高崎市の介護予防。開拓者がつなぐ地域の絆
健康都市高崎市。行政と協力して街の健康づくりを支えるNPО法人ソーシャルグッドの吉田さん夫妻を取材した。二人の専門は“介護予防”。介護と健康の間をつなぐ、介護予防のリアルな現状は一体どうなっているのか。夫婦が描く健康都市について、聞いてみよう。
2018.08.03
高崎市の健康
平均寿命と健康寿命
健康都市、高崎市。
行政と市民が協力してつくり上げる街の暮らしは、わが街きっての魅力である。その取り組みは幅広く、子供からシニアまで多種多様。のっけからで申し訳ないのだが、明るく・活力ある暮らしぶりを数字で自慢させていただきたい。
群馬県の平均寿命と健康寿命をご存知だろうか。
28年度の調査でおおむね全国平均程度、男性は約80歳で女性は約87歳が平均寿命とされている。対して健康寿命は男性72歳、女性75.2歳。二つの数値には8年~12年と大きなギャップがある。その隔たりは介護や入院の期間を示しており、健康寿命が平均寿命に追いつくことが理想的だ。
一方、高崎市の健康寿命は男性が79.8歳、女性が83.5歳。平均寿命に肉薄する健康寿命の数値は「この街では、長く健康に生きられる」という良さを伝えてくれる。
高崎市民の方はぜひ、まち自慢に使ってほしい。
※健康寿命の出し方は国と群馬県では異なる部分があります。
NPО法人ソーシャルグッド
そんな高崎市の健康づくりを支える夫婦がいると聞いて、インタビューをお願いすることにした。NPО法人ソーシャルグッドとして活動する、吉田大祐(よしだだいすけ)さんと妻の恵美子(えみこ)さんだ。
二人の専門は“介護予防”。健康寿命の延長――すなわち、“自分らしく生きる”期間を延ばせるかをミッションとしている。
介護と健康の間をつなぐ、介護予防のリアルな現状は一体どうなっているのか。夫婦が描く健康都市について、聞いてみよう。
専門用語が多くてむずかしいですね、ふー! 諦めずに、ついてきてくれると嬉しいです。
介護予防、というのは色々な意味があるそうなんですが、今回は「介護が必要のない暮らしを支える活動」としてお読みくださいませ。
介護予防との出会い
吉田恵美子さんと介護予防
明るい日差しと掛け声が交差する石原緑地。烏川をバックに市民のランニングクラブや子供たちが汗を流す。
そんな自然に囲まれた中で、ソーシャルグッドの理事長・恵美子さんのお話を伺った。彼女の出身は乗附町。緑地の側を流れる烏川と、上流で合流する碓氷川が流れる町だ。
「中学の時に、おじいちゃんの介護があって」と介護業界に興味をもった恵美子さん。専門学校卒業後は介護福祉士の資格を取り、デイサービスに勤めていた。心に決めていたのは「次の日亡くなってもいいように、笑顔で過ごせる場所にすること」。それでも、介護福祉士の力だけではカバーできない難しさも感じていたという。
「トイレに行こうよって、大人になって言われたことありますか?ないですよね。でも、介護の現場ではよくあるんです。」
足腰が弱くなると少しの移動もおっくうになる。運動の機会は減っていき、悪循環となっていた。特にトイレの問題は大人としての羞恥心と体の衰えが絡みあう難しい問題。そのズレを埋めることが必要だった。
「『そこの花を見に行きましょう』って声掛けをするんですね、『運動しましょう』でも『トイレに行きましょう』でもなく。その帰り道で『トイレがありますね、寄りますか?』と聞きます。一度歩いてしまえば、移動もおっくうじゃない。(行きやすいタイミングで)判断してもらえばいいんです。」
それでも、日々減っていく運動量に不安を感じていた恵美子さん。介護士として指導できる限界――介護前のケアである“介護予防”の重要性を意識していた。
「介護のことを考えてくれる人ってたくさんいるんですよね。だけど、介護になる前の“介護予防”については穴の空いたところというか…手を出す人がいない分野でした。介護予防を受ける人も、日々の生活で忙しく働いていたりして。どうにかしないと、と考えていたんです。」
そんな恵美子さんのもとに現れたのが、スポーツトレーナー・大祐さんである。
吉田大祐さんと介護予防
