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高崎市中尾町 地域と人を“美味しさ”がつなぐ カツサンド職人の暮らし方

今回取材に訪れたのは、高崎市中尾町。『かつサンド工房PANTON』代表の小澤さんにインタビューをさせていただいた。約20年間、「かつサンド」づくりと向き合ってきた小澤さん。この街でつくる “ごちそうの味” の秘訣と地域と人を美味しさがつなぐストーリーを聞いてみた。

2020.03.04

人をつなぐ街づくり

美味しそうな匂いに連れられて、中尾町のオシャレなお店へとやってきました  予約必至の飲食店、その“美味しさ”に迫っていきたいと思います!

高崎市と暮らしやすさ

これまで多くの高崎に関わる魅力的な人々に登場していただいた、『高崎で暮らす』。高崎の街を「生活の場所」「仕事の場所」「遊びの場所」「思い出の場所」として、1人1人の“まちとの付き合い方”を紹介してきた。

インタビューに答えてくれた彼らに共通しているのは、真剣な眼差しと熱い思い。“高崎で暮らす”ことを楽しむ彼らの言葉は、“あなただけの高崎”を見つけるガイドやこれからの地域との付き合い方のヒントになるだろう。

 

可愛い外観の『かつサンド工房PANTON』 取材中には若いカップルや常連のおじいちゃんなど、様々なお客様の笑顔が見られました!

『かつサンド工房PANTON』

今回取材に訪れたのは、高崎市中尾町。井野駅から近い住宅地の中にある、グルメな高崎市民・県外のファンが足繫く通う“かつサンド屋さん”へとやってきた。まばゆい白の外装とコバルトブルーのテント。『かつサンド工房PANTON』代表の小澤貴(おざわたかし)さんにインタビューをさせていただいた。

約20年間、「かつサンド」づくりと向き合ってきた小澤さん。この街でつくる “ごちそうの味” の秘訣は、地域を超えて愛される職人の技によって支えられている。地域と人を美味しさがつなぐ――そんな心温まるこの街のストーリーをご紹介しよう。

今回インタビューさせていただく小澤さんは、現在のお住まいが県外の“高崎人”。働く場所、地域の方との触れ合いの場所として、仕事にかける想いをご紹介していただきました!

この街のかつサンド

かつサンド職人の小澤さん 今回は自慢の味について、そのヒミツを大公開していただきました!

旅のごちそうづくり

小澤さんと「かつサンド」の始まりは2001年。和食の職人として働いていた彼が、とあるサービスエリアのイベントで かつサンド を提供したことからスタートしている。「テイクアウトして美味しいものと言えば、『かつサンド』だと思いまして」と話す小澤さん。『かつサンド工房PANTON』誕生までの道のりを聞いてみた。

「料理(和食)を始めたのは、16歳の時。特にやりたいこともなかった僕に、京都で飲食店をやっている親戚が声をかけてくれて働き始めました。4年半京都で修業した後、実家の居酒屋を手伝って厨房へ。『サービスエリアの飲食イベントへ出てみないか』とお話をいただいたのは、そんな時だったと思います」

「初めはイベントの時に外テントで販売していたのですが、お店のリニューアルを機に(店内の飲食)ブースへ。かつサンド一本で15年間、営業していました。路面店と違って、繁忙期は物凄く忙しく……クリスマスやGWには、“24時間かつサンドを作っている状態”だったこともあります」

1日に1500個販売したこともあるという、サービスエリア時代の思い出。旅の途中に立ち寄る様々な人たちの“ごちそう”を作るべく奮闘していた彼は、次第に“職人としてのこだわり・自身の働き方”について葛藤を抱くようになったという。両立する方法を模索した先に見つけたのは、“独立”の道。より気持ちのこもった商品提供の方法・健康的な働き方を考えてのことだった。

「お客様が喜ぶ仕事、認めていただける仕事をするのは、今も昔も変わりません。ただ、店舗をもってゆっくり働ける環境に移ることで、やりたかったこと――より手間のかかる“かつの二度揚げ”や“パンのカット”などにこだわれるようになりました。2015年に『かつサンド工房PANTON』をオープンして、今年で5年目。かつサンドを子供の頃から食べに来てくれていたお客様も、今では自分で車を運転して買いに来てくれるほどになりました。これからも変わらず、自分の『かつサンド』の味がブレないよう作っていきたいと思います」

