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高崎市楽間町 “農福連携”のバナナ栽培が生み出す新たな景色と地域の魅力

高崎市楽間町にて『株式会社おもつな』が運営する就労継続支援B型事業所「ワークランドらくま」の鈴木さんにインタビュー!
長年福祉業界に勤める鈴木さんが、高崎でバナナ栽培を始めたきっかけは何か。バナナを育てる中で見つけた地域の魅力と、地域に芽生えた新たな可能性について話をお聞きした。

2024.06.21

高崎市と“農福連携”

手前に見えるのは「バナナの花」 高崎にある「南国の風景」をご紹介します!

高崎市といえば、あなたはどんな景色を思い浮かべるだろうか。都会的な駅前や自然豊かな山や川など、この街には様々な顔がある。

多様な景色の中には「高崎らしい南国の風景」という珍しいシーンも含まれている。今回の記事では“農福連携”の取り組みが生み出した新たな高崎の景色をご紹介しよう。

就労継続支援B型事業所「ワークランドらくま」

バナナ栽培を行うハウスの中でインタビュー! 実際の作業の様子も見せていただきながら、様々なお話を聞かせていただきました

訪れたのは高崎市楽間町。『株式会社おもつな』が運営する就労継続支援B型事業所「ワークランドらくま」の鈴木速人(すずきはやと)さんにインタビューをさせていただいた。

「これまで26年間、福祉業界で仕事をしてきました」と話す鈴木さんが、高崎でバナナ栽培を始めたきっかけは何だろうか。バナナを育てる中で見つけた地域の魅力と、地域に芽生えた新たな可能性について話をお聞きした。

人生初の景色に大興奮!となった今回の取材。

長閑な田園風景が広がる楽間町の新たな取り組みをご紹介します🍌

福祉への想いに動かされ、北海道から群馬・高崎へ

子どもの頃から福祉に興味があり、現在も想い変わらず活動している鈴木さん 高崎を訪れたのはある求人がきっかけだったそうです

鈴木さんの出身は北海道室蘭市。まずは高崎を訪れることになったきっかけを伺った。

「生まれは北海道室蘭市、海の近くで育ちました。福祉業界に興味をもったのは、私の祖父が介護を必要とした時のことです。当時は介護といっても厳しい態度や言葉で接する人が多く、子どもながらに『お年寄りにもっと優しくしたい、助けになってあげたい』と思いました。高校卒業後、福祉の専門学校に入り、介護福祉士になりました。まだ男性の介護士が珍しかった時代です。それから今まで、26年間福祉業界で仕事をしています」

子どもの頃からお年寄りと接することが好きだったと話す鈴木さん。高齢福祉施設に勤め始め、その後、障害者支援施設での勤務を経験する。

「障害者支援施設では障害のある方と一緒に作業をしながら仕事を教えます。障害があっても仕事のレベルが高くなれば一般企業に就職できる方が多く、私にとって彼らが就職することが自分の仕事のモチベーションになっていました。ただし、北海道には重度の障害を持つ方向けの仕事があまりありません。廃棄物の選別などの仕事では稼ぎも少なく、私はずっと『このままでは意味がない、どうしたら彼らのためになるだろうか?』と考えていました」

「自分の中で考え続けた結果、“農福連携”を試すことにしたんです」。北海道の養豚場に転職し、自ら農業の現場を体験することで、新たな障害者雇用の道を切り拓くことを決意した鈴木さん。しかし、実際に養豚の仕事を体験してみると、多岐にわたる業務は複雑で危険も多く断念せざるを得なかったという。それでも諦めずに“農福連携”の道を模索し続けた。

「養豚分野では無理そうだ……と思っていた時、たまたま『株式会社おもつな』のバナナ栽培に関する求人を見つけました。動物ではなく植物を相手にする仕事なら希望があるかもしれないと思い、すぐに募集に応募したんですよ」

一風変わった『株式会社おもつな』の社員募集に希望を感じ、即日応募したという鈴木さん。この出会いが、鈴木さんの高崎での挑戦の始まりとなった。

即決即断の行動力が生み出した「からっ風バナナ」

鈴木さんたちが育てているバナナの名前は「からっ風バナナ」 写真は販売品よりやや小さめなものですが、皮まで食べられる安心安全なバナナです

高崎市田町に本社を置く『株式会社おもつな』は、中小企業やNPO法人のコンサルティング業務を主体とし、福祉部門として障害者支援施設や高齢福祉施設などの運営を行っている。

