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高崎市東貝沢町 素朴な花が咲かす地元の魅力と”未来のレシピ”

高崎市東貝沢町の人気飲食店『たんぽぽ家』。オーナーで料理人の持田敦史さんは「(今ここに住む)皆さんのための食をつくること」にこだわっている。選び抜かれた食材と持田さんの物語とは?食を通じた場づくりである“未来のレシピ”の話をしよう。

2018.12.08

高崎市と名店

今回は“名店あるある”な写真をご用意いたしました こうしたお店カラーのディスプレイ、見ちゃうんですよね~

名店揃いの高崎市

グルメなまち、高崎市。

朝の出勤に合わせて早くから開店するサンドイッチ屋さんや、取れたての“山の恵み”に出会える朝市。新鮮な野菜や地産の肉が多くの飲食店で使われている。昼には長蛇の列ができる定食屋あり、車でわざわざ出かけたい喫茶店あり。食べ盛りには嬉しい大盛りのランチも多くある。夜は灯りの数と同じだけの温かな食事と人の笑顔。ゆらゆらと赤提灯が揺れれば、グラスの氷も揺れ動く。

豊かな食に彩られた、わがまちの風景だ。

そんなまちを「“名物”よりも“名店”が多くある」と誰かが言った。確かに、“ご当地食を出す定番の店”ばかりではなく、個性的な店主の店や地域性あふれる喫茶店が立ち並ぶ。「高崎に来たらこの店」と紹介するよりも、「高崎で○○を食べるならこの店、○○なら……」といった紹介をしてしまうのはこのためだろうか。まちにはまだ、隠された“名店”が数多くあるに違いない。

今回は、ぜひとも紹介したくなる東貝沢町の“名店”を取材した。和食や洋食といったジャンルにこだわることなく、昼も夜も大人気なお店。わくわくしながら暖簾をくぐってみるとする。

住宅街にひっそりと咲く花『たんぽぽ家』 駐車場は写真奥、一軒隣の美容室を過ぎたところにあります

『たんぽぽ家』

「周りからは結構『オシャレで住みたい街』って言われるんですよ、東貝沢町は。でも、お店を出した頃――『新保町』だった時代には大きな道路もなくて。僕が小さい時にはイナゴやドジョウを取りに来た、そんな田んぼだらけの場所でした」

桜木通りから東貝沢ハナミズキ通りへと曲がった先、東貝沢町の飲食店『たんぽぽ家』のオーナーの持田敦史(もちだあつし)さんは地元の思い出をこう語る。 “環状線” “高駒線” “前橋高崎線” など高崎市内の主要道路に囲まれた閑静な住宅街は、近年、アクセスの良さやモダンな雰囲気に惹かれて引っ越してくる人も多いそうだ。

そんなアパートやマンションが並ぶ道沿いに、そっと店の扉を開けているのが『たんぽぽ家』である。ランチ営業には嬉しい定食メニューがあり、夜の営業では食事とお酒を楽しむことができる。利用者の多くは昼夜問わず女性が多く「女性のスタッフが喜ぶから」「お酒が飲めない人も楽しめる、食事の美味しいところへ」と社内宴会や懇親会利用の人気も高い。

料理人として腕を振るう持田さんのポリシーは「(今ここに住む)皆さんのための食を出すお店である」こと。こだわりの食材と料理に隠された物語、そして持田さんが創り出す“名店”の理由とは何か。食を通じた持田さんの場づくりについて、聞いてみた。

いい匂いに誘われてたどり着いた『たんぽぽ家』。編集長の“ハナ”は間違っていなかったようですよ!「普段あまり外食はしないんだけど……」というアナタにこそ、オススメな記事かもしれません

『たんぽぽ家』のこだわり

見てください! この「居着いてしまう」カウンターの趣を! キープされたボトルが所狭しと、それはもう“名店”の証ですね

陽だまりに咲く花

「今年でオープンから14年、“皆に愛される雑草”であり“踏まれても元気”であることから『たんぽぽ』と名前を付けました。実はキャッチコピーがあって、“コトコト トントン台所 心の野の花 たんぽぽ家”……という。手作り感だったり、素朴な感じだったりを大事にしたいと思っています。大きなことはできないですが、お客様が帰るときに“心に野の花が一つ咲く”くらいの良いことができたらな、と」

オーナーである持田さんの言葉は、ほっこりと温かいお店の雰囲気を伝えてくれる。『たんぽぽ家』のメニューを彩るのは地元の食材、手作りされたドレッシングやソースからは既製品でない味の豊かさを感じるだろう。お店のモットーは「素朴で地元」であることだそう。隠れ家的名店として愛される食の“こだわり”について伺ってみた。

