高崎市下里見町 榛名山麓の自然と育む「食」と「暮らし」の未来について
歴史ある果樹生産地の下里見町にある花屋&カフェ『フルール・アンジェリーナ』にてインタビュー。『榛名倶楽部』の一員として食の6次化に関わる山木さんに地元地域の魅力と“この街で育むもの”についてお話を伺った。
2020.12.29
高崎市と実り
高崎市の豊かな土地
実りある街、高崎市。人・物・文化は豊かな土地に支えられ、ゆっくりと発展・成長し続けている。
立地を活かす交通網の発展、市民性の表れである文化施設の建設、昔からの“土地の恵み”であった農作物――温故知新の精神を感じながら、より“豊かな暮らし”を街の中で育てていこうとする営みがここにある。
榛名地域での“食の6次産業化”
国道406号、通称“くだもの街道”沿いにオープンする花屋&カフェ『フルール・アンジェリーナ』。歴史ある果樹生産地の下里見町の店舗にて、カフェ営業と果物加工品販売(『榛名倶楽部』)を行う山木あすか(やまきあすか)さんにインタビューをお願いした。
食の始まりである1次産業から食を活かす2次産業、そしてカフェという食を楽しむ3次産業まで幅広く“食”に関わる彼女に、地域と食を育むことについて聞いてみる。榛名山の雄大な自然に囲まれながら、街をゆっくり豊かに育てていくことについて考えてみよう。
フルーツと言えば榛名!の榛名地域・下里見町へとやってきました
旬の時期には沿道にずらりと直売所がオープンする、果樹産地ならではのお話を聞いてみようと思います~
「新しい形」への挑戦
『フルール・アンジェリーナ』
花屋とサロンが一体となった店舗『フルール・アンジェリーナ』。カフェを担当する山木さんとお花を担当するお姉さんの姉妹で経営するカフェでは、“榛名の四季”を五感で楽しむことができる。まずは山木さんに、お店の紹介をしていただこう。
「1992年に父と姉でオープンしたこのお店は、フランスの“サロン・ド・テ(SALON DE THE)”を目指して作られました。ただお茶を飲むだけでなく、何かを得られる場所――地域的に『わざわざ来てもらう場所』なので、ふらっと立ち寄られる方よりも常連さんが多いお店となっています。定期的にお花の教室やワークショップを開催していて、私たち(姉妹)はお客様と交流したりお客様同士をお繋ぎするような仕事をしています」
「お店の最大の特徴としては、『お花やお茶を売るのではなく、“お花やお茶のある生活”を提供している』ということでしょうか。お教室には女性のお客様が多いですが、意外と男性のお客様も多いんですよ。“カフェ文化”というのか、知的な議論の場がカウンターで生まれることもしょっちゅうですね。オープンから28年、自然とこんなお店になりました」
令和2年の12月には、クリスマスマーケットも開催したという山木さん姉妹。手作りのオーナメントやマナーに則ったアフタヌーンティー等、商品だけでなく体験もセットで提供する場づくりを行っている。
「お客様にはお花やお茶を『自分の生活には関係ないな』と思わずに、挑戦・練習していってもらえればと思います。毎日家でできることって僅かなことなんですが……それでも、お気に入りのカップでお茶を飲んだり、お花を飾ってみたりね。自分の世界が広がるのを楽しんでほしいと思います」
『榛名倶楽部』
『フルール・アンジェリーナ』の店内で楽しめる、山木さんお手製のケーキやドリンク。榛名の季節を映す果物をふんだんに取り入れた“地域の味”は、1つのブランドとして人気を博している。6年前より山木さんが代表として始めた「地元農家とのコラボレーションチーム」、果物加工品を販売する『榛名倶楽部』の成り立ちについて教えていただいた。
「私は以前、京都という“超ブランド地域”で過ごし『群馬・高崎・榛名』といった自分の地元にブランド力がないことを目の当たりにする経験をしました。全国的に知られていない、田舎だと馬鹿にされる……正直、悔しかったですね。その時から『何とか自分の手で、地元も負けていないと証明したい』と思い始めました」
その後、家の都合で慌ただしく帰郷したという学生時代の山木さん。「地域のことを考える余裕もなく、とにかく目の前の仕事をやっていました」とがむしゃらに頑張ってきた過去を振り返る。
「『地域のために何かできるんじゃないか』と思う余裕ができたのは、数年前からですね。東京の真似じゃない“この街の魅力”を発信していこうと思い、『榛名倶楽部』の活動を始めるに至りました。カフェ営業の中で果樹生産者の方との交流があったので、繋がりを活かして地元の果物を使ったジャムやドライフルーツなど、加工品の生産・販売をしています。私以外のメンバーは全員農家さん。作る人と加工する人の分業で、1つのブランドを作っています」
清澄な湧き水の青で榛名山の山相が写し取られた『榛名倶楽部』のロゴからは、彼女の“地元への誇り”を感じるだろう。ブランド名に「榛名」の文字をいれたことも、「手に取る人に“食の出身地”を意識してもらいたいから」とのこと。地域の良さを発見し、発信する活動が『榛名倶楽部』の仕事となっている。
「榛名には多くの美味しい果物があること、果樹の歴史が長いこと、綺麗な湧き水があること――市民の方でも知っている人が少ない“榛名の良さ”を、『榛名倶楽部』の商品を通じて気付いて欲しいと思っています。まだ活動を始めて5年ちょっとですが、カフェでの蓄積を活かした手作りの商品を楽しんでもらえればと思います」
TVでも取り上げられた『榛名倶楽部』の商品は、「フルールアンジェリーナ」店内や高崎OPA1階「高崎じまん」等で購入が可能です♪
他にも「高崎芸術劇場」のドリンクやスイーツ等でも『榛名倶楽部』の味を楽しむことができますよ~
高崎市で育むもの
地域が作る商品
