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高崎市上豊岡町 介護施設『オリジン』が支える地域福祉と豊かな暮らし

高崎市上豊岡町で介護施設『小規模多機能プレイスオリジン』を運営する、アイ・ウィッシュ株式会社代表・小池昭雅さんへお話を伺った。“地域の福祉拠点”から考えるこの街の新しい暮らしとはどのようなものだろうか。地域福祉と豊かな暮らしについて考えてみよう。

2021.10.08

幸せの在る暮らし

世代を超えた温かいやり取りを支える場所が、豊岡町にあると聞いて取材に向かいました(写真提供:小池さん)

高崎市と福祉

児童福祉、障害福祉、高齢者福祉……私達の暮らしを取り巻く福祉には、様々な分野があるのをご存じだろうか。福祉とは「幸福」を表す言葉であり、公的扶助や民間のサービス・地域の繋がりによって、多くの人が幸せに暮らせる社会の実現を目指すものだ。

わが街高崎市では「地域の支え合い、助け合いによる共生社会の実現」を目標に、近年支援窓口やサポート事業が拡充されている。社会が大きく変化し、暮らしも多様化する今。少し立ち止まって、皆が幸せに暮らせる未来を考えてみたい。

子供たちの遊ぶ声や歌う声が絶えない『オリジン』! 地域に根差した暮らしへの取り組みをご紹介します。

小規模多機能プレイス『オリジン』

高崎市豊岡町、長閑な住宅地の中にある介護施設『小規模多機能プレイスオリジン』を訪れた。老若男女問わず地域住民に愛される“地域の福祉拠点”は、アイ・ウィッシュ株式会社代表・小池昭雅(こいけあきまさ)さんが運営を手掛けている。

「福祉の仕事から学んだことを伝えたい」と、これからの暮らしと福祉について語ってくれた小池さん。豊岡の地域にできた“原点”から出発し、この街らしい幸せの探し方を教えていただいた。

元気に走り回る子供たちや子供と高齢者が共に遊ぶ姿が見られる『オリジン』

豊岡のホットな居場所を紹介します!

想いをきっかけに

福祉の現場から、想いを伝える小池さん。 まずは「活動の原点」を伺ってみました。(写真提供:小池さん)

福祉との出合い

地元豊岡地域で介護サービスの事業を始めた小池さん。「福祉を通じて生き方が変わった」と語る彼に、福祉と出合うまでのお話を聞いてみた。

「学生時代、僕には『将来、プロサッカー選手になりたい』という夢がありました。高校卒業後はクラブチームに所属して練習の日々を過ごしていましたが、突然の怪我でサッカーへの夢を断念。周りの勧めもあって体育大学に進んだものの、自分のやりたいことを見つけられないまま過ごしていました」

「ちょうどその時、長く病気で入院していたおじいちゃんが亡くなって。今まで自分のことを守り支えてくれたおじいちゃんの死は、本当に辛かったですね。『おじいちゃんに対して何もできなかった』という後悔と、自分の夢のことと……1年くらいは、前向きに生きることを考えられませんでした」

そんな時、初めて介護(福祉)の仕事を知ったという。「生前の祖父にしてあげたかったことだ」と感じ、今できることをしたい一心で福祉の世界へ飛び込んでいった。

「おじいちゃんへ素直に感謝を伝えられていたら、恩返しができていたら……という後悔の気持ちは今も変わりません。ただ、福祉の仕事を続ける中で、“おじいちゃんが残してくれたもの”を大事にしたいと考えるようになりました。それは小さい頃におじいちゃんと過ごした豊岡の地域であったり、可愛がってくれた地域の人達だったり。福祉の事業を通じて、恩返し/恩贈りができればと思っています」

事業を始めて10年、地元豊岡の街へ拠点を移転し3年。地域の中で事業を続けながら、「公民館のような施設になれれば」と高齢者だけでない福祉の可能性を模索している。

 