「就活の時にやりたいことが何も浮かばなくて…TVで見た野茂選手のトレーナーから、スポーツトレーナーという仕事を知ったのが始まりです」と話す大祐さん。
東京出身の彼が群馬県にやってきたのは8年前。スポーツトレーナーからケア・リハビリと分野を広げ、明和県央ラグビー部のサポートを始めた29歳の時だった。
「通っているうちに、群馬が好きになって…。」とコーチに伝えたところ、リハビリで有名な日高病院系列の介護会社を紹介してもらったという。デイサービスやシニアトレーニングジムを経験しながら、スポーツと介護の在り方を考えた。
「僕のいた会社から(恵美子さんの)デイサービスへ派遣されていったのが、出会ったきっかけです。『なにかリズムを付けた形で、体が自然に動いてしまうものを』とリクエストを受けて。1時間のプランの中で、集団での運動と個人指導をお伝えしていました。」
スポーツトレーナーと、介護士。異分野ながら、目指す目的は一緒だった。
「介護を受ける前に、力になりたい。」介護予防という新しい分野の中で、互いの背中を預けあうことを決めた。
「必要としている方のもとへ出張型で運動指導をしに行く…普通の人ができない、誰もやっていないことをやりたいねって設立したんです。」
さりげな~く、お二人のなれそめを聞いてしまった編集長。真面目な顔して聞きながら、内心キュンとしておりました。
さぁいよいよ、吉田さん夫婦の活動が始まります…!
一人でできないことも、二人なら
「よいじゃねぇのぉ」と笑い声。県民なら耳慣れた上州弁が飛び交うのは、高崎市シルバーセンター田町。月3回、運動指導の大祐さんが無料で講師を務める受託先の一つだ。
参加者の多くは元気なシニア世代が中心で、体より口の方が動くほど。県下の上毛新聞が取材に入った際にも、参加者に一番印象に残ったことをきけば「先生が面白かった」と答えてくれた。
「(印象に残ったことが自分、というのは)いいのかなぁと思いますが、面白かった先生が言っていたことを思い出してもらえれば。疲れたけど、楽しかった…そういう記憶が運動習慣をつくると思っています。」
「受ける側、市民の意識も結構変わってきていますね。公民館でも講師をすることがありますが、年々参加者が若くなっています。70歳前半の方とか、女性で50代の方もいらっしゃいました。」
ソーシャルグッドの活動は、公民館やシルバーセンターでの運動指導にとどまらない。シニアだけでなく、子供の運動指導や発達障害を持つ子供たちの「放課後デイサービス」も行っている。運動が苦手な子向けの活動「うごキッズ」は大人気の企画で、「ガチ ケイドロ」や「ガチ 鬼ごっこ」など、楽しむことが目的だ。
「鬼メイクをした大人が本気で追いかける役で、子供が逃げる方で。ボランティアの中学生も交えて100人くらいで鬼ごっこをしました。楽しんで参加すると、絶対に走ることになるんですが…本人は『運動している』っていう意識ではないんです。だから、運動が苦手な子でも楽しんでやってくれました。」
鬼ごっこ、ケイドロ…子供の頃に遊んだ記憶を思い出す。夢中で追いかけ、逃げ、隠れ。気が付いたら日暮れになって、慌てて帰るのが常だった。今は運動をしていない人や苦手だという人も、不思議とそんな思い出はあるのではないだろうか。無尽蔵に走り回ったエネルギーは、“おもしろさ”から湧いてくる。
インタビューの合間にも、公園では “チーム”や“友達同士”で体を動かす様子が見られた。一人で黙々と行う運動もあるだろう。しかしそれ以上に、仲間と体を動かし遊ぶことは心が弾む。心身共に筋肉がついてゆき、のびやかに成長することができる。
スポーツトレーナーの大祐さんと、介護士の恵美子さん。一人と一人の想いから、二人でしかできない活動を続けている。互いの専門分野を持ち寄り、チェックし、広めていく…こうした市民の活動が行政と力を合わせ、高崎の“健康”は支えられているのだ。
ソーシャルグッド
私たちがつくる健康
高崎における“介護予防”のパイオニア。誰も通ったことのない道ならではの苦悩はあったのだろうか。
「社会性が高い、というのは良いことも、悪いこともあります。」
ぽつり、と恵美子さんが話をしてくれたのは、先駆者だけが見えるリアルな景色だった。
