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高崎市並榎町 まちの料理屋でうまれる「食の和 人の輪 楽の話(らくのわ)」

高崎市並榎町、住宅地ながら多くのファンを持つ飲食店の『和み処 まきの』にて、板前の牧野直哉さんにインタビューを行った。家族連れや市外からのお客さんも多く来店するという、一風変わった『まきの』の食空間。地域の中で育まれる「3つの“わ”」について話を聞いてみる。

2019.03.29

高崎市と集い

今回の取材先に飾られていたのは、わがまちのシンボル“観音様”の水彩画 まちのことを考えながら、ゆったりご飯&お酒が楽しめそうです

高崎市をつくる地域

261の地域が支えるまち、高崎市。群馬県内を南西部にかけて広がるこのまちは、多くの特色ある地域によって形作られている。自然の豊かな地域と都会的な景色のまちなか、商店の多い地区と長閑な田畑が広がるまち。高崎のまちには様々な暮らし方があり、とてもカラフルなことが魅力的だ。そして、どこの地域にも共通しているのは――このまちを愛する、元気で豊かに暮らす高崎市民がいるということである。

「いらっしゃい!」とカウンターから出迎えてくれるのが、板前の牧野さんです……おや?後ろの棚あるのは……

和み処 まきの

今回訪れたのは、高崎市並榎町。ハナミズキ通りを中心に南北に伸びたこの地域は、保育施設や小・中学校が多く、静かな住宅地として人気を集めている。取材に協力してくれたのは、長野堰サイクリングロードに面した飲食店『和み処 まきの』。昼夜の営業をお父さんと共に営む板前・牧野直哉(まきのなおや)さんがインタビューに答えてくれた。

2002年にお店をオープンしてから17年。住宅地ながら多くのファンを持つ『和み処 まきの』の客層は、おひとり様から家族連れまで幅広い。市外から来店するお客様も多く、気さくに話しかけてくれる牧野さん目当てに通う常連さんもいるようだ。「お客さんからは“料理屋”って言われるんですよ」と話す牧野さん、お店のコンセプトと地域で育む「3つの“わ”」について話を聞いてみた。

常連さんから「小料理屋、居酒屋、割烹……どの言葉のイメージにも当てはまらないから“料理屋”だね」と言われる『和み処 まきの』。はたしてどのようなお店なのでしょうか?にぎやかな店内の様子を想像しつつ、インタビューをお楽しみくださいませ!

三つの“わ”

まずは何といっても食レポから
編「まろやかなゴマと相性ばっちりのほうれん草、ほんのり塩味+ほっくり食感が嬉しいお豆、まだ寒い身体を生姜が温めて……じゅわっとした肉汁にテンションがあがる唐揚げ!最高!」

食の和

「食の和 人の輪 楽の話(らくのわ)」づくりをキャッチコピーとして、和風料理を提供する料理屋の『和み処 まきの』。昼夜の営業に加え、お弁当や行事料理などの注文も承っており、個人店ならではの柔軟さで多くの人々に愛されている。「生まれも育ちも並榎町」と話す牧野さんがつくる「食の和」とは何か。料理人を志したきっかけと『和み処 まきの』がつくる温かな食空間について伺ってみる。

「自分が“食”に興味を持ち始めたのは、小学生の頃。幼い頃に母が亡くなり、外食ばかりの暮らしをしていた時に『もっと美味しいものが食べたい』と思い始めたのがきっかけです。台所へ行って、料理をするようになって……といっても、親父に『火は使うな』と言われていたので“切る”“混ぜる”くらいでしたが、その経験から料理人を目指す様になりました」

「調理師の専門学校に通い、卒業後は『赤坂プリンスホテル』の厨房で働き始めました。よくある話ですけど……若い頃の修業は大変でしたね。当時の親方はひたすら厳しい人で、同期の半数は仕事を辞め、自分も体調を崩しました。それでも『途中で諦めたくない、限界までは頑張ろう』と自力で這い上がって続けた料理人の道。“パワハラ”ばかりの記憶です」

牧野さんが語る“職人の世界でよくある話”に共感する人も多いかもしれない。世間が“パワハラ”や“セクハラ”に向き合い始めたのはここ数年のこと、仕事場である厨房は「常に殺伐としていました」と牧野さんは振り返る。親方の指導の下、職人としての腕を磨いてきた牧野さん。数年後に地元並榎町に戻り、『和み処 まきの』の歩みをスタートさせることとなる。