『榛名倶楽部』の始まり、きっかけとなった想いを話してくれた山木さん。続いて伺ったのは、現在までの活動で感じたことと今後の展望について。高崎市の6次産業事例としても注目したい『榛名倶楽部』の活動は地域をどのように盛り立てていくのだろうか。
「最初は小さく始めた『榛名倶楽部』でしたが、生のフルーツと違って日持ちのする加工品は地域外の方にも求められていたんでしょうね。おかげさまで需要も年々右肩上がり、商品も増え事業の幅が広がってきました。高崎市の政策『6次産業化等推進事業』にも後押ししていただいて、市が主導の催事や海外市場への販売にも挑戦しています。販売の中では悔しい経験もたくさんしましたが、挫折があったからこそ勉強になったんだと思っています」
榛名のブルーベリー・梨・桃・梅など地域の多様な果樹を活かした味と、贈り物としても活躍できる洗練された見た目。人気商品への道をスムーズに駆けあがっていったように思われる『榛名倶楽部』も、様々な壁に当たってきたという。
「『高崎は梅が有名なの?』『高崎、榛名ってどこ?』……催事に出展する度、『こんなに説明が必要なほど、知られていないのか!』とうち砕かれました。持って行った商品の大半を持ち帰っては、カフェのお客様に慰めていただいたりね。その中で、『榛名倶楽部』の商品は大衆的に量販するような商品でないことや、丁寧に説明してファンの方に買っていただく商品だということがわかってきました」
「お客様とコミュニケーションをとって、売る――効率の悪い商売と思われるかもしれませんが、積み重ねた結果が販売に繋がるのは嬉しいことだと感じています。ネットで注文いただいた方にも1人1人丁寧にお手紙を書いて発送するようにしています」
山木さんが売り手の、そして生産者の想いと共に売る『榛名倶楽部』の商品。心の通った商いの在り方は、『フルール・アンジェリーナ』のモットーである「お花やお茶を売るのではなく、“お花やお茶のある生活”を提供している」ことと同じ構図をとっている。
「今風に言えば、私たちはエシカルな商品を作っているんですね。地域の果樹生産者の応援にもつながるし、お客様も作り手がわかるから安心してお召し上がりいただけます」
ただ榛名地域の食を楽しむだけではない、地域に暮らす人の想いや地元のPRを美味しさに乗せて届ける『榛名倶楽部』の活動。売り手と買い手で共に価値を作っていく商品は地域内外の“人の心”を巻き込みながら、これからも成長を続けていくだろう。
地域の「自然の恵み」をPRすることは、消費者の目線を身近な地域や自然環境へ向けることにも繋がりますね!
これからの時代を見据えた『榛名倶楽部』の活躍、今後も目が離せませんっ
地域でつくる価値観
最後に山木さんが語ってくれたのは、カフェ営業と加工品製造販売2つの側面から考えた「地域で育みたい価値観」について。彼女が“受け止め手”と表現する人と地域の在り方から、未来の高崎で育てたいものを考えたい。
「これからの活動として考えていること、それは“受け止め手”の育成です。『こんな商品を作っています、こんな活動をしています』と一方的にアピールするだけでなく、商品の良さを理解してもらうような活動が必要だと思っています」
「例えば、私は以前子供向けに『ケーキ教室』をやっていましたが、その時受講してくれた子供たちは将来お菓子の道に進んでくれるなど“食”に興味を持ってくれました。自分で料理する楽しさや大変さ、食に関わることの素晴らしさが伝わったのかなと思います。『美味しい食の、美味しさがわかる人』であったり『良い商品の、良さがわかる人』といった“受け止め手”を育てる。方法は模索中ですが、そうした食の啓蒙活動もできればと考えています」
彼女の考える“受け止め手”の育成――それは、個人が価値と向き合って選択する社会づくりとも言えるのではないだろうか。何が良いのか、悪いのか。時代のスピードに流されないように、立ち止まって考えることが、今、必要とされている。
「最近では、子供たちが給食で地元の食材を知る・食べる機会が増えていると聞いています。食に触れ/学ぶ機会を活かして、農業への興味や“地元地域に対しての自信”を持ってほしい。『地元にはこんなに美味しい野菜があるんだ』『食に関わる仕事は楽しいんだ』と感じてくれる人が増えるような、活動をしていきたいです」
「その為には、生産・製造者側もスキルアップが必要だと感じます。自分の作った農作物がどんなレストランで出されているのかを知ったり、商品の品質を最高ランクまで高める努力をしたり。自分の地域や畑だけを見るのではなく、広い視野で学び追い求めなければと感じます。私は生産ができない分、“情報の伝達係”として役に立ちたいですね。安心で美味しい地元の食を、生産者・加工者・料理人・消費者……様々な立場から楽しんで触れてもらえればと考えています」
全国的な農林業従事者の減少は「人の手が入らない山」を作り出し、各地で土砂災害や害獣被害などの「暮らしの問題」へと繋がっていく。山木さんはそうした問題に対しても、地域の“受け止め手”――地域の農林業へ目を向けてくれる存在が重要ではないかと話をしてくれた。
地域の暮らしを支えるのは、この豊かな大地そのものである。同じ場所で共に暮らす私たちが手を取り合って、この街の畑に撒かれた未来への種を育てていくとしよう。
フルール・アンジェリーナ
住所:群馬県高崎市下里見町1231-1
電話:027-343-3594
営業時間 Cafe 11:00~18:00 Flower 10:00~19:00 (水曜日定休)
この記事に関連するメンバー
西 涼子
どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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