 

 

こちらがPANTON自慢のかつサンド。薄桃色のお肉の柔らかさ&ジューシーさといったら……(筆舌に尽くしがたい、とはこのこと)

かつサンドへのこだわり

現在は予約注文・テイクアウトを中心に営業している『かつサンド工房PANTON』。年齢・性別・地域を問わずファンの多い味に、法人からの注文も増えてきているという。「かつサンドは和食です」と語る職人の一品、こだわっているポイントについて聞いてみた。

「うちの一番人気は『特選ヒレかつサンド』。お肉、パン、ソースは“ふと食べたくなる”ことをコンセプトに、バランスよく選んでいます。例えば、お肉は大麦三元豚という臭みの少ない豚肉を使います。PANTON専用に脂身を落とした中心部分だけを仕入れて、熟成させてから調理しているんです。“高級なお肉がいい”というわけではなく、“パンとソースに負けない、旨味と厚みがあるお肉”を探した結果ですね。一番 かつサンド に合うと思ったお肉を選びました」

「他にも、パンは長時間低温発酵させて作られている“さっぱりした味”のパンを選んでいます。今流行っている食パンは甘い味が多いですが……僕はご飯が好きなので、“ご飯とトンカツ”のイメージでサンドイッチ用のパンを決めました。ソースは特別栽培野菜使用のとんかつソースをベースにした、自家製のブレンドソース。これはサービスエリア時代から試行錯誤を続けていて、一番悩んだところかもしれません」

食材へのこだわりを語ってくれた小澤さん。ファンの心をつかんで離さない『かつサンド』、その秘訣は“厳選された食材”か――と、納得してしまいそうになる。しかしながら、職人の“こだわり紹介”は、まだ序の口。「実は……こだわっている点は食材ではなくて」と明かす、『かつサンド工房PANTON』オリジナルの“こだわり”についてもお話いただいた。

「かつサンドをつくって、20年。ずっと同じものを作る中で気付いたことは、食材が一緒でも“手間”をかければ味が大きく変わるということです。肉を手切りしたり、パンを1本で仕入れ(て使う直前でカットし)たり、ソースのつけ方を変えたり……“こだわり”を惜しまないことが、今のお店の味を作っています」

「お客様も気が付きますよ。よく来られる方なんかには、『ちょっと揚げすぎよ』『今日のソースは良かったわ!』なんて言われます。自分には忙しさを言い訳にしても、お客様には(味で)伝わっちゃうんですね。お店を始めてまだ4年。未だに『かつサンド』をつくる時は緊張します」

手間をかけ、愛情をこめて作る かつサンド は、注文から完成まで20分程度。シンプルながら手間のかかった調理風景は、熟練された職人の動きを間近で見るチャンスとも言える。無駄な時間は1秒もない、職人の作る一品。完成するまでの時間も、ワクワクしながら待っていたい。

「かつサンド専門店、立ち上げには勇気がいりませんでしたか…?」という質問に、「僕と奥さんはあんまり悩まなかったんですけど、周りの人には結構心配されましたね」と小澤さん。来店するお客さんも、メニューを見て驚くことがあるそうです

それでも1度食べたら忘れられない『かつサンド工房PANTON』の味。“ブレない美味しさ”には、小澤さんのこだわりがたくさん詰まっているんですね!

美味しさが“つなぐ”もの

小澤さんファミリー揃って、記念撮影! PANTONの味や店舗の雰囲気の“隠し味”は家族愛かもしれません…!!