「ボランティアが“当たり前”の世界では、なかなか“当たり前”の金額がでてきません。(サービスを)やっている人は賃金が上がらず、生活ができないと諦めていく…。(人命に関わる仕事なのに)専門家でない人に頼んでしまうお客さんもいます。」
「先にも言いましたが、介護は保険が使えるのでサービスをする側も、受ける側も積極的です。でも、介護予防をしていかなければ、保険料の負担はどんどん増えてしまう。『まだ必要ないでしょ』って思うお客さんの意識も変えていかなければいけないし、指導者不足も問題です。」
問題は山積みでも、必ず、必要とする人がいる――様々な分野の開拓者たちは、同じように未来を見つめて一歩一歩進んできた。開拓する土地の固さに、なれない鍬の重さに、それこそ血の滲む努力があっただろう。
吉田さん夫婦もまた “介護予防”の土壌を少しずつ切り開いている。それは、介護の現場にいた二人だからこその決意だった。
「今は、できるだけ色々な人に知ってもらうことから始めています。生活ができるような仕組みができれば、職業として成り立てば、広める人も受ける人も増えていく。そんな流れをつくっていきたいんです。」
介護予防という分野が、事業として私たちの生活の中で“当たり前”になっていくか。その土壌をつくるのは吉田さん夫婦だけではない。私たちの手で、つくらねばならないものがある。
これからも高崎で暮らしていくために。
「しなければいけないのに」取り組まれないことってありますよね、あると思います。
先陣を切るひとは、強風に立ち向かってくれている…後を進む私たちにできることって、なんでしょうか。
現在の介護予防って?
行政として、高齢者安心センター(旧 包括支援センター)が介護予防についての相談を引き受けています。現在のスタッフは保健士とケアマネジャー。医療分野以外(運動指導・健康増進)の専門家はいないのが現状です。
まだまだ元気な人に対しての活動である介護予防。個人個人の意識をどこまで変えられるのか、今後の暮らし方はこれからの私たちにゆだねられています。
私たちがつくる社会
最後に、吉田さん夫婦に活動のこだわりを聞いてみた。
「その人の人生に入り込んでいきたいな、というのがあります。」と大祐さん。運動指導の場では積極的にコミュニケーションを心掛けている。
「よく、目標と目的の話をするんですが、『歩けるように元気になりたい』という目標はたくさんの人が持っているんですけど、『歩けるようになりたい目的』って全員違うんですよね。例えば、『孫に会いたい』とか『山登りしたい』とか。大人も子供もそうで、かけっこの練習は皆が一番になりたくて走っているわけじゃない。その人に合った声掛けと提案で、運動を続けていくことが大事なんです。」
「そして何より、その人らしい人生をサポートすることが、僕たちの目的です。今は運動をメインのツールとしてやっていますが、数年後には別のアプローチもしているかもしれない。分野が広くて固まっていない分、ハブとして皆さんを繋げていきたいと思います。最終的には、ソーシャルグッド(社会を良くすること)を目指しているんです。」
その言葉通り、現在は運動や健康という枠に限定されないソーシャルグッド。「地域づくりなのかな」と恵美子さん。街づくり、地域づくりとして助け合う人と人との絆を生み出しているという。
「運動するきっかけがコミュニティを作って、地域の方が主導で運動したり旅行をしたり。ただしい運動方法や効果的な介護予防を知っていただいて、地域で助け合っていければいいですね。」
一人から始まった活動は、二人の力となった。同業者とも協働しながら、高崎の未来を作っていく。
「ファイト!」と掛け声が響く公園。次に走り出すのは、私たちの番だ。
特定非営利活動(NPO)法人 ソーシャルグッド
住所:群馬県高崎市寺尾町2496番地1号
連絡先:027-381-8089 / info@social-good.jp
※活動情報はHPまたはFBをご覧ください。
この記事に関連するメンバー
西 涼子
どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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