高崎市北通町 ワインを愛する”職人”ソムリエールが語る『このまちらしい暮らし方』
新たな風が吹くまち、高崎市。多くの人に“挑戦の場”が用意されていることはわがまちの強みであり、オープンな地域性を表している。高崎市北通町のワインバー『pompette』のソムリエール・清水美里さんは新規開業者の一人。“挑戦のまち”らしい生き方と、お酒を楽しむ豊かな暮らしについて聞いてみた。
2019.01.18
高崎市と起業
挑戦のまち高崎市
新たな風が吹くまち、高崎市。様々な人の営みで輝くわがまちの暮らしは、「新規開業者が多い」という特徴が1つある。市の統計データを見ても、平成3年から平成24年までの21年間、市内の事業所数は2200件ほど増加。新たな挑戦・新しい場所での活躍がしやすい土壌を、手厚い支援制度や創業に関する補助金・融資が下支えしている。
多くの人に“挑戦の場”が用意されていること――それはわがまちの強みであり、オープンな地域性を表している。このまちだからこそ出来ることは何だろうか。ぜひとも、あなたが「高崎のまちでやりたいこと」を考えながら、この記事を読んでみてほしい。
ワインバー『pompette』
地元・群馬県にてワインバーを営む清水美里(しみずみさと)さんも、このまちの新規開業者の一人。高崎市北通町のワインバー『pompette(ポンペット)』のソムリエールとして、日々挑戦を続けている。
彼女のお店の特徴は、ワインを愛する清水さんセレクトのワインたちと、手作りの料理によって引き出されたワインとのマリアージュ。「どんなお客さんにも、ワインを楽しんでもらえるように」と用意された幅広いニーズに合わせたボトルワインやグラスワインを提供している。カウンターでのコミュニケーションを通じてお客様が求めるワインを差し出すソムリエールの技……古くは腕利きの職人が暮らしていたまち・北通町にぴったりな、確かな技術がつくりだす心地よい空間だ。
インタビューの中では、一人の職人として「自立した生き方を選ぶこと」を語ってくれた清水さん。彼女が伝えたい想い――カウンターの中から発信するメッセージとは何だろうか。高崎のまちで果敢に挑戦を続ける若いソムリエールの言葉から、“挑戦のまち”らしい生き方と、お酒を楽しむ豊かな暮らしについて考えてみよう。
「仕事終わりにふらりと立ち寄りたい」北通町のワインバー『pompette』。“ほろよい”の意をもつ仏語を冠したお店らしく、疲れた体もカチコチの心もゆるっと溶けていくお店です(お財布の紐も、ゆるっと)
『pompette』のメッセージ
地元の食文化
開店前の『pompette』。調理前の食材が並ぶカウンターには、手際よく仕込みを行う清水さんの姿があった。祖父母が専業農家だったという彼女は『地元群馬県の豊かな食文化に、ワインを楽しむ習慣が根付けば』と考えるソムリエールの一人。“農家の食卓”で育った彼女ならではのワインへの向き合い方と、お店を支える地元の味――清水さんがこのまちで伝えたい“ワインの魅力”について話を聞いてみた。
「日本人にとって馴染みの薄いワインですが、実家の“採れたて野菜”や手作りのフランス料理と共に楽しいひと時を提供していければと思っています。たしかにワインって、飲み慣れていない人にとっては『必ず美味しい』というものではないですよね。子供がワサビを苦手なように、大人になって初めて飲むビールが美味しくないように……」
「私も春菊やワサビが苦手な子供でしたから、わかります」と話す清水さん。それでも彼女が伝えたいと想う“ワインへの情熱”は地元の味で培った味覚が根底にある。