家族団らんの風景をつくる

先ほど紹介していただいた、小澤さんの『かつサンド』に対するこだわり。情熱の源について尋ねると「お子さんやご年配の方が美味しく食べられる『かつサンド』を表現したくて」とお答えいただいた。小さな子供が大人になっても食べたいと思う魅惑の味、その美味しさのカギを握る考え方をご紹介しよう。

「『かつサンド』というと『ガッツリ系!』をイメージする方が多いかと思いますが、うちはできるだけ優しい味・体に負担のかからない料理を目指しています。というのも、うちのお客さんには年配の方・小さなお子さん連れの方が多いんですよ。『特選ヒレかつサンド』を召し上がられた年配のお客さんが『入れ歯を外しても食べられるわ』と言ってくださったり、『子供が好きで、よく食べるのよ』とご家族からお話を聞いたりするのは嬉しいですね。どんな人でもパクパク食べきれるよう、お肉の柔らかさやソースの味を調整しています」

「特に子供は、正直ですから」と笑う小澤さん。料理人として心がけていることは、子供の目線に合わせた美味しさづくりだという。大人以上に繊細な味覚・はっきりした好き嫌いを伝えてくる子供の心を掴むことは、どの分野の料理人にとっても難しいに違いない。家族全員が揃って「美味しい」と笑顔になれる料理――『かつサンド工房PANTON』が目指しているのは、そんな風景をつくる「かつサンド」なのかもしれない。

「誰でも美味しく食べられる かつサンド を作るために、1番大事にしていることは“バランス”をとることです。かつサンド って、とんかつ屋さんが作れば“かつ”が、パン屋さんだと“パン”が際立って美味しくなりますよね。それをお肉・パン・ソースを合わせた1つの料理にしていく。パン粉のつけ方を教えてくれたとんかつ屋さん、お肉の扱い方を教えてくれたフレンチの料理人さん、自分が修行してきた和食の技術……色んなヒントを繋げて“バランス”をとることが美味しさを生み出す、自分の仕事だと思うんです」

 

 

最後に紹介したい写真は……「ここ!この瞬間こそが!職人技!」というカツサンドのカットシーン
パンをつぶさず、ソースもキャベツもはみ出さず、溶けるように沈む包丁さばきには感動です

地域で育つ、地域を育てる

最後に伺ってみたいのは、今後のビジョンについて。地域に愛される名店『かつサンド工房PANTON』は高崎の街にどのような夢を与えてくれるのだろうか。お店の展望と合わせて、地域との関わりを大事にする小澤さんの想いをお聞きしてみた。

「今後考えていきたいのは『この場所で、お店の中で規模を大きくしていくこと』について。多店舗展開やフランチャイズという形ではなく、中尾町のPANTONとしてより多くのお客様に かつサンド を提供していければと思っています。実際、餃子で有名な宇都宮の有名店は支店を1つも持たずに“本店の増築”や“近隣地域へ工場を作る”ことで規模を拡大したところがあるそうですね。調理経験者でも作るのが難しい、“こだわり”を詰めたPANTONのかつサンド……たとえ100個作っても味がブレないような仕組みを考えて、お店を続けていきたいと思います」

「路面店は“お客様に、わざわざ立ち寄っていただく場所”です。作りたてや出来立てが美味しいのは当たり前なので、PANTONのかつサンドは『テイクアウトしても美味しいね』と思ってもらえるよう技を磨いていきたいと思います。(目指す先は)おこがましいですが、“中尾町のランドマーク”になれるように、と。頑張りたいですね」

この街だけの味、この街だけの良さ――すでに多くのファンが、“PANTONの味”を目的地に訪れる今。美味しい「かつサンド」が“地域と人”をつなぎ合わせてくれる未来は、決して遠くないと感じる。人口減少の時代に合わせた、新しいお店の成長戦略。「年々増えている法人の注文数にも対応したい」と新しいスタイルへ挑戦する小澤さんの活躍には、今後も注目していきたい。

高崎市中尾町、ここには地域と人を“美味しさ”がつなぐストーリーがあった。自らが作る「かつサンド」の美味しさに妥協しない職人の姿――その言葉が、あなたの心に新たな火をともすことを願っている。

 

かつサンド工房 PANTON

住所:〒370-0001 群馬県高崎市中尾町699
電話:027-370-1230
営業時間・日時:OPEN 9:00〜売切れ次第終了 毎週水曜日・第三木曜日(不定休有り、HPのカレンダーをご確認ください)

*現在は小澤さんお一人で営業中とのこと。「事前予約注文」をしてからご来店されるとスムーズです!

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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