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前編)『社会に開かれた学び』をつくる 暮らしと繋がる”教育”の未来【NPO法人DNA×高崎北高校】

今回は『NPO法人DNA』の沼田さんと、『高崎北高校』の学校長・丸橋さんに、「民間/公共の学び」について話を伺った。
これからの教育が目指す『社会に開かれた学び』とはどういったものなのだろうか?高崎で暮らす全ての人が関わる”教育”について、共に考えてみるとしよう。

2019.06.03

高崎×教育

今まさに学校に通っているという人も、懐かしい想い出となった人も。 すべての人に届けたい、そんなインタビューが始まります。

まちを支える未来の力

「未来を担う力」を育てる活動、“教育”。家庭、そして学校を中心に語られることが多い話題だが、地方活性化やまちづくりの中でも重要なポイントである。高崎市では「高崎市教育ビジョン」を制定し、少子高齢化や国際化など変わりゆく時代に合わせた支援が必要だと考えている。子供も大人も暮らすこのまちが変わるとき、学びの場はどうなってゆくのだろうか。

今回は異なる所属のお二人――沼田さんと丸橋さんの対談風インタビュー。 普段なかなか話す機会がない"お互いの想い"について語っていただきました。

NPO法人DNA×高崎北高校

今回紹介するのは、『NPO法人Design Net-works Association(DNA)』を運営する沼田翔二朗(ぬまたしょうじろう)さんと、『群馬県立高崎北高等学校』の学校長・丸橋覚(まるばしさとる)さんだ。教育に熱い想いを抱く“同志”のお2人に、「民間/公共の学び」について話を伺った。

丸橋さんは「今、学校教育は『社会に開かれた学び』を目指しています」と話を始めてくれた。『社会に開かれた』という言葉が示す未来は、このまちで暮らす子供たちをどう育てていくのだろうか。また、社会人と学生を繋ぐ活動を行う沼田さんには「このまちで暮らすセンパイへのメッセージ」を頂いた。2人の対談から、学生、保護者、単身者、高齢者……すべての人が関われる学びのカタチについて、探究してみるとしよう。

教育の今

高崎市井出町、グラウンドの掛け声とブラスバンドの演奏が響く『群馬県立高崎北高等学校』にて沼田さんと丸橋さんのインタビューを行った。授業終わり、清掃に励む生徒や放課後の部活動へと急ぐ学生たち。彼らの未来に情熱を注ぐ2人に、このまちの/これからの教育の話をしていただいた。

『高崎で暮らす』では初の試みとなる“活動団体・活動領域の異なる2人”のインタビュー。まずはそれぞれの取り組みについて、聞いてみるとしよう。

それでは早速、インタビューをしていきたいと思います。

沼田さん、丸橋さん、よろしくお願いします。

はい。『NPO法人DNA』代表の沼田です。「子ども・若者と、社会をつなぐ」という考えの下、教育に関わるNPOを経営していて、学校教育と連携した事業――学校の先生でない立場から学生の学びに関わる活動をしています。県内の中・高等学校との連携は20校ほど。15年前には世の中になかった仕事をしています。

私は丸橋覚といいます。『群馬県立高崎北高等学校(以下、高北)』で校長をしています。

僕たちは、新たに改訂された『学習指導要領(学校の方向性を定めたもの)』において打ち出された『社会に開かれた教育課程』の実現に、ここ群馬で取り組もうとしています。……カタイ言葉ですが、“学校と地域社会を結ぶ”活動をしているということです。

学校と地域……近いようで、遠い存在ですよね。高崎市には多くの小・中・高等学校がありますが、なかなか日々の暮らしの中で関わる機会は少ないです。

今までの学校教育は“学校の中だけで、閉じている感じ”があるというか、オープンにして/連携してということを苦手としていたんだと思います。今後、「学校と地域社会が協力して子供たちを育てていく」ことは全国的に進んでいきますし、地域と学校を繋ぐ力――沼田さんのような“外部の目線”を持った方の協力も重要になってくると考えています。

沼田さんは学校の授業の中で『総合的な探究の時間(これまでは「総合的な学習の時間」と呼ばれていた)』のサポートをされているんですよね。

僕たちは『総合』の授業づくりをサポートしたり、年間計画を立てるお手伝いをしています。

国語の先生は“国語を学ぶ授業をつくるプロ”ですが、“総合を学ぶ授業をつくるプロ”ではありませんよね。『総合』の授業は、国語などの教科の枠を越えながら年間35コマ分の授業があります。私たちは多忙な先生を支援することで、「学校オリジナルの授業」ができるように活動しているんです。