「うちの定番料理『エビフライ』のエビは、無添加・天然のものを使っています。というのも、養殖のエビにはどうしても抗生物質が入ってしまうからなんです。ソースも同じで化学調味料を使えば凄く美味しくなる。“おたすけな薬”が入りますからね。僕は、お客様からお金をもらうのに体に悪いとわかっているものを出すのはダメだと思いますし、何より食材本来のうま味と、料理による味わいで勝負したい。食べて安全なのは最低条件で、美味しさも求める“正直な料理”。それが僕の“こだわり”でしょうか」

「他にも有機栽培の食材を使ったりはしていますが、全部の食材を取り寄せたりしているわけではありません。オーガニックの、地元の野菜が入る時に使うようにしているだけなんです。うちでは形としての“オーガニックへのこだわり”じゃなくて、無理をしない範囲で“良いものを選んで使う”。ソースやドレッシングを手作りするのも、自分のできる範囲での取り組みですね。なんでもかんでも“こだわり”ではなく、肩のちからを抜いてやっています」

今の時代、“こだわり”をアピールすることは商業的な売り込みであることが多い。機械的・義務的な“オーガニック”や“おすすめの食材”といった言葉を使わないのが、『たんぽぽ家』の特徴だ。体に悪いものは使わないというアクション、良いものを広める活動、無理しないからこそ続けられる取り組み――シンプルに思えるが、化学調味料なしで美味しさを保つための努力は相当なものだっただろう。何気なく『たんぽぽ家』で出てくる食材やソースの一つ一つに、持田さんの熱い想いを感じた。

化学調味料、その手軽さと美味しさ――それから添加物(アミノ酸等)の影響は皆さんご承知のはず。でも実生活からすべてを取り除くのって、大変なんですよね。「簡単なことなんですけど、“使わない”という行動を取るようにしています」と話す持田さん。手間暇かけて料理をつくる職人の一言には、お客さんと食材への愛たっぷり、感動です!(うるうる)

ごろんとした“多胡の里豚”とお野菜の一品 口に入れればじゅわっとお出汁の味が……想像だけではらぺこ必至です(店主撮影)

食材と料理を繋ぐ

料理される食材に対しても、お客さんに対しても“正直な料理”を貫く持田さん。いったい何が、彼にそうした熱い想いを抱かせたのだろうか。持田さんと食材の出会い、料理人として感じた役目とは。『たんぽぽ家』の食が繋ぐ物語を紹介しよう。

「お店を始めた14年前には“オーガニック”という言葉が今ほど普及していなかったのを覚えています。それでも添加物に頼らない料理をしようと思ったのは、うちで使う食材――地元の野菜農家さんや埼玉県児玉郡の『松田マヨネーズ』さんの“マヨネーズ”、高崎市吉井町『平井養豚農場』さんの“多胡の里豚”――の“少し頑張って、こだわったものづくりをする先人たち”に教えてもらったんだと思います。特に、『平井養豚農場』の平井さんは群馬県でも“有機農法のさきがけ”ともいえる方。野菜を豚のたい肥で育て、野菜くずで豚を育てる“循環型農業名人”なんですよ。平井さんも40年前には『(循環型農業では)やっていけないよ』と周りから言われたそうです。でも、食べてみると本当においしくて、この食材の美味しさに応えなければと思いました」

「それから、お店を立ち上げる前のこと。高崎市棟高町(当時は箕郷町)の『スーパーまるおか』さんを訪ねました。こだわり抜いた食材ばかり扱うスーパー、箕郷町という郊外の地域ですが多くの人で賑わっていましたね。不思議に思った僕は、アポイントも取らずに2時間、その場で社長さんに話をしていただいて。『美味しいものと、しっかり作っているもの。それを売っていけば大丈夫』という丸岡さんの言葉には、強い信念を感じました」

持田さんは、「料理人には生産者と消費者を繋ぐ“真ん中に立つ人間”としての役割がある」と語る。汗を流し、丁寧な仕事でこだわりの食材をつくる生産者の想いを、余すところなく消費者に伝える役目。“正直な料理”として素材の味にこだわることは、生産者の想いを真摯に受け止めた結果だったのだ。

「うちのオムライスは鳥から出汁を取って作りますし、塩は「にがり」の入った天然の塩を使っています。でも、そんなこだわりを知らなくても皆さん『美味しい』と言ってくださいますね。本当に人間にとって必要なものが入っているからでしょうか。良いものは伝わる、と思っています」

