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高崎市旭町 “人の力”で繋いできた名店に聞く、100周年の区切りと始まり

“人の力”で繋いできた高崎の名店、高崎市旭町のそば処『きのえね』。4代目店主の岡田さんにお話を伺った。彼女が店と共に地域の中で託されてきたもの、そして『きのえね』の終わりから始まっていくものとは何か。名店の未来から、私たちの地域・暮らしの在り方をイメージしてみよう。

2020.11.27

高崎市の街と人

老舗らしい暖簾の紺が街の風景に溶け込む『きのえね』の写真 趣ある店内でインタビューさせていただきました(写真提供:岡田さん)

街を支える“人の力”

多角的な街づくりを行う高崎市。近年この街では「緑あふれる山々の景色」や「人情味ある風景」を保ちながらも、利便性良く/心地良く暮らせる街づくりが進められている。古いものと新しいもの、人工的なものと天然のもの―― 一見“対角”に存在していると思われる価値観を結ぶのは人の力だ。

市民と行政、共に「高崎で暮らす」人々が力を合わせ、街の魅力を作りだしている。

 

インタビューを受けてくれた岡田さん(写真左)とご家族 笑顔が素敵な美女ばかりですね…!!(写真提供:岡田さん)

『きのえね』

“人の力”で繋いできた高崎の名店、高崎市旭町のそば・うどん屋『きのえね』。高崎市の運営するWEBサイト『絶メシ』でも取り上げられた老舗飲食店で、4代目店主の岡田恵子(おかだけいこ)さんにお話を伺った。

歴史ある店舗は現在創業して96年、岡田さんは4年後の100周年で「店を閉じる」と決めたそう。彼女が店と共に地域の中で託されてきたもの、そして『きのえね』の終わりから始まっていくものについて聞いてみる。

地域の飲食店、それはこの街に訪れた人が最初に触れる“街の顔”である。名店『きのえね』の未来の話から、これからの地域・暮らしの在り方をイメージしていこう。

ご存知の方も多い「きのえね」にて、麺を啜りつつインタビューさせていただきます!

小麦の産地・高崎市らしい魅力発見の記事をお楽しみください(ずずずっ)

繋ぐ想い

こちらが嘉多町にあった料理屋『阿ら玉』の写真。「きのえね」の歴史に関わる、重要な1枚です(写真提供:岡田さん)

きのえねの始まり

創業は大正13年、甲子の年。旭町のそば・うどん屋『きのえね』の歴史はそんな語り出しから始まっていく。甲子園球場と同じ年に創業し、業態や屋号を時代に合わせて変化させつつ令和の現在へと続く店。まずはお店の紹介をしていただくとしよう。

「そば処『きのえね』の歴史は、嘉多町にあった料理屋『阿ら玉』から始まっています。お店が連雀町に移り、1階が食堂・2階がお座敷となった和食から洋食まで様々な料理を出すお店へ。その後旭町へ“そば・うどん部門”が支店として出店し、本店が無くなったことで、今のそば処『きのえね』として残っております」

「父から店を受け継ぎ、私で4代目。母と妹の“女3人”で力を合わせて店を切り盛りしてきました。区画整理でお店を建て直したり、漢字だった屋号(『甲子』)を平仮名に改名したりと変化も多くありましたが、味は昔からの伝統を守っています。地元食材を使った月替わりの『季節のおそば』や高崎産小麦『きぬの波』100%の『高崎うどん』がおすすめ商品ですよ。個人店ならではの柔軟さで、お客様の要望になるべく応える接客をしています」

「子供用に汁をぬるくしてほしい」「量を減らして、味を薄くしてほしい」と様々なリクエストへ臨機応変に対応するという岡田さん。老舗だからといった気負いもなく、「せっかく食べるなら、好みに合わせて美味しく食べて欲しいですから」とおもてなしの心意気で出迎えてくれる。

約一世紀の歴史を持つ名店『きのえね』、味を守り店を続けるコツは彼女のように“変化を受け入れるしなやかさ”なのかもしれない。

 

 

平日・休日問わず多くのお客様が訪れる店内 岡田さんの見事な接客にも注目です!!(写真提供:岡田さん)