具体的には、3年間の計画を立てて必要な時期に仲間づくりや目標設定のオリエンテーションを組んだり、大人の話を聞く機会や経験を後輩に伝える機会を設けたり……。

進路や進学を考えたり、修学旅行などの行事について話し合ったりするのも『総合』の時間です。とても大事な時間ですが、学校独自の取り組みなので教科書がないんですよね。効率よく、バランスよく計画を立てられれば……と悩む先生も多い時間だったと思います。

沼田さんたちと授業をつくることで、今まで単発で行っていた授業が3年間の流れを計画して実施できるようになりました。そして何より外部の目線が入ることで、『教育って、こうだよね』という固定観念が変わってきたのを感じています。

学校、そして学びも変化してきているんですね。丸橋さんの“新たな学びづくり”と、沼田さんの“新たな教育サポート”……これは編集長も含め、読者の皆さんが知る“学校”とは違う面に出会えるのかもしれません……!

今回は私たちの学校、『高北』での取り組みも、インタビューの中でいくつか紹介させていただければと思っています。地域の学校の取り組みを知ってみてください。

『高北』では『学習指導要領』を“先取り”した取り組みが始まっているんですよ!

高校1年生のうちから、インターンシップをしたり……。

えっ! 高校生がインターンシップですか? 普通科では見ない取り組みですね。

大学受験や大学選び……学びを続けていく中で「将来どんな職業に就きたいのか」を考えることは重要ですよね。「どうして勉強するんだろう?」と思った時に、今までは「大学進学のために勉強しなさい」と指導していましたが、これからはもっと先の未来を考えて欲しいと思っています。1年生の早い時期からインターンシップを取り入れたのはその為で、進学先(大学)でのミスマッチを減らすことにもつながるんじゃないかと期待しています。

大学3年生になってから将来の仕事を考えても、必要な“学び”のタイミングは過ぎていた……なんて経験をした方もいるかもしれません。遠い未来のゴールを決めて、身近な目標を1つ1つクリアーしていく。勉強の“やる気”も湧いてきそうな取り組みです!

色んな経験をしたり、大人の話を聞いてほしいと思います。高校生の彼らが働き始める2030年をイメージしながら、探究していけるような探究型インターンシップ。その中で、「あんな人/職業になりたい」という将来像を見つけることができれば、高校3年生の最後まで、あきらめずに勉強することができるんじゃないかと思うんです。

2人が語るのは、教育に関わる子供たちの“未来”の話。沼田さんと丸橋さんの取り組みがどう地域と結びついていくのか……私たちの暮らしの中にある“学びの場”をイメージしながら聞いてもらいたい。変化している教育の世界、同じ地域で暮らす私たちにとっても、無関係ではいられないテーマだ。

原点の探究

学校の中で、そして学校から地域に向けて“学びの場”を広めている沼田さんと丸橋さん。彼らの教育に対する想いの源は、いったいどこにあるのだろうか? 沼田さんがNPO法人を運営する想いや、丸橋さんが校長先生として実現したい未来の話――2人の原点について、話を聞いてみた。

僕から丸橋先生へ(ちょっと意地悪な)質問です。学校の校長先生って、学校内の仕事も、学校外の仕事も物凄くお忙しいですよね。その中でも、通常の業務を超えた取り組みや挑戦をされている。どうしてそんなに、意欲的に活動されているんでしょうか?

んー、そうですね。どうしてかと言われると、“田舎の商店とコンビニの話が――”……あ、私の原点の話になるんですけどね。

(何やら面白そうな話が聞けそうな予感)

今でも目に浮かぶんですよ、地元の商店の景色が。私は吾妻の田舎出身で、家の近くには“田舎の商店”しかありませんでした。今はコンビニに行けば、パンもお菓子も様々ですが、昔は「これしかないんだけど」という品ぞろえの店ばかりでした。

僕も出身が北海道の田舎なので、そうした風景はよくわかります。

私は教員なので、安く商品を仕入れたり、品数の多いコンビニを経営したりするわけではありません。それでも『ユニクロ』『JINS』『ドン・キホーテ』を見た時の「凄いなぁ」という感動を、「自分が学校でできることは何だろう?」と置き換えて考えるようになりました。外から見た人が「この学校は凄くいいよね」と言ってもらえるような学校づくり……私(校長先生)にしかできないことがあると思い、こうした取り組みに力を注いでいます。

確かに、校長先生でなければ“できないこと”って多そうです。保護者や生徒が「学校を○○にしたい!」と思っていても、なかなか実現は難しいですもんね。

学校の中では時に“先生の視点”で教育が考えられてしまうこともあります。例えば、学校にタブレットを導入すると「生徒に使わせるのは危険だ」という“先生の目線”からみた意見が出ますが、保護者からすれば「家庭や仕事でタブレットを使うことは当たり前」だったりしますよね。

会社は「お客さんにどんなニーズがあるのか」を考えて仕事をしていますが、今までの学校教育に「生徒・保護者目線で考える機会」は少なかったと思います。もちろん、それで良い部分もありますが、これから「より変化の早い時代の中で生きる子供たち」のことを考えると……「今、どんな力が生徒に必要なのか」を探っていくことは大切なことだと思います。

丸橋さんの情熱の源は“生徒、保護者目線で教育を見つめなおした”ことにあるんですね。日々の暮らしの中から得た学びを活用する。分野を限らず大切なことだと思います。

私も沼田さんにきっかけを聞いてみたい。どうして『DNA』を始められたんですか?