「だからこそ、良いものをつくる生産者がいたら、それをお客さんに食べさせるひとがいないと。『食材が美味しい』ことを広めるのも、厨房という“真ん中に立つ人間”として必要な役割だと感じています。こだわって作った生産者の食材を使うこと、化学調味料の入っていない料理をつくること。それは僕なりの表現であり応援のカタチなんです」

高崎市井野町にある姉妹店『野ノ花』もちょこっとご紹介。数多くの飲食店が閉店してしまった震災の年に『委縮せず、元気に頑張ろう』という思いでOPENしたそう。カジュアルな雰囲気の店舗は「『たんぽぽ家』よりも低価格で今風な感じ」とのこと。美味しい“多胡の里豚”も食べられますので要チェックです!(“松田マヨネーズ”など『たんぽぽ家』といくつか違う部分もあるそうです。詳しくはお店まで)

“名店”の理由

「個人的には群馬って、本当に隠された都だと思うんですよね……」文化人類学を専攻していた持田さん、郷土史や逸話の話題も豊富ですっかり楽しいひと時(インタビューです)を過ごしてしまいました。神社の話、羊太夫の話……ぜひご本人に訊ねてみてくださいね。“ジモトーク”で盛り上がること、間違いなし!

組み合わせて

ここまで、持田さんの食材愛と料理人としての想いを紹介した。美味しい食材、腕のいいシェフ、体に良い食事――三拍子揃ってもなお、『たんぽぽ家』ならではの美味しさは語りつくせていない。より深く“名店”の味を知るためのカギとなるのは、持田さんの今までの中に隠されていた。『たんぽぽ家』の味を生み出した、料理人の歩みを追いかけてみよう。

「僕は高崎生まれの高崎育ち。大学時に県外へ出て、文化人類学を学んでいました。そうです、料理の学校じゃないんですよ。はじめは広告代理店に勤めたいと考えていたんですが、『もっと生きていくことに近い仕事をしたい』という思いをずっと持っていて。『手に職』じゃないですけど、自分の実力としてわかりやすい仕事がしたかったんです。料理は『食べられないものを食べられるようにする、生きていくための技術』だという部分が魅力的ですよね。大学へ入って視野を広げる中で、料理の道に進むことを決めました」

大学を卒業後は地元に戻り、フランス料理の現場へ飛び込んだ持田さん。高校から厨房に立つ仲間との遅れを埋めるべく、朝から晩まで修業に明け暮れたという。自分が作った料理を食べて、目の前で「美味しかったよ」と言ってもらうこと、お皿が綺麗に返ってくること。一つ一つの仕事にやりがいと喜びを感じていた。

「自分の仕事に対してのレスポンスが早いのは、料理人の特権ですね。作り手として、消費している人の姿がわかる、意見を聞ける。厨房に立って、よかったなぁと思う部分です」

「それから、料理は“料理人”というフィルターを通してつくるものだというのも実感しました。便利な時代、コンビニでコーヒーも飲めればドーナツも食べられて、お弁当も数種類ある。小さなお店は大手のお店さんやお惣菜にない味を出さないと選んでもらえないですよね。僕が選んだ食材、手作りしている調味料、お皿に込める想い。一つ一つが自分の選んだ結果だからこそ、唯一無二の『たんぽぽ家』の味があるんだとおもいます」

真似できない、自分だけの個性的なアウトプット――持田さんは、自身の目指す料理をこんな言葉で表現してくれた。今まで見てきたものや経験したものを食に繋げていく、ここにしかない一皿。持田さんは「人文に科学を繋げた『社会学』だったり、アイディアや新しい組み合わせをつくる『広告』だったり。同じ発想ですよね。自分のやりたいことが、料理という形で表れているのかも」と話す。料理だけでなく、地元や歴史、表現など多くの分野に関心を持つ持田さんだからこそ出せる味が、地元を愛する彼ゆえの味が『たんぽぽ家』を“名店”にする魅力なのだと感じた。

落ち着いた雰囲気の店内は初めて訪れた時にもあたたかく感じるはず そうそう、ビール好きは写真左の『クラフトビール』も要チェックですね

つながる場としての飲食店

料理の皿以外も“魅せる”料理人の持田さん。食に関係したイベントや企画にも取り組んできたという。今までの地元・高崎市に向けた活動についても伺ってみた。

「高崎を盛り上げたいという想いがあって、『キングオブパスタ』に出場したこともありました。キングになりたいというより、毎回同じお店やパスタのお店ばかり出ていたらつまらないかなと思って。“パスタのまち高崎”と言ったときに、お寿司屋さんもパスタを出すし、うちみたいなお店にも変わったパスタがある――それは、“パスタのまち”である高崎にとって必要なピースであるように感じたんです。まちへの応援の気持ちを込めて参加しましたね」

