高崎市山名町 「おすそ分け」から始まった、農業の6次化が生む地域の繋がり
高崎市山名町の『堀越ファーム』にて、代表の堀越さんへインタビュー!養豚業を営む傍ら、地域イベントの企画や子ども食堂の運営に関わる堀越さん。農業の6次化を通じた“地域の魅力を繋ぐ”取り組みについて、実践者の想いをお聞きした。
2023.07.27
高崎市と農業
高崎市の生活を支える農業。野菜と畜産が共に盛んなこの街では、地域で採れる食材を活用した魅力発信に力を入れている。地産地消という言葉はメジャーとなり、活用する飲食店や一般家庭も増えてきた。
最近ではさらに一歩踏み出して、地域の素材を合わせた商品が開発されるなど、“地域の魅力を繋ぐ”コラボレーションも増えている。
『堀越ファーム』
今回訪れたのは、高崎市山名町。藤岡市に養豚場を持つ『堀越ファーム』の代表・堀越勝徳(ほりこしかつのり)さんへお話を伺った。堀越さんは一人で養豚業を営む傍ら、自ら育てた豚を加工した豚肉加工品の開発や販売を手掛けており、生産者や飲食店とのコラボレーションを積極的に行っている。
また、堀越さんは南八幡地域のイベント『なんぱち縁起市』の運営や以前当サイトでも取り上げた子ども食堂『こちら、学校前食堂』の経営にも携わっている。こうした地域との関わりは「商品作り」がきっかけだったそう。農業の6次化を通じた“地域の魅力を繋ぐ”取り組みについて、実践者の想いをお聞きした。
久しぶりの取材記事もまた、美味しそうな話題からスタートです。「がまえ食堂」のジューシーなハンバーグ、ぜひお召し上がりくださいね!
(これまでの記事と繋がる取材、編集長の密かな楽しみなんです)
「おすそ分け」から始まった商品開発
『堀越ファーム』の代表であり、『群馬県JA養豚団体連絡協議会』の会長も務める堀越さん。まずは養豚農家としての歩みをお聞きした。
「人生で初めて豚を見たのが15年前。結婚をきっかけに妻の実家の養豚業を継ぎました。それまでは営業職や料理人など、様々な業界・業種の仕事をしていましたね。働くことが好きな“仕事人間”なので、養豚農家になった当初は一人黙々と仕事に熱中していました」
「ファームでは豚の健康を第一に考えた飼育環境を整え、数種類のハーブを加えた餌や薬剤使用を抑えた飼育方法で育てています。特に自社加工品等では厳選したメスの豚の肉を使用しており、肉のキメの細かさや柔らかさが好評です。肉を使ってくれている飲食店さんからは『豚の脂からハーブの香りがする』と言われます」
肉質を追求し、アニマルウェルフェアに対応した飼育へ力を注ぐ堀越さん。農業を始めたことで生まれた「思わぬ悩み」が、事業に変化をもたらしたという。
「養豚農家として働いていると、知り合った農家仲間の方から“おすそ分け”をいただくことが多くて。採れたての野菜をもらった時に、お返しするものがないことに困っていたんです。養豚農家って自分で肉を解体するわけじゃないから、自分が育てた豚を手に入れることが難しいんですよ。豚は出荷元を混ぜて部位ごとに市場へ出るので、自分の育てた豚をおすそ分けするために“一頭丸ごと”買い戻す必要がありました」
「同時期に、県内の養豚農家仲間とイベントを企画する話がでて。肉の加工ができる仲間がいたので、買い戻した豚を試しにポークジャーキーにしてもらったんです。正直、これまで食べたどのジャーキーよりも美味しくて驚きましたね!知り合いのお店にも置いてもらいましたが、『“豚”のジャーキーって珍しくて美味しいね』と人気で……そこから、自社商品の開発が始まりました」
商品が繋ぐ人の縁
「おすそ分け」に原点を持つ堀越ファームの商品。現在はポークジャーキーだけでなく、ソーセージやベーコン、肉味噌などが展開されている。
「自社商品を持っている養豚農家は珍しく、商品ができたことで色んな所に呼んでもらえるようになりました。お肉を使いたいという飲食店と繋がったり、イベント出展をきっかけに色んな人と出会ったり。肉の加工は榛東村やみなかみ町、上野村などでお世話になっているので、商品作りでも県内各地を行き来しています」
「自分の商品が出来たことで、地域と繋がり始めたんです」と語る堀越さん。商品を作る前には想像もしていなかった出会いが、これまでの活動に大きな影響を与えてきた。
「様々な人と話をする中で『さっきの話にこの人が参加したら楽しそうだな』とか、『この人の困りごとを解決できる人を知っているな』とか、色んな事が繋がるようになりました。その内の一つが、2018年から山名八幡宮の境内で開催しているマルシェイベント『なんぱち縁起市』です。『地域でイベントをしたい』という人に出会ったことをきっかけに、自分の住む地域の人たちと一緒に企画を立ち上げることになりました」
当時は「上野三碑」が「ユネスコ世界の記憶」に登録される前。「将来の観光客が気軽に楽しめるように」と、マルシェイベントを月一で開催し続けてきた。
「素人ばかりの集まりで、最初はソーセージを焼いて販売するのが精一杯でした。ただ、地元の皆さんのご協力もあって徐々にイベントは盛り上がり、今では多くの参加者や出店者が来てくれています」
「コロナ禍で2年間休止して、2023年の春に再開。今は隔月開催で、無理なく続けています。出店者のバラエティーも増えて、飲食や雑貨、美容、野菜といった販売だけでなく、音楽やダンスなどのステージイベントもあるんですよ。大事にしていることは、誰でも参加しやすい“ゆるさ”ですかね。色んな人がイベントを通じて、新たな挑戦ができたらうれしいです。俺自身、『なんぱち縁起市』をやることで地域の人と繋がって、新商品が生まれたり事業がブラッシュアップされたり……パワーアップする連鎖が続いていることを感じています」
「実は2年の休止期間、一人縁起市を続けてました」と衝撃の事実を教えてくれた堀越さん。「一度途切れてしまうと再開できないのではないか」という想いから、毎月コッソリお肉の販売や小さなイベントを試し「抗っていた」そうです……!