「親方は厳しい人でしたが、『何をするにも手づくり』という教えは“自分の料理の基本”として今も大事にしています。新たな上司の元で出来合いの物を使うより、親方の教えを守って料理をしたいと、親方が厨房を離れるタイミングで群馬に戻ってきました。ちょうどその頃、親父が自宅の駐車場を改装してつくった店舗が1年目を迎えていて……『和み処 まきの』の板前として再スタートを切りました」

手づくりの食事と、店内の温かな雰囲気。『和み処 まきの』の厨房は明るく開かれ、牧野さんが料理する姿を見ながら食事を楽しむことができる。想いのこもった食事と、美味しいお酒と、楽しそうな料理人の姿――小さな少年の頃の想いから始まった料理人の道は、和やかな“食”の空間づくりへと続いていた。

ちなみに、牧野さんおすすめの一品を訊ねると「皆さんよく頼まれるのは、海鮮おこげですね」とのこと。プリプリの海鮮とプチプチのゴマを餡が美味しくまとめ上げた一品だそうで…お、おなかすいてきちゃったなぁ…

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人の輪

次に紹介したいのが『和み処 まきの』一番の魅力、「人の輪」づくりについて。和食の職人である牧野さんがつくり上げるのは、美味しい料理だけではない。お客さんが「びっくり」するほどの、『和み処 まきの』が繋ぎ広げる“輪”について紹介しよう。

「店の特徴、というんでしょうか……お客さん同士が皆、仲良くなるんですよ。1人で来た人も、初めて来た人も関係なくおしゃべりしたり、食事を楽しんだり。東京から来たお客さんには『びっくりした』って言われましたね。『隣の人と、こんなに話す店はみたことがない』って。確かに、東京では1人で呑みに行くことも、お客さん同士の交流があることも少ないですよね。うちは、お客さん同士の会話に、時々自分も混ざりながら、気楽に楽しめるお店を目指してやっています」

「高崎ならでは、なんですかね」と話す牧野さん。『和み処 まきの』は――靴を脱いで上がる店内や、BGMとして流れるジャズやクラシックの調べ、壁に飾られた「高崎のまち」を描いた水彩画や、ぎっしりとホワイトボードに書かれた旬の料理、牧野さんと常連さんのトークなど――様々な要素が合わさって、“外食に来ている”ことを忘れてしまいそうなほどに心をリラックスさせてくれる。屋号としてつけられた「和み処」に、納得すること間違いなしだ。

「かしこまらない雰囲気づくりを心掛けているので、お客さんとの距離は違いですね。『こういう料理が食べたいんだけど』と気軽に話かけてもらって、こっちも『頑張ってつくるから、ちょっとまってね』と答えたり」

「とにかくね、気楽に色んな人に来て欲しいと思って営業しています。一昨年からは『毎週木曜日に来た学生は安く飲むことができる』企画を立ち上げました。『美味しんぼ』を真似て『学生美食倶楽部』と名付け、普段学生が食べないような食事をするチャンスとしてほしいなと考えたんです。会員カードには『お酒は節度をもって楽しむように!』とか『一気飲みなどしない!』とか……あえて“ちょっと上から目線”で注意事項を書いたりして。若い人にとってもいい経験になって、(50代が多い)常連も嬉しい企画になれば嬉しいです」

牧野さん発案の『学生美食倶楽部』会員の学生は、食事と飲み物で1500円、追加のドリンクも2杯まで500円でオーダーすることができる。「学生が来ない店だったので、1人でも増えてくれれば」と想いを語る牧野さん、お店の中で「食の和(輪)」も「人の輪」も広げて欲しいという。

「最初に話したように、うちはお客さん同士でおしゃべりすることの多い店ですから。コミュニケーションを取るのが苦手な学生さんにも、どんどん来て欲しいですね」

上から目線の注意事項は、牧野さんなりの愛情のしるし。今までとちょっと違ったお店・食事・人との交流が、成長につながってゆくんですね

また、牧野さんと常連さんの“漫才”のようなトークもお楽しみに!「なんだこのやろー」と笑いが絶えない空間ですよ♪

並榎町の和み処

和食を中心に用意されたメニューはこちら(お造りは日替わりで別ホワイトボードに書いてあります) どれもこれも美味しいんです

楽の和

「食の和」そして「人の輪」について話をしてくれた牧野さん。最後に「楽の話(らくのわ)」について想いを聞かせてくれた。

「『楽の話(らくのわ)』というのは、楽しい話だったり、気楽に話すことだったり。語呂合わせですけど“お店を楽しんで欲しい”という想いを込めました。ホテルの厨房にいた頃は料理だけを見てきましたが、個人店は調理、経営、接客の全てを見なければいけません。大変で、楽しい部分ですね。『お客さんにお店を楽しんでもらいながら、自分自身も仕事を楽しみたい』と思っています」