僕は「大学一年生の時に引きこもりになった」というのが、自分の人生の中で大きなターニングポイントでした。高校3年間で1番仲のよかった親友から、卒業間近でしんどいことを言われたのが原因で……人間関係に挫折してしまって。第一志望校に受からなかったことや、大学で“縁もゆかりもない高崎のまち”に来たこともあって、「自分の人生、何だったんだろう」とうつ状態になってしまいました。

今の沼田さんからは、全く想像できないですね……。

学生時代って、“学校と家”しか居場所がないですもんね。限られた人間関係の衝突って、凄く絶望的な気持ちになるの、わかります。

両親からは「お前が決めた道なんだから、そこで頑張りなさい」と言われ、当時は突き放されたような思いでした。「地元に帰ってきてもいいよ」……本音はそうだったかもしれないと思えるようになったのは、大人になってからです。大学に行けないまま夏休みになり、実家に帰省。そこで迎えてくれたのは“第2の母”として僕を育ててくれた、母の友人家族でした。

僕が思春期を迎えた中学生の頃、父は単身赴任・兄弟は就職で家に居ませんでした。「息子を1人で育てることはできない」と思った母は、僕を連れて母の飲み友達と遊びにいくようになったんです。居酒屋でご飯を食べたり、一緒にカラオケへ行ったり……家族でもなく先生でもない人に、育ててもらったんですね。

今の社会に必要な関係ですね、“ナナメ上の先輩”というんでしょうか。貴重な出会いですね。

実家に帰省して、皆でご飯を食べて。きっと母は、僕が引きこもっていることを友人家族に伝えていたんだと思います。会の終わりに「しょうちゃんだったら、大丈夫だからね」と声をかけてもらいました。両親からでないその言葉は、凄く強く心に響いて……安心したんです。

ナナメ上の先輩の言葉だからこそ、自分を客観的に見られたのかもしれませんね。

そうなんだと思います。その後、アルバイトから社会復帰をし始めた僕は、仕事の中で僕が当たり前にしていたこと――ちょっとした片付けに「ありがとね」「お疲れ様」と声をかけてくれる、良い先輩に出会うことができました。普通のコミュニケーションですが、僕にとっては自分に価値を見出すきっかけ・前向きでポジティブな力になったんです。

限られた人間関係の中で挫折した僕は、そうして社会復帰をすることができました。死にたいとすら思っていた当時の自分に価値を見出すこともでき、偶然良い先輩にも出会うことができた。本当に“ラッキー”だったと思います。

ただ「僕だけが“ラッキー”だった」で終わらせたくない。これが『DNA』の活動を始めた原点です。社会との接点や人とのつながりによって、自分の可能性が開けることを学んだ僕は、「実は多感な時期である10代に必要な機会なのかもしれないな」と思い始めたんです。

ある意識調査では、日本の高校生の6~7割は「自分に価値がない」と思っているそうです。学校・家庭だけの経験では「自分自身の価値・可能性」に気づくきっかけが少ないのかもしれません。

素晴らしい考えです。沼田さん、教員になろうとは思わなかったんですか?

教員の皆さんは教育に関して本当に熱心で、1クラス40人の子供たちの成長に深く関われる仕事は尊いものだと感じています。私の父も体育の教員でしたので、そのやりがいも何となくは理解できます。いつかそんな経験を持ってみたいとは思うんですが……僕が生徒40人と関わるより、“生徒に関わってくれる人”を40人いる方が彼らのためになるんじゃないかと思うんです。「社会との接点を教えてくれる仕事」は、今までの社会に存在しませんでした。多くの子供たちに、違う自分や輝く自分を発見する機会をつくりたいんです。

このまちの教育の、最前線で活躍する2人の原点。挫折の経験やナナメ上の先輩との関わり・何気ない日常の中から得た学びなどは特別なことではなく、私たちの人生の中でも経験のあることかもしれない。丸橋さんは「原点がわかっている人は、ブレずに進むことができますよ」と教えてくれた。たまには、歩んできた道を振り返って、自分の原点を探すのもいいかもしれない。

後編へつづく

NPO法人Design Net-works Association(DNA)

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群馬県立高崎北高等学校

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FAX: 027-372-4067)

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西 涼子

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群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
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