「バナナ栽培に興味を惹かれて『株式会社おもつな』の求人に応募しましたが、話を聞くうちに障害者支援施設の運営や障害者雇用の取り組みをしている会社だということを知りました。私が連絡した時にはすでに求人募集は定員に達していたそうなのですが、運よく辞退する人がでたため、採用していただきました」

即決即断の行動力には「社長も『本当に北海道から来るの?』と驚いていました」とのこと。しかし、鈴木さんの頭の中は北海道で待つ仲間たちのことでいっぱいだったという。

「まずは岡山県へ3か月間の研修に行き、バナナ栽培の知識を身に付け、高崎へやってきました。バナナの苗を植えるために、土を入れ替えるところから自分でやりましたよ。重機の動かし方を学び、バナナ専用の水はけのよい土を入れて苗を植え付けました」

「また、当初はバナナ栽培だけを計画していたのですが、これまでの『株式会社おもつな』の取り組みと私の福祉に対する想いが重なり、高崎でも就労継続支援B型事業所を作ることになりました。バナナ栽培と同時並行で施設の準備を進め、「ワークランドらくま」を開設。現在は施設を利用されている障害者の方にバナナ栽培や収穫、加工、梱包、販売など様々な分野の仕事を担当していただいています」

バナナ栽培と施設開所から今年で3年目。無農薬栽培・化学肥料不使用で育てられるバナナの収穫量は年々増え、現在は年間収穫量は12万本ほどだという。上州名物のからっ風に吹かれたバナナの実には葉が擦れたキズが付くため「からっ風バナナ」と名付けられた。今は北海道の仲間と共に収穫されたバナナの加工を行うなど、新たな取り組みが広がっている。

社長と鈴木さんが抱く障害者福祉や高齢者福祉の想いが重なり、今の「からっ風バナナ」が生まれたんですね。知れば知るほどバナナが美味しく愛しくなる、素敵なストーリーを聞かせていただきました。

「南国の風景」が「地域の景色」に変わるまで

「ワークランドらくま」の外観 地域や自然と調和した広々とした日本家屋をが活動拠点となっています

バナナ栽培のハウスは全部で4棟。近くには古民家をリフォームした「ワークランドらくま」の事務所があり、収穫後のバナナの追熟や袋詰めなどを行う拠点として活用されている。実際にバナナ栽培を始めてみて気付いたことなどをお聞きした。

「「ワークランドらくま」を利用されている方は20名ほど。中には生きづらさや精神的な辛さを抱えている方もいますが、バナナ栽培は自然の中でゆっくり自分のペースでできる仕事なので、スッキリした気持ちになる方も多いようです。国内でバナナ栽培ができる人材は少なく、高いお給料で人材募集がある仕事です。肥料の量や時期は利用者さんの判断で与えていただき、一人でバナナ栽培ができるようになることを目標に“仕事の練習の場”として活用してもらっています」

「身体的な障害がある方でも、希望する方には車椅子での水やりのサポートなどをすることでバナナ栽培に参加することができるようにしています。サポートする人手は必要ですが、できることに限界は作りたくありません。他にもバナナの袋詰めやバナナを活用したお菓子作り、キッチンカーでの販売などにも挑戦することができます。基本は農業主体ですが、分野を狭めず、利用者の方がやりたいことをやれるように心掛けています」

「事務所はハウスの近くにある、築70年ほどの広くて雰囲気の良い古民家です。この辺りは昔ながらの農家さんが多く優しい方ばかりで、すんなりと受け入れていただきました。毎日のように見に来てくださる地域の方もいて『バナナが大きく育ってきたね』と声を掛けてくれたり、小さなお子さんを持つご家庭の方が『安心安全なものを食べさせたい』とバナナを買いに来てくれたりしています」

バナナ栽培を通じ、利用者の喜びや地域の方との交流が生まれていると話す鈴木さん。昨年からは近隣地域のこども園の子どもたちが見学に訪れ、バナナの収穫を体験している。また無農薬栽培・化学肥料不使用で育てられる「からっ風バナナ」は、県内高校の部活動からプロ野球チーム、相撲部屋などスポーツ分野からの需要も高い。