暖簾を下ろす

100周年というめでたい区切りは『きのえね』にとって“終わりと始まり”を意味する。「2024年で暖簾を下ろします」と語られる『きのえね』の今後について、岡田さんの想いを伺った。

「“そば・うどん部門”としての『きのえね』は、創業100年で暖簾を下ろすと決めています。やっぱり家族経営でやってきた中で、父が亡くなり母も介護状態となり……私と妹だけでは限界を感じているというのが理由の1つです。そば屋に限らずですが、仕込みで18リットルもある醤油を持ち上げたり、大きなそば釜を毎日掃除したり。結構、体力が必要なんですよね。『私か妹が倒れたら店を開けられない』と不安に思うよりも、元気なうちに潔く区切りをつけたいと思うんです」

1人欠ければ成り立たない――それは多くの個人店が抱える不安の1つだ。歴史あるお店であっても、新たにスタートしたお店でも変わらない。日々変化する“現場”があるからこそ、日々変化できる“人の力”が何よりの支えとなる。

「父の代でも『暖簾を下ろそうか』というタイミングはあったんですが、母と私・妹でお店を続けると決め、今までやってきました。3代目を務めていた父は、元々映写技師をしていたお婿さん――そんな父の代で暖簾を下ろしたら、あの世でご先祖様に対して『肩身が狭い思い』をするんじゃないかと思いましてね。親思いの娘でしょ?(笑)」

「炭火に鉄鍋を乗せてすき焼きを出していた時代から、そば・うどんを提供するようになった今まで、“時代の流れに合わせて変化すること”が『きのえね』の歴史だと思っています。100周年で閉めることも、(今までと同じで)在り方が変わるだけ。周りの状況や環境で店をたたむことを選ばざるを得ない人も少なくない中だからこそ、残り4年と限られた期間の中で一生懸命勤めようと頑張っています。もちろん、閉めることの準備をしながら……ぼんやりと“その先”についても考えていきたいですね。私も妹もこの街、この場所が好きなので。地域のために、何か皆さんへ還元できる仕事をしたいと思っています」

岡田さんの考える“4年後”、私たちも一緒に考えてみたいですね!

月日と共に、必ず街も変わるからこそ…変化することに前向きになりたいと思う編集長です

高崎を楽しむ

『チームハナハナストリート』商店街の会長も務めている岡田さん お店に限らず町全体の魅力を教えていただきました~

魅力の伝え方

この街、この場所が好きだから――そんな想いと共に、未来を語ってくれた岡田さん。商店街の会長として、老舗店主として、一市民として、地元の魅力発信を行っているという。続いて伺ったのは、地元高崎の良さについて。「食」をキーワードに、話を聞いてみた。

「高崎の街が大好きな市民の1人として、なるべく高崎の良いところを知ってもらえるよう発信・行動をしています。余計なおせっかいかもしれないけど、お客さんが観光地のお土産を持っていたら話かけてみたり、おすすめのお店やスポットを教えたり。時にはお客さんから高崎の話を聞いたりして、情報交換をしています。観光客だけでなく、新しく引っ越してきた方にも病院やオススメのお店のことを聞かれたりしますよ。私が話をすることで、高崎の良いところを印象付けられればいいなと思っています」

インタビューでも披露してくれた明朗快活な彼女のトークは、それがお目当てという常連さんも多いはず。高崎の様々な情報を楽しくわかりやすく教えてくれる。

「せっかく食に携わる仕事をしているので、街の良いところを食から伝えられればということも考えています。高崎は『海の魚以外はなんでもある!』と言えるほど、四季折々オールマイティに良い食材があって、美味しさ・価格・安心安全のすべての面で充実しています。逆に、“秀でた物が1つだけ”ではないから、外から来た人にはわかりにくく思えるかもしれませんね。発信の仕方にはまだまだ課題があるかなと思っています」