「だから、自分がお客さんと話すときにはプライベートな部分にもズケズケと入っちゃうんですよ――せっかく出会えた人だから、凄く仲良くなりたいと思ってね。ただ食事をして帰るんじゃ、お客さんも自分もつまらない。色々話すのが苦手という方もいるでしょうけど“一期一会”の出会いを大事にしたいんです」

寡黙な職人像とは違う、「楽しく、気楽に話をしながら、美味しい食事を提供していく」牧野さん流の仕事スタイル。彼のついつい笑顔になるような話しぶりは、常連さんの目当ての1つとなっているのだろう。並榎町に暮らしながら17年、住宅地の中で幅広いお客さんを集める『和み処 まきの』を支える力は「楽しむ力」なのだ。皆で楽しく、肩の力を抜きながら――お客さんに寄り添った牧野さんの想いが、伝わってくる。

「並榎町は静かで住みやすいまちで、学校も多いからお子さんがいる家庭も多いんです。だから……というのもありますが、日曜日の夕方は家族でご飯を食べに来るお客さんが多いんですよね。店内がうるさいので良いのか悪いのかわかりませんが、この間は生後2か月の子供や1歳になったばかりの子供が来てくれました。誰でも気楽に来て欲しい、安心してご飯を食べて欲しいと思う分、すごく嬉しいお客さんですね」

その他、誕生日やお食い初め、還暦のお祝い、法事弁当など“気楽に”声をかけてくれるお客さんのことを話してくれた牧野さん。彼が「楽の話」に込めた想いは、お客さんの心へしっかりと届いているようだ。

「お客さんがうちを紹介するとき、“料理屋”と言ってくださるんです。小料理屋でも、割烹料理屋でも、居酒屋でもない個人店だって」

かけがえのない場所、安心できる場所がここにある――そんなお客さんの想いを、感じた。

『和み処 まきの』の側は学校と住宅地ばかり!まさに“隠れ家”という雰囲気のお店です。夜寝静まる住宅地のなかで、明るくおしゃべりの絶えないお店……牧野さんの人柄がつくる魅力を感じます

「ちょっとだけご飯がほしい、って言われるから~」と牧野さん 家族連れも多いお店のため、常にご飯は炊いているそう
ついつい白米がほしくなる「煮つけ」や「焼き物」をご注文の際は「ちょっとだけ……」とお願いするのもOKです

 地域に広まる“わ”

今後も、地元である並榎町にて“和み処”をつくっていくと話す牧野さん。お店以外の取り組みと、地元に対して想うことについて話を伺ってみた。『和み処 まきの』の店づくりに学ぶ、元気な地元のつくり方。ぜひとも参考にしてみて欲しい。

「余裕ができればね、まちのために頑張りたいなと思っていて。去年は地域の学校のPTAの方に声をかけていただいて、小学生の親向けに料理教室を開催しました。1人1匹ずつ鯛を捌きながら、煮つけや刺身・揚げ物・鯛めしなんかをつくって食べて。普段魚を捌く機会は少ないと思いますが、料理教室がきっかけとなって親子でコミュニケーションをとれればいいですよね。地域貢献になったのかな、と思っています」

「これからのまちに思うことは、まちなかや駅前といった特定の地域だけでなくて、色んな地域が一緒になって盛り上がっていければいいなということですかね。中心部も郊外も、高崎市も前橋市も一緒に動いていくことが大事かなと。その為には、並榎町のような小さなまちにも地区の行事やお祭りができたらいいなと思っています。子供がいっぱい住んでいるまちですから『きっと盛り上がるよね』と地域のお客さんと話したりしていますよ」

小さなまちの、小さな繋がりがつくる活気。1つ1つが繋がりあって“わ”をつくりながら、高崎のまちが、群馬県が、日本全体が盛り上がっていくのだろう。大切なことは『和み処 まきの』が教えてくれる「3つの“わ”」。すぐ隣の人と楽しむことから、このまちは元気になっていくはずだ。

和み処 まきの

住所:群馬県高崎市並榎町117-10
電話:027-327-3643
営業時間:昼営業は11時半~14時、夜営業は17時半~23時(火曜日定休)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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