「最近は『バナナ栽培をしたい』という企業の方からの問い合わせもあり、新規ハウス立ち上げの際には、バナナ栽培のノウハウを身に付けた利用者の方に指導をお願いしています。利用者の方が仕事の幅を広げることで自信を持ち、もっと楽しんでほしいと思っています」

南国のバナナが群馬県で収穫できるって不思議ですね!
ちなみに、北海道出身の鈴木さんは、雪がない高崎の冬の寒さに驚いたそう。「冬の寒さや風の強さは課題ですが、日照時間が長い土地の良さを活かしてバナナを育てていきたいです」とお話いただきました。

楽間町から生まれる、新たな高崎の魅力

こちらの赤い実は「コーヒーの実」 飲料としては身近な存在ですが、実物を見る機会がなかなかない農作物ですね

バナナを栽培するハウスには、小さな赤い実がついた木も植えられている。前回「高崎で暮らす」で紹介した『大和屋珈琲』と共同で育てているコーヒーの木だ。高崎産コーヒー作りの話やバナナを活用した加工品づくりの話など、今後の展望をお聞きした。

「2年半前から『大和屋』さんと共同でコーヒー栽培も始めました。この苗は大和屋さんにご依頼いただき、奄美大島で買い付けたもので、バナナと同じく無農薬栽培で育てています。まだ豆ができるようになってから2年ほどの木なので、これから大きく育っていけば、高崎産コーヒーができるようになると思います」

「また、バナナは実だけでなく花も食べられますし、葉を青汁やお茶にしたり、幹を加工して和紙を作ったりすることもできます。実際に北海道ではバナナの繊維からつくる和紙で工芸品を作る取り組みがはじまっています。社長とは『バナナで地ビールが作れたらいいね』と話をしていますが、まだまだ色んな取り組みができそうで楽しみです」

「社長が色々なことを考えつく人なので、負けじと新しいことを考えることが楽しいんです」と話す鈴木さん。豊富なアイディアと行動力が生み出す、今後のチャレンジにも注目していきたい。一方で、取り組みの始まりとなったバナナ栽培にも改めて力を入れていきたいという。

「私たちがバナナ栽培の話をすると、『障害者の方が作ったものは質が良くないんじゃないか』と思われる方もいます。しかし、私たちは栽培方法にこだわり、それぞれが得意な仕事を専属で担当しながら、クオリティの高い商品を作っています。『からっ風バナナ』は1本500円と高価ですが、それだけの味の良さを認めてくださる方が多く、注文は増えています。皮まで食べても安全安心な商品を、高崎の名産品にしていきたいです」

「福祉の仕事を始めてから想いは変わらず、『障害者の方が事業の主体となって動くことで自信を付けてほしい』『学んだことを活かして新たな場所で活躍してほしい』ということを目的に活動しています。高崎市や群馬県に留まらず、北海道やその他の地域にも活動を広めていきたいですね。障害者の方の仕事を増やす取り組みを応援したいという企業の方がいたら、ぜひ声をかけてほしいと思います」

最後に鈴木さんは「数年で北海道に戻ろうと思っていたんですが……」と高崎の魅力についても話をしてくれた。田園風景が広がる楽間町の風景、そして家や蔵などの歴史を感じる建物の風情が気に入ったという。

「単身赴任で高崎に来ていましたが、数か月前から子どもと一緒に高崎で暮らしています。娘は北海道では学校に馴染めなかったようなのですが、高崎に来たら毎日が楽しいようで、泥だらけになって帰ってくるんですよ。違う地域から来たことで感じられる地域の良さ、落ち着く風景があることの素晴らしさを日々実感しています」

すでに高崎の新たな名産品となりつつある『からっ風バナナ』。一本のバナナができるまでのストーリーを知る中で、これまで高崎にあった価値や魅力を再発見することができた。

新たな取り組みが生み出した高崎の風景は、もうすでに地域の景色として馴染んでいる。私たちの暮らしはどんな未来の街の姿を作るのだろうか。これからの高崎を想像しながら、日々の暮らしを楽しみたいと思う。

ワークランドらくま

〒3700087
群馬県高崎市楽間町87番地
電話:027-395-0832

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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