自分も楽しく、相手も楽しく
堀越さんは以前当サイトで紹介した「こちら、学校前食堂」の運営や他地域でのフードバンク活動にも取り組んでいる。
「ポリシーではないけれど、大事にしていることは2つ……一つは『職務を全うすること』で、もう一つは『目の前の何かを“もう少し楽しく”すること』ですね。事業やイベントに対して大きなビジョンは作っていなくて、例えば『来月の縁起市を“もう少し楽しく”するにはどうしよう?』とか、『次回の商品開発を“もう少し楽しく”やるには誰とやろう?』ということだけを考えています。実際、来月(2023年8月)の縁起市では『真夏の肝試し』を開催しようと思っていて、商科大学の学生さんに声を掛けて一緒に企画を動かしています」
「真夏のイベントを“もう少し楽しく”するために、夜開催を楽しむイベントを考えました」と話す堀越さん。「予算の範囲内で好きにして!」と大学生に企画を任せ、参加する学生が楽しく経験を積む場を提供している。
「自社商品の開発も生産者やお店とコラボレーションして作ることが多いのですが、その際も『互いにメリットがある提案』になるよう意識しています。一方的なお願いは、する方もされる方も嫌だから……自分が楽しく、相手も楽しい方法でやりたいことをやっています」
初めての養豚業を15年、手探りで始めた『なんぱち縁起市』を6年。誰にとっても楽しいことを大切にする堀越さんの価値観から、「物事を長く続けるコツ」を教わりました。
“もう少し楽しく”を積み重ねた先に
最後にお伺いしたのは、これからの活動について。堀越さんが考える「未来の地域について」もお話を伺った。
「これまでは色んな活動を自分が動かしてやってきました。これからは少しずつ、色んな人に譲っていくことが目標です。加工品販売を他の人に任せたり、イベント運営の中心を次世代へ移したり。仕組みを考えて回すことが好きなので、これからも続けていけるような形を模索したいと思います」
イベントへお客さんがたくさん来てくれた時の高揚感や、地域の人たちが笑顔でおしゃべりしている様子を見た時の幸福感が、何度も堀越さんの力になってきたと振り返る。「皆で企画して作るって楽しいんですよ……いや、俺は最後に楽しく打ち上げがしたいだけかもしれないけど」と笑って話す堀越さんだからこそ、多くの人が自然と一歩踏み出す力を貰えるのだろう。
「俺は未来の『なんぱち縁起市』が、“優しさ”だけで運営されるようになったら面白いんじゃないかと思っています。すごいイベントは専門の人がやればいいので、地域のイベントは関わる人たちが善意で作って楽しめたらそれでいいかなって。まずは目の前の人に楽しんでもらって、皆で少しずつ楽しいことを積み重ねていく。そういうことが『未来の楽しい地域』を作っていくんだと思いますよ」
地域や街は、誰か一人の手で作られるわけではない。この街に暮らす私たちが少しずつ、時間をかけて積み重ねながら作っていくものだ。そんなことに想いを巡らせながら、「これからの高崎」を作る日々を楽しんでいこう。
『堀越ファーム』
連絡先:horikoshi.farm1129@gmail.com
Instagram:@horikoshi_farm
食べチョクページ:https://www.tabechoku.com/producers/25962
この記事に関連するメンバー
西 涼子
どうも、こんにちは!
群馬県でフリーのライターをしている西(編集長)です!
地域を盛り上げる力は市民から!ということで、
イチ高崎市民の目線から、高崎市の魅力を発信しています。
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