豊かな食文化をもつ群馬県。われらが高崎のまちも、決して例外ではない。しかしながら、地産地消される食材に囲まれているという“贅沢さ”は日常の中に埋もれており、普段から意識する人は少ないだろう。ソムリエという味覚や嗅覚を頼りに仕事をする清水さんだからこそ見つけた、身近な“宝物”――それは地元の食材であり、このまちで育った私たちのもつ“感覚”だった。
「ワインを楽しむには、色んな味や香りに触れること、経験・知識が必要になってきます。大人になると好き嫌いが減るのと同じで、一見イメージの湧かない熟成されたワインの味や香り――樽の木の香り、湿った土の匂い、動物の皮や血・たばこの葉のようなテイスト――も深みにハマるとわかる面白さがあるんですよ! 美味しい食材で育った群馬県の人にこそ知ってほしいワインの魅力。葡萄畑の土・水・気候・伝統の技が織りなす香りの豊かさや味わい深さを知る“初めの一歩”をお手伝いできればと思っています」
今の清水さんを支えてくれている地元での食体験が、ワインと共に楽しむ“食”の在り方を見つけ出すヒントをくれた。このまちの人にこそ訪れて欲しいワインバー『pompette』、ワイン初挑戦というあなたも、ぜひ挑戦してみてほしい。
ワイン愛溢れる清水さん!お店の随所にみられる工夫は全て『ワインを美味しく飲んでもらいたい』という想いをカタチにしたものなんです。どんどん紹介していきますので、とくと、ご覧あれ!
ワイン愛
ワインへの深い理解と、地元の味を活かしたお店づくり。『pompette』のワインを引き立たせる工夫の数々について紹介しよう。
「多くの方は“ワイン”というと、かしこまって飲む“高級ワイン”のイメージが強いのかもしれませんが、ヨーロッパではお水の代わりに気楽に飲むお酒でもあるんです。例えば、フランスの田舎の食堂では、ランチを頼むとセットでデキャンタのワインがドンっとついてきたり。のみ放題というか、好きに飲んでねという感じですね。うちのお店でも色んなワインを飲んでみたいという声に合わせて、数種類のグラスワインを500円から数千円まで幅広く用意しています。飲んだことのない方や苦手意識のある方こそ、『pompette』でワインを試してみてください」
「それから、ワインの“新たな楽しみ方”を提案する企画にも挑戦中です。桐生のお鮨屋さんと始めた『お鮨とワインのマリアージュ会』、お鮨にワインを合わせるのは難しいのですが、皆さん興味を持って参加してくださいます。春夏秋冬、季節のネタと共にワインを楽しむ……ワインに馴染みのない日本人にとって、受け入れやすいかたちなのかなと手ごたえを感じています」
他にも実家の“清水農園”の野菜でつくられるフランスの家庭料理や手作りのパン、自家製のおつまみ……ワインをより一層愉しめるように調理された一皿のファンも多いと聞く。特に、野菜本来の旨味が染み渡る料理に惹かれて「ひとり暮らし・単身赴任のサラリーマン」や「野菜好きでグルメな女性のおひとり様」が多く訪れるという『pompette』。農家の食卓から始まった食との歩みが、高崎のまちに暮らす人々をワインと結びつけていく。
「料理に使う食材にこだわっているのも、作れるものは全て手作りしているのも、ひとえにワインの美味しさを知ってほしいという気持ちからです。外から室内の見えるカウンターバーは、女性のおひとり様でも安心してご来店いただけますし、レディースデーを設けることもありますよ。小さな工夫の積み重ねで、まちに愛される店にしていきたいですね」
高崎に来て4年、お店を開いて2年。細やかな工夫と清水さんの明るくはきはきとした雰囲気で、着実に地域に根付いたお店づくりは進んでいる。
「お仕事終わりに『顔を見に来たの』と気軽に来店してくださるお客様もいらっしゃいます。ほっと一息つける時間がある暮らし、その中の一つになれればと思います」
野菜の甘さに感激した編集長。お、お、美味しい……!