「『きのえね』では高崎の地粉『きぬの波』を使ったうどんが、小さな子供たちに人気です。そばに比べると味わいがないと言われるうどんですが、繊細な子供の舌には伝わるんでしょうか、『いつも一人前のうどんを食べない子供が、全部食べちゃいました』と言ってくださる方も多いですよ。また伝え方というところでは、当店では高崎の名産品・梅干しを天ぷらにしてお出ししています。酸味がまろやかになって美味しいと評判です。多すぎるほどある美味しい食材を、様々な調理法で伝えていく……それは日々来られるお勤めの方にも、立ち寄っていただいた観光客の方にも高崎を楽しんでもらうきっかけになるんじゃないかと思います」

豊かな食の恵み、それはこの街で暮らす私たちでさえ知らない可能性を持っている。食材の美味しさ、調理法の幅広さ、産地直送のありがたさ……より深く魅力を探していく中で、この街の魅力をさらに発信していく方法を考えてみたい。

 

 

編集長が食べて感動した『うめ~豚うどん』 口当たり滑らかな麺も絶品ですが、「梅天ぷら」の衝撃はぜひ……実際に食べて感じてくださいませ

いい塩梅の暮らし

最後にお聞きしたのは、街中にある“暮らしの良さ”について。「商いの場」だけでなく「暮らしの場」も街中という岡田さん。彼女の心を掴んで離さない“街中暮らし”の魅力を教えていただいた。

「生まれた頃は『高崎倉庫』だった赤レンガも、今は『高崎高島屋』になって……駅周辺、街中は大きく変わりましたね。その中で思うのは『“街中で暮らす”ことは、やめられないほど便利で快適!』ということ。交通の便もよく、買い物も市役所も歩いて行ける距離にあって、高崎城址のお堀や高崎公園といった自然環境も近い。高崎公園から烏川を渡る桜観音橋も整備されたことで、気軽に烏川緑地の遊歩道や親水公園も利用することができますよ。コンパクトに様々な場所を楽しめる――街中のもっとも良いところだと感じています」

「それから、高崎は“映画の街”“音楽のある街”と形容詞が色々ありますが、芸術劇場や美術館など文化・芸術に触れる場所も充実していますね。『新幹線の出発まであと2時間あって……』というお客さんには、街中から歩いて行ける文化施設を紹介したりしています。商店街会長としては、路上ライブを支援する『高崎おとまちプロジェクト』に協力していますね。“音楽のある街”らしく、日常の中に音楽がある街づくり・音楽のある街を支える人づくりを目指しています」

活動について話す中で、岡田さんは街中を“車のエンジン”に例えてくれた。高崎市の顔として、一番動きがある地域だという矜持・責任。暮らしと文化の発信地だからこそ抱く想いがあるという。

「今はコロナで色々大変な状況ですけど、“街中が沈んでいたら、街全体が沈んじゃう”って気持ちで空元気でも出していかなきゃと思うんです。高崎が地元だという人も、ぜひ街中に来てみてください。意外と地元にいるから見えないこと・知らないことがありますよ。私も外から来る人に教えてもらうことが多いです、高崎をもっと知って・楽しんで欲しいと思います」

「なんでも“いい塩梅”の街だからこそ、食も暮らしも文化も選択肢がたくさんありますよね。その中で自分の琴線に触れる良いものを探してほしい、と考えています。私はその“素晴らしいもの”に出会うお手伝いができればいいかな。食の魅力をまとめて発信したり、街中のイベントを融合させてみたり……そんな、魅せ方・伝え方を考えていきたいです。新しい生活様式にもなるし、ちょうど考え時じゃないかなと感じます」

岡田さんの言葉から感じるのは“街中と暮らし”の調和だ。多くの自治体において“地域活性化”のウィークポイントとなる「街のPRと実際の暮らしにある距離」がない、自然体の言葉。飾らず、ありのままに魅力を伝える彼女の行動・発信は、これからの街づくりにとっても大きなヒントを与えてくれる。これから先の岡田さん、そして『きのえね』の未来にワクワクする。

まだまだ私たちの知らない「高崎」という街。あなたの地域にも、まだ知られていないディープな魅力が隠されているかもしれない。様々な角度で、様々な伝え方で。「高崎で暮らす」ことを、楽しむとしよう。

『きのえね』

住所:〒370-0052 群馬県高崎市旭町37
電話:027-322-5806
営業時間:平日11:30~15:00 土・日・祝日11:30~16:00(定休日 水曜日・木曜日)

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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