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高崎市芝塚町 時代に合わせた”生け花”の魅力、高崎の自然と暮らし方

高崎市芝塚町の『いけばな松風』にて、現在副家元を務める塚越応駿さんにインタビュー。“暮らしの花”として人と時代に寄り添う生け花は、どんなメッセージを伝えてくれるのか。自然豊かな「高崎の暮らし」の美しさに注目してみよう。

2021.06.11

暮らしと自然

芯黒のガーベラが印象的な生け花の作品 花が生み出す空間・時間の魅力に迫ります(写真:塚越さん提供)

高崎市と草花

草木と花と共に暮らす街、高崎市。通勤通学で目にする街路樹や野草、窓の外にいつもと変わらずそびえる山々の姿は長引く自粛生活の中に癒しを与えてくれている。

四季の自然が楽しめるローカルなまちの風景は「暮らしの場」が見直されている今、改めて価値あるものだと言えるだろう。高崎市の暮らしが持つ“便利で快適な都市の魅力”と“自然と地域の繋がりを感じる地方の魅力”。

両者のバランスを取りながら、より住みよい街づくりを考えてみたい。

 

某俳優似なイケメン副家元に突撃インタビュー! 背景の棚にはたくさんの花器が見えますが、教室ではこちらから器を選んで花を生けるそうですよ

『いけばな松風』

高崎市芝塚町で今年100周年を迎えた生け花の流派『いけばな松風(しょうふう)』。現在副家元を務める4代目・塚越応駿(つかごしおうしゅん)さんへ、「生け花」と「暮らし」をテーマにインタビューさせていただいた。

教室での生け花指導や店舗・舞台・会場装飾、生け花のライブパフォーマンスなど、幅広く花の魅力を発信する塚越さん。“暮らしの花”として花をいけ、伝えてきた流派の歴史と活動を振り返りながら、自然豊かな「高崎の暮らし」の美しさについて教えていただこう。

 

副家元の美しすぎる作品と共にお送りするインタビュー!

生け花が作る空間の魅力、画面越しにお楽しみくださいね✿

花と歩む

初代家元・塚越応璟(おうけい)先生の像 胸に光るのは瑞宝双光章(勲五等瑞宝章)の勲章です

暮らしの花を求めて

1921年に創流し、今年で100周年を迎えた『いけばな松風』。高崎市と新宿区を本部として各地で活動を行う当流派は、“暮らしの花”として人と時代に寄り添う生け花を主体として伝えている。まずは塚越さんより『いけばな松風』の歴史と特徴についてご紹介いただいた。

「私の曾祖母である初代家元・塚越応璟(おうけい)は、女子美術学校(現女子美術大学)を卒業した日本画家でした。生け花と出会ったのは、農林水産系の仕事をしていた夫に付いて秋田を訪れた時。当時は写真が一般に出回っていない大正時代ですから、絵が得意だった彼女は家元の作品をデッサンする担当となり、模写を通じて生け花の技術を習得したそうです」

門下生の中でもいち早く家元の技術を習得したという応璟は、弱冠27歳にして独立。夫と共に赴任地を移動する中で現在の当流の基となる『松風流』を立ち上げ、各地に支部を作り門弟を養成したという。流派の特徴は、伸びやかな線と余情ある花の佇まいが美しい日本画の特性を活かしたスタイル。「線の美しさと色彩を重要視する絵画的な作品の構成は、今までにない新しいスタイルでした」と塚越さんは説明する。

「(『いけばな松風』の作品は)皆さんが想像する生け花よりもモダンな雰囲気が特徴で、ガラスの器や洋花を多用した“飾る場所を選ばない花”だと思います。創流当時『剣山』が発明されて新たな生け花の形である盛花ができたこと、住環境の変化によって床の間に限らず生け花が飾られるようになったことも大きな理由でしょうか。『常に時勢の進歩に伴うべし』という初代の教えを守り、その時代・その時の人に受け入れやすい“暮らしの花”を追求していきたいと思っています」

「お花も“座って見る”暮らしから、“立って見る”暮らしへ変化しています」と塚越さん

初代から続く技と想いを大切にしながら、花を通じて暮らしと向き合っているんですね……!

小さな花一輪から大きな作品まで様々な表情を魅せる花の世界 自然の奥深さとエネルギーを感じますね(写真:塚越さん提供)

不易流行の美しさ

副家元として生け花教室の指導や作品作りを行う塚越さんは、幼い頃から触れ・学んできた生け花だけでなく「フラワーアレンジメント」の世界でも活躍されていたという。文化的背景の異なる花生けの違いと魅力を教えていただきながら、花への熱い想いを語っていただこう。

「曾祖母が創流した生け花を祖父・父が継ぎ、私で4代目。『家が生け花をしていたから』と何気なく触れ始めた“花の世界”は魅力的で、自然と生け花の道へと進んでいきました。大学卒業後は家を継ごうと思っていましたが、(生け花しか知らない)今のままではあまりに世間知らずだと考え直し、親元を離れようと思いました。そこでまず、当時流行していた『フラワーアレンジメント』を学んでみようと決めたんです」

異文化の花あしらいを学ぶため、フラワーアレンジメントの本場・イギリスへ留学。はじめは生け花と異なる花の魅せ方や美的感覚の違いに戸惑ったものの、大きな収穫があったと振り返る。

「今まで知らなかったフラワーアレンジメントの生け方を学ぶにつれ、西洋的なお花の魅せ方もまた面白いなと思うようになりました。そこで帰国後は外資系ホテルの花屋さんへ就職。約7年間、フラワーアレンジメントを通じて結婚式やパーティーの会場装飾をする仕事に挑戦していました」