野菜好きな飲兵衛も、野菜不足な辛党も。手作り料理とワインを楽しむべく、足を運ぶべし、です
カウンターに立つ
飲食の道へ
常に笑顔を絶やさず、ソムリエ・料理人・店長と八面六臂の活躍をみせる清水さん。明確なビジョンや強みのあるお店づくり……自らのお店をオープンさせた彼女の姿に、順風満帆といった印象を受けた人もいることだろう。しかしながら、頼れるソムリエには意外な過去があるという。「進むべき道に、迷ってばかりでした」という彼女の、飲食の道を志したきっかけについて伺った。
「先程は“農家で良かったところ”をお伝えしたんですけど、“農家だからこそできなかったこと”もあって……子供の頃、めったに外食へ行くことができなかったんです。たまに両親が連れていってくれる回転寿司屋や焼肉屋が楽しみで、(今お店で出しているような)フレンチやお酒の出るお店に行ったこともありませんでした。ソムリエになる、料理の世界に進むなんて思いもよらず……将来の夢ややりたい仕事が何も決まらないまま、東京へ出てしまいました」
「学生時代、授業にもなかなか出ないような“超不真面目な学生”だった私は、就職活動の時期になっても就きたい仕事が見つからず。当時流行っていたトムクルーズの映画『カクテル』が凄くかっこよかったのと、単純に『お酒が好きだから』という理由で、バーテンダーの募集に応募しました。大きな理想や夢があったというよりは、“ノリ”で飛び込んだ飲食の世界。そんな気持ちで勤め始めたのが、フレンチレストランを母体とする東京白金のバーだったんです。」
「チェーンの居酒屋しか行ったことのない学生気分の私にとって『テーブルチャージ1000円、一番安い飲み物1000円、サービス料10%』の世界はカルチャーショックでしたね。仕事も『入り口で立ってろ』と言われるだけで、何もやらせてもらえないし、道具にも触れない。『見て覚える』のが当たり前の“職人の世界”だったと思います。檸檬一つ絞らせてもらえなかった頃は、かなり反発していましたよ! 」
初めは戸惑いが多かった仕事も、任せられることが増えていくにつれ面白さがわかってくるもの。系列店のレストランでも修業をつみながら、バーテンダーやサービスの技術を身に着けていった清水さん。気付けば、飲食業界の面白さにのめり込んでいたのだった。
「『pompette』はワインバーなんですけど、バーテンダー時代に修業したスキルを活かしてウイスキーもお出ししています。お店で使う丸氷は、私が一斗缶から打って作っていて。決して他のバーにも負けない、良い出来だと思っています」
清水さんが取り出したのは、つるりと美しく整えられた丸氷。確かに、冷えた氷の中心には静かに燃える職人魂が感じられる。ソムリエだけでなく、バーテンダーとしても料理人としても妥協しない。頼れる店長を支えているのは、迷い悩んだ過去だった。
選んだ生き方
その後各地を転々としながら、飲食の仕事を渡り歩き修業を続けていたという清水さん。時に、大好きなイルカやクジラとの暮らしを求めて南の島へ移住したり、寒い雪国での暮らしを体験したりすることもあったという。そうした日々の中で考えていたのは、自分自身の「生き方」と「仕事」について。現在の“一人で切り盛りする”お店のスタイルを決めた、一職人としての想いを語ってもらおう。
「28歳くらいまで、様々な出会いと暮らしを体験しながら『自分はどう生きていくんだろう』という疑問の答えを探していたように思います。『ちゃんと自立しなきゃ』と反省したり、『自分の力で挑戦してみたい』と夢見たり。色々遠回りもしましたが、たどり着いた答えは『自分の力で生きること』――飲食業界でしか働いたことがなかったので、自然と『自分のお店を一人で経営すること』だと考えました。地元で本物のワインバーのお店を成功させたらかっこいいなという気持ちや、“自分らしく暮らせる”場所に戻りたかったという思いがあって高崎へ。私の挑戦はここから始まったんだと思います」
「自分のお店を持つと決めてから、資格をとったり勉強をしたり。がむしゃらで、まったく美しい話にはならないですけど、一人でもお店を切り盛りするために、多くの問題を乗り越えることが必要でしたね。例えば、うちでカクテルを作らないのは、提供時間がかかり過ぎる問題があるからです。カウンターをメインにして一人で調理とサービスができるようにしたのも、自家製のメニューが多いのも……自分一人の力で挑戦したい気持ちがもとになっています」
