方の中で、花火の在り方を模索する小幡さん。大切にすべき想いを掲げながら、これからも高崎の街を色とりどりの花火で照らしてくれるだろう。

“今までと同じ”花火は見られない――目まぐるしく変わる暮らしの中で、その言葉は「悲しみ」と「喜び」のどちらを表すだろうか。まずは観客である私たちから、答えを見つけてみよう。同じ空を見上げる仲間と共に、希望が空に輝く街づくりをしたいと願う。

 

菊屋小幡花火店

住所:〒370-3334  群馬県高崎市本郷町1370
電話:027-343-6867
★花火打上げに関するお知らせはFBやTwitterにてお知らせしております★

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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