目線の先には、利用者さんと地域の人々の笑顔。人の温かさを実感できる場所が、ここにあります。

地域と繋がる

『オリジン』は小規模多機能と呼ばれる施設。デイサービスや訪問介護など、様々な介護サービスを複合したサービス提供を行うことができる。地域の介護福祉を包括的に支える小池さん、事業を通じて気が付いた「地域との繋がり」についてお話いただいた。

「介護の目的は『その人らしく生きることを、支えること』。目の前の利用者さんへのサービスと同じくらい、利用者さんが暮らす環境づくりが重要な仕事です。家と施設を往復するだけではない、視野を広げた支援ができないか――事業を進める中で、自然と地域のことを考えるようになりました」

利用者が住み慣れた地域で暮らし続けるためにはどうしたらよいのか、支えあえる環境づくりに必要なものは何か――介護をきっかけに、地域へと足を踏み出していく。そこで感じたのは、自身の子供時代とのギャップだった。

「『地域の繋がりが希薄になっている』とはよく聞きますが、改めてその変化に驚きましたね。僕の小さい頃は常に誰かが見てくれていて、声をかけてくれて、自分を承認してくれる“誰か”がいる場所でした。今は隣家と交流がないことも多いですし、地域の大人も子供も交流する機会がない。利用者さんのためにも、まずは分断されている地域を繋げることが必要だと感じました」

住みよい地域を目指すために、まずは地域の仲間作りから取り組んだという小池さん。『オリジン』を地域の交流拠点に活用しながら、介護のことを知ってもらう活動も行った。

「例えば『デイサービスに通いたい』という人が、実際にサービスを受けられるまでどれくらいの時間が必要かご存知ですか? すぐに行ける病院と違い、介護は保険の申請や調査に1か月くらい必要で、ケアマネジャーさんと計画書を作って初めてデイサービスに通う許可が下りるんです。困っている人がいても、すぐに手助けできるわけではない。介護サービスを知らないまま、大変な思いで家族介護を頑張っている人もいる。どこに相談すればいいのか、誰に聞けばいいのかわからないまま、地域で悩んでいる人はたくさんいます」

「施設を地域の場所にすることで、介護や福祉のことを伝えたり相談したりできる場所になれるのではと考えました。気軽に地域の仲間で助け合えるような、地域の中で繋がるきっかけ作りができたらと思います。介護サービスには専門的なものもありますが、決して特別なものではありません。当たり前のように人と人が支えあって、いい意味で介護の仕事がなくなっていけば嬉しいです」

「人と知り合って知人になって、語り合って友人になって、共に汗を流して仲間になれる」と好きな言葉を教えてくれた小池さん。まずは知人づくりから、地域の交流の芽が育っていきます…!

生き方を学ぶ仕事

施設内で運営される駄菓子屋さんでは、子供たちが自ら計算してお会計をするのだそう。大事な「社会勉強の場」なんですね。

地域で生きる 

地域と繋がる“場”として新たな一歩を踏み出した『オリジン』。介護から始まった繋がりは、多様な世代へ影響を与えることとなる。続いて伺ったのは施設の交流の場について、世代を超えて愛される街づくりのお話だ。 

「今『オリジン』には誰でも自由に使える交流スペースがあり、突然介護施設に行くのはハードルが高いと思うので、子供たち向けに駄菓子屋を営業しています。学校帰りの子供たちが買い物や宿題をしたり、迎えに来た親同士でおしゃべりをしたり。利用者さんとの交流の機会も生まれ、様々な世代が繋がり始めました」

自身も子育てをするお父さんであり、子育てしやすい会社づくりにも取り組んでいる小池さん。施設を開放することで、地域の子育て世代・子供たちにとっても頼れる場になりたいと話してくれた。

「子供たちが『自分が育った地域って、すごくいい場所だったよね』と感じてくれたらいいですね。僕はこの仕事(福祉)をしていなければ、地域のことは考えていなかったかもしれない。福祉がきっかけで豊岡の街が良くなって、ここで育った子供たちが将来社会を良くしてくれたら嬉しいです」