「フラワーアレンジメントは『インテリアとしての花』を作る技術――開花しきった綺麗な状態の花を使い、ボリュームを出して強く魅せる西洋的な美しさが求められます。対して生け花は『場や空間を作る花』を生けるもの――枝の葉を選定したり少ない本数の花で生けたりと、引き算の美学を持っています。あり方も魅せ方も対照的な花あしらいを学ぶことで、より一層生け花の魅力に気付くことができました。またフラワーアレンジメントで学んだ色彩の技術も、生け花の色の取り合わせを考える上でとても参考になっています」

 

未来を彩る花

ジャンルを超えたアーティストとのコラボレーション写真 「自然」と「文化」は世界中で変わらず愛され続けています(写真:塚越さん提供)

生け花を知る、生け花で知る

年齢・性別・国籍関係なく楽しめる花の魅力――塚越さんは自身の“花の世界”を開拓するとともに、「生け花の魅力を伝える方法」も様々に工夫されている。現在取り組まれている他ジャンルのアーティストとのコラボレーションやパフォーマンスについて、既存の枠に捉われない生け花の活動をお伝えしよう。

「本来生け花は“生けているところ”を見せないものですが、『花を好きになってほしい、生け花に興味や親しみを持ってほしい』という想いから、数年前よりライブパフォーマンスを行っています。即興の花いけを見ていただいたり、ミュージシャンや画家・書道家などの他ジャンルのアーティストの方とコラボレーションを行ったり。パフォーマンスとしての生け花を通じて、気軽に花を楽しんでいただければと考えています」

「また高崎では『高崎洞窟観音 徳明園』にて、他流派の先生と共に生け花を展示する企画を10年開催しております。もともと仏教とお花は関わりが深く、観音様とお花はよく合いますね。夏場でも花が生けられる洞窟の気温を活かした仏教と花が生み出す空間は、毎年多くの方にご来場頂き好評です。地域の場所・名所に合わせて花を生けることで、地域の魅力発信に繋がっていけばと思っています」

「また少し角度は変わりますが、地域の子供向けに“節句”をテーマにした生け花教室も行っています。雛祭りや子供の日に代表される“五節句”は、非常に植物との関わりが深い行事なんですよ。馴染みのない節句もあるかと思いますが、生け花を通じて歴史や文化を伝えるきっかけづくりをしていきたいです」

文化・地域・時代を問わない生け花の魅力は、様々なメッセージを伝えてくれますね!

○○×生け花……これからのコラボレーションにも期待です

インタビュー時に花を生けてくださった塚越さん 個々の草花が1つの作品へ変化する様子は、まさに「魔法」のようでした…!!

花が教える暮らしの魅力

最後に紹介したいのは、塚越さんが提案する「花のある暮らし」の魅力について。「花を生けることは、“自分自身と向き合うこと”」と語る副家元に、自然と寄り添う暮らしの魅力をお話いただいた。

「『花は人』という言葉がありますが、生け花は“自分を映す鏡”のようなもの。心が落ち着かない時に生けた花は落ち着かない作品に仕上がりますし、花を生けることで自分が見えてきます。私がこうした“花を生けることの魅力”を実感したのは、実はコロナ禍になってから。『自分のために花を生けてみよう』と思ったことをきっかけに、花のある暮らしの楽しさに改めて気が付きました」

「クライアントのイメージを形にする花」や「生徒のお手本となる花」といった、“誰かのために生ける花”へ注力していたと今までを顧みる塚越さん。自粛期間という孤独な時間が、かえって花と自分を向き合わせてくれたという。

「『こんなに大変な状況の中で、花を生けていいのだろうか』と苦悩や無力感を感じていましたが、『自分のために毎日花を生けてみよう』と決めて。去年の3月から毎日1作品、花を探すところから作品を作り続けています。花を生けて自分と向き合う中で、だんだんと心が穏やかになるのを実感しています。そして何より、今までで一番『お花を生けることが楽しい!』と感じています」

「昔は花嫁修業の一環だったお花も、最近は『気分転換として』『心をリセットしたくて』お花を生けている方が多いようです。お花は見て・触れるだけで元気をもらえますし、植物の命に触れる時間はとても集中したひと時を作れます。またお花を家に飾れば、自分の生活リズムとは違う存在に立ち止まるきっかけが生まれる……今、若い方を中心に生け花を習う人が増えているのは、そうした良さに共感してくれる人が増えているからだと思います。大変な時だからこそ、花を通じて日々の変化を楽しむような過ごし方を知ってほしいと思います」

庭先の花一輪を飾るところから楽しんでみませんか――そんな「花のある暮らし」を提案してくれた塚越さん。自然と暮らしの距離が近い高崎の街だからこそ、小さな命に目を向けることは暮らしの風景を一変させるきっかけになるかもしれない。

忙しない日々を豊かに彩る草花の魅力を気付かせてくれる、生け花の世界。自然の美しさで心を豊かに耕しながら、この街の美しい暮らしをより味わってみたいと思う。

 

『いけばな松風』

住所:群馬県高崎市芝塚町1890(芝塚交差点角)
電話:027-322-1314(本部事務局) 

※高崎本部教室は月3回(火曜日,水曜日)の開催です 体験教室も随時受付しております

※第9回洞窟観音いけばな展は 8月13日(金)~17日(火) 高崎洞窟観音徳明園にて開催予定です

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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