「また、お店で定期的にイベントも開催しています。“日本酒とジャズのゆうべ”だったり、“ボサノバとクラフトビールの会”だったり。クラフトビールの中には高崎市で作られている『シンキチ醸造所』さんから仕入れたものも用意しました。せっかく高崎で頑張って作っている人がいるので、皆に広めようと思って。赤字覚悟の開催でしたが、本当にみんな“シンキチ”のビールばっかり『ウマイ!』と言って呑むんですよ!……嬉しかったですね。企画を通じて皆で成長できたり、横のつながりを作れたり、『次は“シンキチ”に行ってみよう』となってくれたらいいなと思います。飲食店は、人と人とが一緒になれる場所なので。僕は“人と人とを結ぶこと”が得意だから、そんな役目も担っていきたいと思っています」

他にも、店舗を活用した『異業種交流会』や『ご当地ソングの作曲企画』などに取り組んでいると持田さん。美味しい食事とお酒の力も手伝って、多くのアイディアやつながりが生み出されていく。それはまるで持田さんの料理のように、輝く地元の力が集まって新たな魅力となるのだった。

「お菓子屋さんとお酒屋さんがコラボして『酒かすのマカロン』を売るようになったりと、繋げるための企画をたくさんしています。アウトプットを料理だけでなく、色んなチャンネルで提供していきたいんです!……熱く語ってしまいましたけど、“肩の力は抜きつつ”続けていきたいと思っています」

今回、地元の魅力発信の一つとして『高崎で暮らす』の取材をOKしてくれた持田さん。広告業に熱い想いのあるシェフらしく、『商売だけの』掲載や取材は断っているそう。

「お互いにとって良いものだけを、選んでいます。群馬県や高崎市のメディアは『地元を元気にしたい!』という想いの方が多いですよね。そうした多くの試みが合わさって力になればと思います。」とのこと。まったくもって、その通りであります

カウンター越しの景色 この距離で職人の技が見れちゃいます! 恥ずかしがり屋なあなたがそっと呟く「美味しい……」も、きっと届くはず

私たちに向けた料理

釜焚きごはんが嬉しい和定食、地元の自然卵をつかったオムライス、女性に人気のロコモコ丼に手作りふわふわシフォンケーキ。持田さんのつくる『たんぽぽ家』はメニューを開けば多種多様な品々で溢れている。

最後は、料理人という表現者である持田さんが伝えたい想い、私たちに向けてつくる料理について話を聞いてみるとしよう。

「うちはお店の“ジャンル”が決まってないんですよ。私はもともとフランス料理の料理人でしたが、『たんぽぽ家』を和食のお店だというお客さんもいますし、定食屋や居酒屋、洋食屋という方もいます。というのも、『今、日本人が食べるものを提供したい』という思いから様々なメニューを用意しているんですね。例えば、ナポリタンやとんかつ、天ぷら。本来は海外のレシピであった料理も、時代を経て“日本料理”になったものはたくさんあります。そうした『今のお客さんに美味しく食べてもらえる料理』を揃えることで、お客さんに向き合っていこうと思うんです。もちろん10年、20年後にはもっと色んな“日本料理”があるでしょう。メニューも時代に合わせて、しっかり作っていきたいと思っています」

「また、旬や季節感というのも伝えたいことの一つです。大人気のメニュー『とうもろこしの塩かき揚げ』は夏以外に出しません。それでもお客さんは次の夏を期待して待ってくださる方が多いですし、冬が旬の『下仁田ネギのかき揚げ』を楽しんでくださいますね。『また来年が楽しみだね』と暮らせることが、僕はいいなと思っています」

真っすぐに食材、料理、そして今を生きる私たちと向き合う持田さん。このまちで活躍する先駆者から引き継いだ情熱を、料理のかたちに変えて私たちに届けてくれている。美味しさとともに広がるまちの魅力が、私たちの暮らしを豊かに彩ってくれるだろう。

“名店”が溢れるまち、高崎市。そんなまちを支える魅力は生産者や料理人、そしてこの高崎で暮らす人がつくり上げている。今、あなたがだせるまちの“味”はなんだろうか。理想の暮らしを叶える“未来のレシピ”がわからなければ、ぜひ一度“名店”に足を運んでほしい。美味しい食材に込められた想いや素敵なシェフがつくる料理が、とっておきのヒントをくれるから。

『たんぽぽ家』

住所:群馬県高崎市東貝沢町1-17-2
電話:027-362-0327
営業時間:11:30-15:00(LO.14:00)
     18:00-23:00(LO.22:00) 日曜定休(祝日は夜のみ営業)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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