また、施設を開くことで生まれた“副産物”もたくさんあるという。現在、全国的な「認知症の行方不明者」が増加しており、昨年は1万7565人もの届け出があった。近所へ散歩のつもりが、帰り方がわからない――家族介護の限界や地域福祉の重要性を感じる数字に、『オリジン』の取り組みが一つの解決方法を提示している。

「認知症になることも、認知症になって外に出ていくことも仕方がないこと。本当の問題は、家や施設を出ていっても誰も気が付かないことなんですね。『オリジン』では利用者さんが散歩に出ると、地域の人や遊びに来ている子供たちが声をかけてくれます。『おじいちゃんが出ていったよ』と教えてくれるから、僕たちも利用者さんを閉じ込めたりせずに、自由に過ごすことを支えられる。地域の人と繋がれたことで、利用者さんが過ごしやすい環境づくりができています」

「長所は人を助けるためにあって、短所は人に助けられるためにあるんですよ」と小池さんは言う。その視線の先には、お年寄りに折り紙を教えてもらう子供たちや世代の異なる人たちの支え合う姿があった。私達は皆違っているからこそ、互いに支え合って生きている。当たり前でシンプルな答えだが、『オリジン』の中で強く感じた想いだった。

地域の交流拠点として開かれた場所は、介護や子育てといったなかなか相談できない悩みを打ち明けられる場になっているそう。様々な世代を飛び越えて繋がる場が、地域福祉の土台づくりに役立っているんですね!

取材時も講演の際も、「等身大の言葉」だからこそ。 熱い想いが伝わってきます!!(写真提供:小池さん)

今日を生きる

最後にご紹介したいのは、小池さんが個人的に行っているという講演活動について。「介護は生き方を学ぶ仕事です」と自身の学びを伝える活動は、どのような想いを届けているのだろうか。

「県内の高校や中学校・社会人の人たち向けに、『福祉を通じて自分が得たもの』の講演をさせていただいています。『福祉の仕事は楽しいよ』という内容ではなくて、僕たちが介護現場の中で学ばせてもらうこと――“人生のクライマックス”を迎える利用者さんが語る、人が生きるために大切なことについて伝えています」

本記事でも語っていただいた自身の経験も交えながら、仕事の中で出会った人々の想いや言葉を伝えていく。時には歯科衛生士や会社員など、福祉業界以外の大人向けにも話をするとのこと。それぞれの業界で、それぞれの暮らしで、小池さんの伝えたい想いが響けばいい。

「『死んだらお金は持っていけないけれど、ここで楽しく過ごした思い出は俺が持っていけるものだから。最後はやっぱり、人の繋がりや縁だよな』……以前施設で過ごしていたガン末期の利用者さんの言葉です。彼は自分がガンで死ぬことをわかっていましたが、僕たちも同じ。いつ死ぬかわからない人生の中では、本当に大事にしたいものを大切にする暮らしを考えなければと感じます」

「ある中学校で講演をした時には、児童から『自分を支えてくれている人に、ありがとうを言いたい』と感想を貰いました。身近な人に感謝することだったり、近しい人と話をすることだったり。高齢者に限らず、今できることをしていきたいですね」

「それが、豊かな暮らしじゃないでしょうか」と小池さんは締めくくる。人生の最後に、自分が大切にしてきたものを大切にできたという実感のある暮らし。一人では難しい暮らしの実現も、多くの仲間と一緒なら叶えられる気がしてくる。

高崎の街の地域福祉。その未来の景色にそれぞれの想いを重ね、共に街づくりをしていこう。

小規模多機能プレイス『オリジン』

住所:〒370-0871 群馬県高崎市上豊岡町64-12 
電話:027-329-6171

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この記事に関連するメンバー

西 涼子

どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。

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