取材中、「自分一人の力で」と語る清水さんの一言一言に強い想いが込められているのが感じられた。調理師の世界、男女比率は7:3とまだまだ厨房は“男社会”だ。そんな世界で孤軍奮闘してきた清水さんだからこそ、“成したい自分”の姿がはっきりと見えたのだろう。一人の職人として、女性として。身につけた技術で勝負したいという想いは熱い。
「良くも悪くも、自分が作ったものに対して評価をされたいなと思うんです。誰でもそうだと思いますけど、他の人のミスを自分のせいにされたら腹が立つし、褒められるなら自分の力で作ったものがいいじゃないですか。さすがにワインは作れないので、料理を作ったりパンを焼いたり。チーズを作った時にはチーズ職人さんに『そこまでする人はいない』って言われましたけど……。作るのが楽しい、というのも理由の一つになっているんだとおもいます。そのうち、野菜も自分で作りたいな」
「カッコイイ生き方がしたいんです」と笑う清水さん。厨房でせわしなく動く彼女の背中は強く頼もしく、不思議と勇気を与えてくれる。仕事終わり、清水さんに会いに来る常連さんが多いというのは、彼女の眩しい笑顔が明日へと背中を押してくれるからかもしれない。
「もちろん、このお店を開くまでには多くの仲間や先輩に教えてもらったことや、手助けしてもらった部分がありました。だからこそ、研鑽を続けていきたい。自分でもっとできるようになりたい。そんな想いで今も勉強を続けています」
このまちらしい暮らし方
ワインのある暮らし
最後に、清水さんの暮らすまち高崎市北通町と『pompette』のある暮らしについてメッセージをいただいた。自らの力を信じて生きる清水さんの姿に学ぶ、このまちらしい暮らし方とは何だろうか。彼女が描く高崎の暮らしの中で、きらりと光るものを探してみたい。
「今は静かな北通町ですが、昔は高崎で一番栄えていた地域だとお客さんから聞きました。夏になると『八間道路』沿いに毎晩夜店が並んで、大勢の人で賑わって……高崎夏の風物詩、だったそうです。その話と比べると、今はお店の数も通る人も減りましたが、活気をつくっていければと思っています。ワインと共に心休まる時間と場所を提供する……このまちの暮らし方に、仕事帰りや週末『気軽に外へ飲みに行く、外食へ行く』というスタイルを広めていきたいです」
「それから、北通町には面白くてこだわりあるお店――ポリシーをもって営業しているというか、自分のスタイルを貫き通しているお店が多く並んでいます。私もこのまちのお店の1つとして、自分自身を信じて進むことを大事にしたいですね。ブレずに、ずっとお店を続けていくこと……シンプルだからこそ難しい目標だと思います」
「ぜひ、高崎のまちを歩いてみてください。面白い人が多いまちならではの、楽しい出会いもあると思います」と清水さん。このまちの、彼女自身の未来を、真っすぐに自信をもって語ってくれた。強い心をもって行動するためのコツは「自分がやりたくない仕事をしないこと」だそう。お客さんともに、自分自身も楽しみながらお店をつくっていくと言う。
このまちの暮らしには、豊かな食と人の彩りがある。まちの魅力を支えているのは、新たな挑戦を続ける若い高崎人の背中。多くの人々の期待を背負いながら、まちの未来を描いてゆく。
新たな風に誘われて、私たちも次の一歩を踏みだしてみよう。
このまちにぴったりな、あなただけの暮らし方に出会えるはずだから。
pompette(ポンペット)
住所:群馬県高崎市北通町65
電話:027-386-9845
営業時間:17時~24時 火曜日定休
この記事に関連するメンバー
西 涼子
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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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